第17話ビーストハンター 第2話 「東京租界に死す」(6)
「だめだ~…全然通じないわ」沙羅はお手上げという顔をした。
「本人がウィルだって言うんだから、それでいいじゃないか」
ジョーは名前なんかより、少女のこれからの事が気になって仕方がなかった。
「グゥ~ッ!」と目が覚めてから少し元気のなかった少女のお腹が鳴った。
「何も食ってないんじゃないのか?」その音を聞いたツクモが言った。
「そうだな。あれからだいぶん経つからな…何か食う物ないか?」ジョーは女性たちに聞いた。
「おせんべいならあるわよ」ヒナがそう答えた。
「あぁ、それでいい…すまんが食わしてやってくれ」
ヒナは、自分のデスクの引き出しから煎餅の袋を持ってきた。
「はい、どうぞ。ウィルちゃん」
「バリ!バリ!バリッ!」少女はヒナが差し出した煎餅を鷲づかみにすると、もの凄い勢いで食べ始めた。
「すごいっ!まるで野獣みたいじゃん」それを見たシュンが笑いながら言った。
「はいな…この子の方がよっぽど本物のビーストらしゅうおますな~」ヒジリも笑った。
「そんな事言ってやったら可哀そうじゃない」沙羅が口の悪い二人をたしなめた。
少女は一枚食べ終わると『もっとくれ』と言うように手を差し出した。
ヒナが袋の中から取りだして与えると、またむさぼるように煎餅を喰い散らかした。
三、四枚食べ終わるとようやく落ち着いたと見えて、椅子からはみ出た足をブラブラさせて遊びだした。
「よっぽどお腹が空いてたのね~…それでこの子どうするの?」沙羅はジョーに尋ねた。
「やっぱり、孤児院で預かってもらった方がいいんじゃないか?」ツクモが言った。
「ダメだ!孤児院はっ」ジョーが叫ぶように否定した。
「そっかぁ…ジョーは孤児院でイヤな思いをしたもんね」沙羅が言った。
「ねぇ、ウィルちゃん。お姉さんとこの子供になる?」ウズメが少女にそう聞いた。
言葉は分からなくとも雰囲気で感じたのだろうか?少女はうつむいて何かを考えてるようだった。
それから急に顔を上げてジョーを指差して言った。
「ダディ」
「ありゃりゃ…ソルジャーの事を父親だと思ってるみたいやで」ヒジリが驚いたように言った。
「あ~ぁ…振られちゃった」ウズメが笑いながら肩をすぼめた。
「やっぱ、拾ってきたソルジャーが面倒見るしかないかな?」シュンが言った。
「こんな小さい子の面倒見れんのかぁ?…ソルジャー」ツクモが心配そうに尋ねた
「まぁ、何とかするしかないさ…俺も親父に拾われて育てられたんだから」ジョーは大きくため息を付いた。
「どんな生活をしてたのかしら?ひどく汚れてるわね…可哀そうに」沙羅が少女の汚れた服に触りながら言った。
~続く~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます