第8話 『人の声じゃなかった』
澄み渡る青い空、『大樹の森』から少し離れた場所にあるこの村は、いつも以上の熱気に包まれていた。
「号外! 号外だよ~!!」
そう言いながら一枚の紙を配りまわる者がそこらじゅうにいる、その紙を見た者は口々にこう言った。
「おいおい、マジかよ……」
村人達を驚愕させたその紙にはこんな事が書かれていた。
『カンナル山脈で風龍復活の前兆!!』
と。
そしてその記事を周りの大人より熱心に読んでいる少女が一人、
「風龍が復活!? そんな事起きたらまた世界が混乱期になっちゃうよ!」
と、叫ぶように喋っている少女の名は『トライル・トナ・ダネ』ちなみに名前は『トライル』、この国での名前の表記の仕方は『名・氏・出身地』となっている。
つまりここの地域名は『ダネ』、この村は『ダネ村』と呼ばれている。
そして私は『トラちゃん』と呼ばれている。え、そんな事どうでもいいって? ……ごめんなさい。
…と、こんな事考えてる場合じゃなかった。お父さんにも教えないと!
「おとうさ~ん!!」
そう言いながらレンガ造りのそこそこ立派な家に入る私、え? 自画自賛? 私ソンナコトシナイヨ。
玄関を通ってお父さんの書斎に入ると何時も通りお父さんが魔導音声受信機『ルールー』を机に置いて通信省の放送を聞いていた。
私はそれどころじゃないと言おうとして止めた、今から私が言おうとしていたことが流れ始めたからだ。
『速報です。今朝未明、カンナル山脈にて大規模な龍脈の発生、及び乱れが観測されました。カモネーラ魔導学院の研究によりますと、「数年中に風龍が復活する前兆である可能性が高い」とのことです。この件に関して専門家からは・・・・』
ルールーの放送がひと段落ついたところで父に急いで話しかける。
「お、お父さん! 私達どうなるの!?」
と鬼気迫る勢いで話しかける私とは対照的に随分とマイペースに返答してきた。
「なんだトライル、いたのか」
「いたのかじゃないよ! 風龍が復活するかもしれないのよ!?」
「別に今スグって訳じゃないだろ・・・・それに人間でも龍人族でもなくてまして
や大魔導師でもない俺達にゃ何もできねぇんだから慌てるだけ無駄だ」
そう無愛想に言う父親の言葉に少しむっとなる私、しかし父の言ってることは正しい。私達『
「そりゃそうだけど……」
言われるだけでは悔しいので反論しようとしたらトドメをさされる。
「おい、そんなことよりゲンナの手伝い行ってきたのか?」
「……え?」
「お前……今頃腹空かして倒れてるかもしんねーぞ」
「忘れてたぁぁぁぁぁ!!」
私はゲンナという幼馴染の男の仕事の手伝いをしている、ちなみにお互い15歳、事務系はともかく力仕事は足腰の強いホーガならこの歳からでも普通に出来る、まぁ女の私は流石にできないが、ゲンナが木こりの仕事を始めてから遊び相手がいなくなって暇だったので毎日飲み物だの昼食だのを持って行ったりして、休憩時間に話してたりしていたのだが号外に気を取られて忘れていた。マズイ、非常にマズイ、あいつは私が昼食を用意するようになってからは斧以外何も持ってこないようになっていたのだ、つまり私がいないとまともに休憩もできない。
「ゲンナァァァァァァァ!!」
また叫びながら走っていく娘を見て父は思った、
「(もう少し女らしくならないものだろうか)」
と、
――――――――――――――――――――――――――――――
太陽が少し傾き、昼を過ぎた頃、大樹の森と呼ばれる森の中で一人の少年が地面に寝そべっていた。
「おせぇ……」
彼の名前は『ゲンナ・サイ・ダネ』、今は幼馴染のトライルを待っているところだ。何時もなら朝には来るのに昼過ぎになっても来ない、だからといって食事をとりに帰ったら今日の仕事が終わらない。しかし休憩は入れないと体がもたないので一応ころんでいた。
「ごめんゲンナ! 大事件があって―――」
「遅い!!」
「ひっ!」
「ずっと待ってたんだぞ! 早く飯出せ!」
「え? あ、はい!」
「ずっと待ってた」という言葉を聞いて可愛いなと思いながら弁当と水筒を手渡した。
そして水を飲み弁当を食べながらゲンナが私に
「号外が配られててね、なんだろうと思って読んでみたら物凄い内容だったから」
「どんな内容だったんだ?」
「風龍が復活するかもしれないって」
「ふ~ん、そりゃ大変だな、まぁお前が遅れたのもわかるよ」
「なんでそんなに軽いんだよ~……」
「だって俺たちにはどうしようもないだろ?」
「お父さんと同じこと言う…」
まぁこう雑談をしているといつの間にかゲンナは食べ終わり斧を手に取っていた。
「うーーん………よし、はじめるか」
「頑張れ~」
そう言うとゲンナは斧で木を切り始めた、少し鈍い音で『コーン、コーン』と定期的に音が鳴り続ける。私がいつのまにか好きになっていた音だ。
そして
「お~い、倒れるぞー。離れとけよー」
そう言い終わる頃に木が倒れ始めた、私はもとから木が倒れてくる範囲外に座っていたので木が倒れる場所を見つめていた。
そして木が倒れると一瞬砂埃が舞い、次の瞬間にそこから姿を現したのは何時も通りゲンナ……だけではなかった。
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