亡霊は魔王の娘の健康を気遣う

「ごちそうさまじゃ。美味であったぞ」

「ありがとうございます」


 『彼ら』との食事を終え、ベラナベル様は満足げに盆と食器を返しに来られた。

「童たちにも好評であった。お主の料理は子供にもよく受ける」

「ベラナベル様も子供のようなものだと思いますが」

「無礼者め! これでもわらわは20を越えておるぞ!」

 そうは言ってもベラナベル様の外見は完全に子供である。それと、年齢で言えば、我は数十か、あるいは数百か。我にとっては、10も20も誤差のようなもの。


「しかし、我はまだベラナベル様の実年齢を教えて頂いておりませんが」

「ふん、女子おなごの年齢を問うとは、配慮のないやつめ」

 若く見られたいのか、年増に見られたいのか。生前も鍛錬ばかりで浮ついた話の無かった我には、乙女心はさっぱり分からぬ。


「では、そろそろ戻る」

「はい。また夜に」

 ベラナベル様が我に背を向けた時。

 きゅるるるる、と、ベラナベル様の腹の虫が鳴った。


「……ベラナベル様?」

「な、なんじゃ?」

「もしや、自分の分まで全部あげてしまったので?」

「全部はやらん! せいぜい半分くらいじゃ!」

「…………」

「……あっ、いや、その……ほ、ほら、わらわは事前に味見もしておったしな?」

「味見はほんの一口だったでしょう」

「わらわが童達にやった分も、一口きりじゃ」

「十一人全員に、一口ずつでございますか?」

「……贔屓をするわけにはいかんからの」


 ベラナベル様は、魔王の娘としてはいささか優しすぎる。

 褒められるべき事でもあるが、もう少しご自愛くださってもいいものを。


「時間がかからない物しか出来ませんよ。塩焼きでいいですか?」

「かたじけない」


 ベラナベル様は本日二度目の朝食を採られた。

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