第5話 シマパンダー・タイフーン

【渋谷ハチ公前】

 都会の駅前の待ち合わせ場所として、ありとあらゆる作品で取り上げられているレジェンド級の待ち合わせ場所。

 ハチ公の威光なのか、あの周辺だけマトモなオーラが漂っている。気がする。かもしれない。



五話 シマパンダー・タイフーン



 入谷恐子は、断じて怖じた訳ではない。

 敵の怪人に怖じた訳では、ない。

 渋谷スクランブル交差点の人混みには子供頃から慣れているので平気だし、ポッと出の新興宗教団体の勧誘なんぞ、駆逐艦そよかぜ同然。


「グッドモォーーーニィィング!? ミィスタァー徳光!?!?」


 入谷恐子をシマパンダー呼ばわりしている大手マスコミの最右翼。

 無表情でもテンションが高い事で名高いテレビレポーター・十三夜更紗が、渋谷スクランブル交差点で取材なう。


(いやいや。この人混みで地味目な長髪美少女キャラである自分が見つかる可能性など…)


 現在、入谷恐子は朝顔の薦めに従い、ブルースクリーマーに変身を遂げている。

 大太刀『結城』も、通常装備。

 周囲に何千人も行き来していようと、一発で見つかった。


「獲物がいたゾォおおおおおおおお!!!!???」


 無表情でも迫力のある突撃力で名高いテレビレポーター・十三夜更紗が、人混みを大手マスコミの力で蹴散らしながら(見届けに同行した飛芽は、この時点で避難した)、ハチ公前で待機中のブルースクリーマーにマイクを向ける。


「本物ですか? レイヤーですか? ヤクルトスワローズのファンですか?」

「読売巨人軍のファンであります」

「その残念な答え。本物だね」

「ぎゃふん」

「停職中なのに戦闘服を着用とは、何事でしょうかシマパンダー?」

「ブルースクリーマーであります」

「シマパンブルー?」

「ブルースクリーマーであります」

「シマパンスクリーマー?」

「ワザとでありますね?」

 

