第30話ビーストハンター 第3話 「帰らざる波止場 」(9)

 ジャーダンのメンバーを追っていたジョーが岸壁に着いた時には、もうすでに銃撃戦は終わっていた。

「ちっ!遅かったか」

 ジョーは撃たれて倒れている建勝を抱き上げたが、すでに出血多量で息も絶え絶えの状態だった。

「チ・エ・コ…チ・エ・コ…」建勝はうわごとのようにそう呟いて息絶えてしまった。

「まだ、ヤツらはそう遠くへは行ってないはずだ…追うぞっ!ボルテ」

 ジョーは、ボルテにそう言うと、さっと武装サイドカーに飛び乗った。

 ブォ~ッ!ブォ~ン!…B.M.W2000C.Cのエンジンが唸りを上げ、サイドカーは矢のように走り出した。


 建勝を殺ったジャーダンの殺し屋たちは、ボスがヒジリに狙撃されて殺されたのも知らずに車を走らせていた。

(裏切り者は始末した。ボスが聞いたらさぞお喜びになるだろう)彼らは、郭龍源に得意気に報告するつもりでいた。

 だが、その頃ネオ東京では、警察と民間警備会社の合同によるジャーダンの一斉摘発が行なわれていた。

 抵抗する犯罪者は容赦なく射殺する…ビースト法の下で行なわれる捜査の執行は、人間狩りと言った方がよかった。

 そんな事が起きているとは知らない殺し屋たちは、荒れ果てた海岸道路を、ひたすら黒いセダンを走らせていた。

 と、その時、まばゆいばかりのヘッドライトを照らしながら、前方から一台のサイドカーが彼らに向かって来た。

 見るとバイクの上には、黒皮のレーシングスーツに身を包み、スックと立った若い女の姿があった。

 ドシュッ!ドシュッ!ドシュ~ッ!

 女が両手に構えたブローニングM-1910 32口径の二丁拳銃が続けさまに火を噴いた。

 32口径は弾丸としては小さい。だが二丁になると威力を増す。それがかって紅スズメ蜂と異名を取った沙羅のスタイルだった。

 続けさまに弾丸を撃ち込まれ、防弾仕様のフロントガラスを貫かれたセダンのドライバーは銃弾を喰らって即死した。

 キキキキキ~ッ!ドッゴ~ン!運転手を失ってスリップした黒いセダンはそのままガードレールにぶち当たった。

「このアマ~っ!」

 車から飛び降りた三人の殺し屋は、武装サイドカーを止めた沙羅を狙って拳銃をぶっ放した。

 チュィーン!と、殺し屋たちの放った銃弾が沙羅の黒髪をかすめた。

 ジョーの射撃の腕はずば抜けている。だから二級免許ながら、一級免許者に混じって第9位のイェーガーにランクされている。

 だが、沙羅の射撃は、そのジョーに匹敵する。現に、走る車の防弾ガラスの同じ箇所に弾丸を撃ち込んで打ち破ったのだ。

 女だと思って甘く見た殺し屋たちは不覚を取った。たちまち一人の殺し屋が沙羅の二丁拳銃の餌食になった。

 キキキ~ッ!と、そこへ殺し屋たちの後を追って来たジョーの武装サイドカーが滑り込んで来た。

 応援が来たのを見て不利に思った二人の殺し屋は、あわててガードレールを跳び越えて海岸の方に逃げ出した。

「沙羅さん、大丈夫か~?」ジョーが沙羅を気遣って声を掛けた。

「これくらい平気よ。それより、後の二人を追わなきゃ!」

「分かった。ヒュ~ッ!」

 ジョーの口笛の合図より早く、すでにボルテはサイドカーの側車から跳び出していた。

 ジョーのボルテと、沙羅のランスロット…二頭の猟犬は軽々とガードレールを跳び越えて、殺し屋の後を追い出した。


~続く~

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