第4話 通院

 奈美がバスに乗るのを駅から確認した後、僕はアパートへ戻る。

 歩きながら、奈美と出会う前のことを思いだしていた。


 アルバイトを転々とした、その日暮らし。

 ある程度、コミュニケーションがとれる頃になると、人との距離感が縮まることが怖くなる。

 そこで辞めてしまうのだ。

 関わらないことが一番良いのだ、僕はそのことを理解している。

 心に蓋をするだけ…望まず…願わない。

 今日…今…をそのまま受け止めて、後ろへと流す。

 その繰り返しで今日は自然と明日に繋がり、そして明日は今日になる。


 …………………

離人りじん現実感喪失げんじつかんそうしつ症侯群しょうこうぐん

 医師はユキにそう告げた。

「はぁ…」

「キミの場合、病名をつけて診断するならそうなるね」

「空虚感がですか?」

「いいや…キミは風景や、たとえばこのコップを見てもなんとも感じないだろ?」

「コップですか…確かに何も思わないですけど」

「うん。コップを見ても何も感じないんじゃないんだ…キミは何を見ても何も感じないんだよ…鉛筆が折れることも…自分の指が折れることも、キミの脳は等しく処理してしまうんだ」

「そんな…ことはないでしょう、たぶん…」

 とは言うものの、自信が無いのは事実だ。

 図星とは言わない、けど、そういうところはある。

「今は…そこまで深刻じゃない、だが今のまま生活していれば、いずれはそうなりかねないということだよ」


 診察室を後にしても、漠然とした不安が付きまとう。

 不安感があるだけ僕は、まだ大丈夫だと思っている。


 病院からの帰り道、通りかかった花屋で、僕は奈美に出会った。


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