もしも刻を戻したならば……
桜雪
第1話 Time for meet again
駅を降りて、公園を横切る。
住み慣れた田舎と違い、都会の空気が肌に馴染まない。
今日から、この街で暮らすことになる、早く慣れなければ。
とりあえず、駅の周りをウロウロ…ウロウロ…北口?西口?出口がいくつあるんだよ…。
駅に入ったり…出たり…バスの時刻表も何本立っているんだ…私は都会の生活に馴染めるのだろうか。
まずは…駅から病院までの路を確認しなければ…通院できなければ引っ越した意味が無い。
アパートは病院の近くだったはずだ…病院まで行ければ、なんとかなる…はず…。
で…どこからバスに乗ればいいやら解らずにウロウロ…ウロウロ…。
『…病院行き』
あった! やっとの思いで見つけたバス乗り場、時間は…外していた腕時計をポケットから取り出す。
ポロッと指から滑り落ちる腕時計……バスがカシャンと踏んづけてしまった……。
「あっ…あ~…」
無情に通り過ぎるバスが通り過ぎた後、腕時計を拾うが…ガラスとバンドが壊れてしまった。
はぁ~と大きなため息をつき、ベンチに座り込み、腕時計を眺める。
「大切にしてたのに……」
慣れない街で、独りなのだと今さらながら寂しさが込み上げてくる……。
(逢いたいよ……)
(誰に?)
(………………誰……………に………)
なぜだか、涙が溢れだす。
うつむいている私に、
「貸して……」
白い手が差し出された。
私は、黙ってコクリと頷いて腕時計を渡す。
「えっ?」
なんで私…腕時計を渡したの?
隣に座った青年。
その白い手の先を目で追うように、顔を確認する。
20代半ば、やせ形、色白…線の細い男性。
青年は腕時計をギュッと両の手で握って、静かに目を閉じた。
青年の白い手がボンヤリと明るく光る。
不思議と懐かしいような温かい光…私は、この光を前にも見たような気がした。
とても落ち着く…還るべき場所のような温かい光。
「はい…どうぞ」
青年が腕時計を差し出した。
「うそ…」
腕時計のガラスもバンドも元通りに直っている。
「大事な時計なんでしょ?」
ニコリと笑う青年。
「はい…とても…」
「そう…よかった…」
笑顔が少し影を帯びたように暗くなった気がした。
寂しそうに…悲しそうに…辛そうに見えた。
「相変わらず…ドジなんだね…奈美」
「えっ?」
小声でよく聞き取れなかった…でも、この青年は私の名を呼んだ……。
「じゃあね…」
青年は、立ち上がると私の前を横切っていく。
「あの……」
「ん?」
「あの…ありがとうございました…コレ…」
と腕時計を見せる。
「うん…落とさないでね…大切なものなら、もう2度と落としちゃだめだよ」
またニコリと笑う青年。
そのまま立ち去って行く。
(名前…確かに奈美って言った……)
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