第21話 爆風のシマパンダー(8)
ま
VS
只今、大絶賛、膠着中。
シマパンダーは理解している。
ビロン姉の桁外れの剛力と、ビロン妹の規格外の切断能力を。
半日で二つの民間戦隊を壊滅させて、ほぼ無傷という戦力を。
そして…
【極秘戦隊スクリーマーズ 内密回線】
シマパンダー一号「あのう、どうして誰も援護に来てくれないでありますか?」
シマパンダー二号「来ているよ〜? 隙を見て、背後から攻撃するから」
シマパンダー一号「呼んでもいない人が来ていたであります?!」
レッド二代目「右に同じ。パワー差が半端ないから、奇襲しかない。目で探すな! 居場所がバレたら死ぬる!」
シマパンダー一号「それは理解しているでありますが…ミントとゴールドの事情は、何でせう?」
ミント「二人目を妊娠中なの。三ヶ月目」
ミント以外全員「・・・・・・」
父親が誰かは、誰も聞かなかった。
ミント「産休と育児休暇で、二年間は戦闘に参加しません」
ミント以外全員「おめでとうございまーす」
シマパンダー一号「ゴールド! おめでとうであります! ゴールド! 返事をするであります、このヤロー、てめえ、このヤロー!」
シマパンダー一号以外全員「・・・」
失恋確定でブチ切れているシマパンダーに、誰も触りたがらなかった。
シマパンダー一号「返事をするであります、この全身ゴールデンボール女…いや男! 男! 種蒔きマン!! 人の家の隣家で、何に励んでやがるんでありますか、このムッツリ忍者!! つーか、ユーシアとして挨拶に来いや、種蒔き忍者!! 自分は君の叔母にあたるでありますよ! でもお姉さまと呼ぶであります。敬愛を込めて!」
会いに行かなくて本当に正解だなあと、シマパンダー以外は思った。
ゴールド「煩いなあ」
ゴールドスクリーマーは、慣れない者が混乱しないように、女性版の声で内密回線に応じる。
ゴールド「五年間、隣家からこっそり守ってやったんだ。俺の家族計画にクレーム入れるな」
ティル・初代レッドと遊び疲れて、ゴールドスクリーマー・金沢利家の膝の上で寝てしまった長男・悠を起こさないように、最低限の声で話す。
ゴールド「今度は、君に俺の家族を守って欲しい。叶うだろうか、この願いは?」
シマパンダー一号・入谷恐子は、初恋の人に『一人前の戦士』として認められている事に気付く。
それは、心に生じたばかりの失恋の断裂を満たして溢れた。
シマパンダー一号「ユーシアが自分たちを守ってくれたように、今度は自分が子供達を守り抜くであります」
高らかに宣言した側から、シマパンダーはビバ・ビロンの首に突き付けていた大太刀を、横に引いて首を刎ねようとする。
「内緒話の間、待っていてあげたのに、容赦なしですか?!」
ビバ・ビロンは体内から出した刃で大太刀を防ぎながら、シマパンダーの不義理に猛抗議する。
「感謝の証に、一撃必殺であります」
「思い遣りが重過ぎる」
体内から出した刃の四本を防御に回したまま、ビバ・ビロンは八本の刃を居合切りの速度で体内から出す。
シマパンダーはバックステップで刃の間合いから逃れ際、ビバ・ビロンの右肩を斬った。
ビバ・ビロンが今日初めて負った戦傷である。
間合いから離脱したシマパンダーは肉体的な傷こそ負わなかったが、戦闘服が数カ所、切り裂かれていた。
特に戦闘服の腰回りが大きく切られ、青と白のシマパンが露わに。
「恐ろしや、シマパンダー」
ビバ・ビロンは、傷よりも敗北感に打ちのめされて膝を着く。
「僕の刃を全て躱しながら、ワザと戦闘服を切らせてシマパンを披露するショーマンシップ」
「…いえ、ワザとではないであります」
シマパンダーとは呼ばれても、シマパンのパンチラを披露する気は全くない入谷恐子である。
「僕と戦いながら、ここまでキャラ立てを貫き通すとは…なんて恐ろしいまでの余裕」
「だから〜」
「いっそ、あのまま首を刎ねられた方が、こんな敗北感を覚えずに済んだのに」
「…実力差が分かったら、刃を引くであります」
勘違いを正す面倒を諦めて、シマパンダーは勘違いに乗った。
世間様からシマパンダーと呼ばれて数ヶ月のうちに身に付けた処世術である。
「貴様たちなど、私のショーマンシップにおける踏み台! いわば黒い三連星のガイアなポジション!」
「ひいいい!?」
「どーーーん」
「ひいいいいいいい?!?!」
戦闘意欲を失った妹を庇うように、バビ・ビロンが前に出る。
妹の方だけなら、どの民間戦隊も全滅したりはしなかっただろう。一人か二人は斬死にしただろうが。
この怪物は、絶命するより先に闘志を失ったりはしない。
シマパンダーが、そうであるように。
「君は何者なのだろうね、シマパンダー」
犠牲者の廃血と腐肉が染み付いた鉄製棍棒を中腰で構えながら、バビ・ビロンは剣道の立会いのように、シマパンダーの大太刀に切っ先を合わせる。
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