第2話ビーストハンター 第1話 「狩猟免許と言う名の殺人許可証」 (1)

東京が海の底に沈んでから、もう随分と長い年月が流れた。

温暖化による海面上昇に追い討ちを掛けるように、世界で大災害が頻発し、日本も国土の25%を失った。

気候は荒れて雨季と乾季に分たれ、人々は沿岸部を捨てて奥地に移り住み、日本は新しい首都「ネオ東京」を築いた。

街の中央に作られた巨大なドームには、政府機関が置かれ、政治家や官僚・資産家たちが住む特別居住区が設けられた。

その周辺に暮す一般庶民は、荒々しい気候に晒されながらも、都市にへばり付くようにして日々の暮らしを生きていた。

希望のない未来と溜まる一方のストレスの中で、テロや凶悪犯罪は増加の一途をたどり、市民生活は脅かされていた。

社会の混乱と犯罪の激化に手を焼いた政府は、犯罪者の人権を奪ってビースト=獣として処分する新治安維持法を制定した。

ここに、警察に代わって多発する犯罪を処理し、犯罪者を処分する武装警備員=イェーガー(狩人)が誕生する事となった。

「狩猟免許と言う名の殺人許可証」を持つ彼らは、人権を奪われた犯罪者を獣のように狩る過酷な任務を背負わされていた。


 雨季を迎えた新首都「ネオ東京」の街並みは、間断なく降り続く雨にけむっていた。

 崩れたジャングルジム。横転したシーソー。散乱したぬいぐるみやオモチャが、辺り一面に散らばった部屋の中。

 音羽警備のイェーガーたちは、12番街の一角にある、幼稚園に逃げ込んだ一匹のビースト(*)を追詰めていた。

 (* ビースト=犯罪を犯した人間は人権を剥奪され、獣として扱われる。レベルスリー以上は殺処分の対象となる))


「まったく、何てぇうっとおしい雨だ。おい、園児と職員は何とか外に非難させ…あっ!」

 土佐犬のシャルク(*)「ムサシ」を連れて、部屋に入ろうとした夜行ツクモは、入り口で棒立ちになった。

 (* シャルク=家来、或いは従者の意。イェーガーが従える主人の手足となって働く猟犬。凶暴な大型犬が多い)


 部屋の中では、入り口近くで銃を手にした達摩ジョーと菅原ヒジリが、反対側にいるビーストと対峙していた。

 年の頃25、6ほどの若いビーストは、怯える幼い女の子の首に腕を巻き付けながら、狩人たちを威嚇していた。

「見ての通りや、夜行のとっつあん…残念ながら、ちいっとばかり手遅れだったわ」

 アルゼンチンゴドーのシャルク「サムソン」のリードを握ったまま、ヒジリは振り向いてツクモに言った。

「園児を人質に取られたのか?」ツクモは、がっくりと肩を落とした。

「やられたよ。とっつあん」

 そう答えたジョーの足元では、シベリアンハスキーに似た狼犬のシャルク「ボルテ」が低い唸り声を立てていた。

「犬を大人しくさせろっ!…ちょっとでも近寄ったらこいつの脳天をぶち抜くぞ!」

 ボルテの唸り声にイラついた若いビーストが、女の子の頭に銃を突き付けながら怒鳴った。

 仕方なくジョーは、牙を剥き出しながら唸るボルテを抑えるようになだめながら言った。

「どうする?とっつあん」

「どうするって言われてもな~」

「早いとこ何とかせんと、人質の命が危ないでっせ」ヒジリが催促するように促した。


~続く~

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