 入谷恐子にマスク越しに睨まれても、十三夜更紗の無表情は揺るがない。 


「現実を下世話なワイドショー空間で歪ませてお茶の間に垂れ流すのが、更紗の使命。君のプロフィールなんぞ、ネタに過ぎない」

「ゲスな商売であります」

「この世の九割はゲスだから、特に問題はない」


 更紗は、無表情ながらもゲスな笑顔を真顔に改める。


「弄りは兎も角。こんな場所で下着争奪戦とか、君、正気?」


 情報通の更紗は、イリヤの事情を既に知っていた。まるで親切な人であるかのようにイリヤを気遣う。


「場所を考えようよ、原住民」


 ハチ公前というか、スクランブル交差点を見渡せる位置に、渋谷駅前交番が頼もしく存在している。

 警官たちが此方を見ながら話しているので、入谷恐子は戦闘服の機能を使って会話を拾ってみる。



警官い「あれ、本物ですよ。胸部装甲が、たわわです」

警官ろ「なんだ、ただのシマパンダーか。ギャハハ」

警官は「更紗ちゃん、マイク持つとエロいな」

警官に「この人混みで、よく大太刀を持ち出せるな」

警官ほ「戦隊でなければ、射殺するレベルですよ」



 流石の入谷恐子でも、現役警官に斬撃系ツッコミを入れに行く程にバカではない。


「警察が出張るような戦いは、しないでありますよ」

「大太刀を抜き身で持っている人に言われても」


 常時数千人が往来するスクランブル交差点で、この武器チョイス。

 見過ごせずに注意する更紗に対し、ブルースクリーマーは豪語する。


「安心するであります。正午と同時に傷つくのは、一人の怪奇チョココロネ女のシマパン一枚のみであります」

「言葉の意味はよう分からんが、すごく大した意味不明だのう」


 ブルースクリーマーの何かを見限った更紗は、撮影スタッフに休憩を告げる。

 てっきりブルースクリーマーの下着争奪戦をネタに取材をすると思い込んでいたスタッフは再考を促すが、更紗は一時離脱を曲げない。


「トイレ。大きい方。間に合わないから、更紗は潔く諦める」


 正午、一分前。


「更紗が踏ん張っている間、ゴローちゃん(AD)が適当にライブ解説しといていいよ」


 てっきりネタにされると覚悟していた入谷恐子は、トイレを借りに地下街への階段へと消える更紗に向けて、手を振って見送る。


「なんだろう。めっちゃ安堵するであります」


 入谷恐子が苦手人物の退場からくる開放感に酔う間も無く、スクランブル交差点の対岸から戦意を感じ取る。

 入谷恐子の注意力は、予定された対戦相手に絞られていく。

 更紗が残した撮影スタッフの事すら、意識しなくなった。

 ハチ公前から見てスクランブル交差点を挟んだセンター街入り口に、チョココロネ怪人チョコーネ改め黒縞智代子が、仁王立ちでブルースクリーマーにガン付けている。


「…本当にノーパンのまま、いらっしゃったのですね、シマパンダー様。今の貴女からは、神々しいまでのシマパン力が感じられない」


 そのセリフは戦闘服の聴力で拾ったものの、変態に返すボキャブラリーに、ブルースクリーマーは詰まった。


「敗北から学ぶのも良いでしょう。太陽が真上に達すると同時に、真のシマパンの力を御身に叩き込み、シマパンの力こそが地球上での最強の…」


 ブルースクリーマーは、戦闘服の聴力を通常に戻す。

 何かが感染してしまう気がして。


 正午ジャスト。

 渋谷スクランブル交差点に、時報の音楽が鳴り響く。


 先に仕掛けたのは、チョココロネ怪人チョコーネだった。

 両腕にチョココロネ型ドリルを装備すると、急速に超高速大回転。膨大な旋風を巻き起こしてスクランブル交差点を行き来している人々のスカートを捲る。

 約二千人の女性のスカートが捲られ、そのうち百人がシマパンを装備していた。

 百人のシマパンから名状しがたいエネルギーが放出され、チョココロネ怪人チョコーネの両ドリルに集まっていく。

 百人分のシマパン力を加算したチョココロネ型ドリルは、旋風を暴風の域にまで巻き上げる。

 渋谷スクランブル交差点は、人も車も身動き取れない暴風の中心地と化す。


「これぞチョココロネとシマパンの融合技、神シマパン嵐!! シマパンダー様のたわわな両乳房ごと、ブラジャーを捥ぎ取って差し上げますわ!!」


 今やスクランブル交差点でマトモに立っているのは、ブルースクリーマーだけ。

 両腕のドリルをワキワキさせながら近付くチョココロネ怪人を、ブルースクリーマーは上にジャンプして躱す。

 ジャンプしてハチ公の頭上に乗ると、大太刀を下段に十字斬りして、暴風をモノともせずにチョココロネ怪人チョコーネの下半身を切り裂く。

 スカートの臀部がパンツ一枚分切り取られ、中の黒白シマパンが露わになる。

 チョココロネ怪人チョコーネは、暴風をブルースクリーマーのみに集中させる。

 戦闘服の力で動けていたブルースクリーマーも、これには身動きが取れなくなった。その状態で両手両足にチョココロネが手錠のようにハメられ、大太刀を没収される。

 暴風を止め、チョココロネ怪人チョコーネは余裕でブルースクリーマーに歩み寄る。


「惜しかったですね、シマパンダー様。ノーパンでさえなければ、私の敗北でしたのに」

「確かに。シマパン以外の下着であれば、スースーしないで済んだであります。ノーパンでいる必要は、なかったでありますな。あ、でも自分はシマパンしかタンスにないであります」

「流石はシマパンの女神候補!」


 ノーパンでも手元が寸分も狂わない剣術を編み出そうと決意する入谷恐子に、チョコーネは降伏勧告を始める。


「さあ、敗北を認めて下さい、シマパンダー様。風に伏せていた民衆も立ち上がり、防犯カメラは多数健在。ビルの中の野次馬もスマホで絶賛撮影中です。そんな環境下でブラジャーを取られれば、生乳ダブル晒しは確実!! シマパンダーではなく、パイオツジャーと呼ばれてしまいます。そうなれば、生乳教団や双丘教団、神乳教団までシマパンダー様を女神にしようと名乗りを上げ、競争が激化してしまいます。変態属性は、一つに絞リましょう、シマパンダー様! さあ、今こそシマパン教団シマシマドリルの女神となるべく、シマパンの力を受け入れるのです」


