『旅 ―機械と人―』より
「岩の大国 ビッグオーガン」
幾度も国を巡り回ってきた私が思うに、その国は大変栄えていた。資源を獲得できる山を有し、衣食文化に優れている。煉瓦で建てられた建物は御伽噺の世界に迷い込んだような錯覚を覚えるぐらいだ。
かつて出会ったある少年が、この国を大変賞賛していた理由がよく解る。私が知る限り、ここまで文明を維持した国はないだろう。進化こそないが、退化もない。地上の最後の楽園、と称するのもやぶさかではない。
また、資源が潤沢だからこそ、この国では
私は愛機であるMHM――原動機付二輪車――を使い国の中を回ったが、数日を要した。勿論、道路の整備が不十分な場所が多かったりしたのも原因だが、何よりも国自体が大きいのが一番の原因だろう。大国と国民が誇るのも無理はないだろう。
先程、衣食に優れたと記述したが、それの最たる例は珈琲などの嗜好品だろう。人が必ずしも食さなくてもいい、贅沢品を提供する店があるのはこの国が初めてだ。それほどこの国は栄えており、私はそこで人生初の珈琲を嗜んだのだ。それでいて価格が安いのだから、ここで永住しても悪くないと思えた。
私の国での平均寿命は40代後半であった。過去の資料を見る限り、この寿命はあまりにも早く、私の国がいかに技術が低いかと思ってしまう。対しこの国は、60代が寿命平均と聞くから驚きだ。それを聞いたのは、この国一番の長寿であるレイグ氏だ。入国の際にお世話になった人で、軽快な笑いが特徴的な人格者である。
治安部隊の隊長であり、私がある場所で出会った女性の上司と聞いて驚いた。数年前までは元気だったらしいが、現在は腰を壊してしまったらしく、杖を突いての生活をしているようだ。MHMも扱えないらしいが、それでも不動の鬼教官として活躍している。彼もまた三年前に彼らと出会っていた。不思議な縁もあったものだ。
素晴らしい国であった。この国から離れるのも躊躇われるぐらいに。だが、私は旅を続ける。この先にもある国を見て回りたいのだ。
素晴らしき岩の大国、ビッグオーガンよ、さらば。機会があれば、いずれこの国へ戻ってきたいものだ……。
(追記)
最後の楽園であった。そして人類の希望の国がこの国であった。
最東の富国ビッグオーガン。私がこの国で本を出版する意味を、読者の方々には考えてもらいたい。
『旅 ―機械と人―』
著 ライト・アルト
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