 一気に捲し立てると、チョコーネは身動きの取れないブルースクリーマーの返事を待たずに、胸元から一枚のシマパンを取り出す。


「これは、神官の私が毎晩穿いて祈りを捧げた聖なるシマパン。通常の三倍のシマパン力を秘めています。シマパンダー様ならば、すぐに穿き熟す事でしょう」

「あの…まさか、ここで穿かせる気でありますか?」

「三年物です。履き心地、好いですよ?」


 チョココロネ怪人チョコーネは、優しい笑顔で使用済みシマパンを穿かせようとする。

 トップレスには気遣うけれど、シマパンの着脱には恥じらいのないシマパン神官だった。


「いやいやいやいやいや、マズイであります!! 色々とエロエロと!!」

「大丈夫ですよ、シマパンダー様。まずは戦闘服の上に穿かせて、それからシマパンの部分だけ戦闘服を切り取る。これなら、毛の一本も晒さずに済みますわ」

「なるほど、安心…できないであります!」

「ていや」

「きゃあああああああああ」


 ブルースクリーマーの足首まで、聖なるシマパンが通る。



 その時、入谷恐子の耳に、聞き馴れた絶叫音が聞こえた。

 スクリーマーズが戦闘服を装着する際に上げてしまう絶叫である。



「ミント?! ゴールド?! 両方だと嬉しい!!」

「(舌打ち)やり過ぎて介入を招いたか」


 シマパン強制装着を中断して戦闘体制をとるチョコーネの手から、何者かが神速で聖なるシマパンを掠め取った。


「何奴!?」


 その白い人影は、スクランブル交差点の中央で立ち止まると、白虎をモチーフにしたマスクを向ける。

 スクリーマーズで採用しているピッチリスーツ型戦闘服のカラーリングは、白地に黒縞のタイガーな感じ。

 小柄な女戦士は、なんだか三分前に聞いたような声で、チョコーネに啖呵を切る。


「貴様にシマパンを被る資格は、ない」

「なんですってーーーー?????!!?」


 他ならぬシマパンの事でディスられ、チョコーネは激昂する。


「名を名乗れ、無礼者! お前の名前を、渋谷中の男子便所に書き込んでくれるわ!」


 ホワイトスクリーマーは、センターポジションで小気味よくポーズを取りながら、名乗りを始める。


「穢れなきシマシマの白虎、シマパンホワイト。シマパンブルーを助けに現れた、シマパンダー二号だ!!」


 自称シマパンダー二号は、聖なるシマパンを右手に握ったまま、Vサインを繰り出す。

 真面目な名乗りは、してくれなかった。




 その頃、ゴールドスクリーマーとミントスクリーマーは…


「利家、ヤバす…三分も過ぎている…」


 道玄坂のラブホから出たミントスクリーマー・数寄都下樹美は、遅刻に気付いて恋人の手を握ったまま走り出す。


「すぐそこだよ、慌てない慌てない。ほら、平和で静か…あ、静か過ぎる」


 満足げなゴールドスクリーマー・金沢利家は、街の騒音加減から道玄坂下の異変に気付いて、樹美をお姫様抱っこして走り出す。

 二人を宥めるように、岸モリー司令から情報が来る。


『休憩合体中に邪魔するのは悪いと思って、ホワイトを向かわせたよ。間に合ったから、走らなくていい』


「あいつとブルーは会わない方が…もう遅いか」


 極秘戦隊の極秘が、また一つ入谷恐子に開示される展開に、ゴールドは焦燥を見せる。



 同時刻、飛芽は…


(見付けた)


 シマパンダーVSチョココロネ怪人という台風を避けて避難した最寄りのコンビニで、飛芽は探していた人物を発見した。

 半月前、飛芽に極秘戦隊スクリーマーズの行き先を教え、戦隊を罠に陥れる釣り餌に使った人物を。

 避難してきた大量の一般客に混じり、その人物は特撮雑誌『宇宙船』を立ち読みして時間を潰している。

 飛芽は、持たされている携帯端末の撮影機能を用いて、その『ごく普通のサラリーマン』にしか見えない男を盗撮しようとする。


 飛芽は、まだ気付いていない。

 その男に集中していた為に、気付くタイミングを逃した。

 コンビニ内に避難した一般客百五十二名のうち、五十六名が偽装した敵戦闘員である事に、気付いていない。



次回予告

 遂に出た追加戦士!

 遂に姿を垣間見せた、本当の敵!

 ラブホの件は、お父さんお母さんには内緒だよ?

 次回『誤認の戦士』を、無条件で見よう!

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