ミャウヒハウゼン

二 一 ( にのまえ はじめ)

第1ー1 兄

兄が消えた。

「桐子、お前は俺みたいになるな」

意味深な言葉を残し、双子の兄が消えて半年もの月日が流れていた。

捜索願もすぐに出したが、まだ見つかっていない。

家出かと思ったが、服もお金も残し、失踪した…。

いや、携帯は兄と一緒に消えていた。

両親と自分は、知ってる限りの兄の行きつけの場所を探したり、兄の知人にも聞いてみたが兄の足跡は全く分からなかった。

仕舞いには聞かれる方も、怪訝そうにこっちを見てくる始末だ。

最初は薄情だと思ったが、自分が同じ事をされたらどうだろうと考えると、相手にそれ以上強くは言い返せなかった。

(家族が居なくなってるのに、他人に遠慮してどうするのよ!)

内心そう思っていても、強気になれず毎回スゴスゴと家路に戻っていた。

どうしても両親みたく、必死になれない理由が自分にはあった。

それは、当然と思える確信があったから。

だって兄は、家から出ていないはずなんだから。

いや、本当は知らない間に家から出たかも?

普通の建売り住宅なのに、隠れる所もないのにどうやって消える?

外に出たと考えるのが普通だろうが、そう思えない自分がいた。

「…」

しかし、こんなに時間が経ってしまえば、兄が消えた方法なんて、そんな事はどうでもいい。

兄が消えたのは事実なんだから。

「気になるんだ、この中が。ってか、ここしかないでしょ?」

既に、体力も気力も限界にきていた。

捜査も難航している模様。

最近は新しい情報も乏しく、捜査員の来訪も数が激減していった。

兄が大好きなこの部屋に入り、兄の一番大事なこのパソコンをチェックしてみようと思う。

一度捜査で没取されたが、呆気なく帰ってきたパソコン。

パソコンに然程明るくない自分が見たところで、何にも分からないと思うが、双子ならではの感覚で分かるかも?なんて、淡い期待もすぐに消し飛んだ。

「私たちに超感覚なんてあったかなぁ?でも今は不思議とそう思えてしまう感覚があるんだなぁ、多分気のせいだろうけどね」

自分は苦笑いしながら、兄の部屋のドアを開けた。

(ギギィ…)

ドアが重く感じるかも?

なんて感覚は杞憂にしかなかったようだ。

思っていた程、怖くも重くも感じない空気感に、少しホッとした。

捜査員が調べ尽くしていたこの部屋は、 自分は見る必要ないと思っていた。

兄と仲が良くもなかったが、これ以上心痛で両親の弱っていく姿を見ていられなかった。

「居ても居なくてもいいけど、ママが痩せて辛そうなのは嫌!馬鹿兄貴を何とか出来るのは、私しかいないじゃない!」

(分かりっこないだろうけど、少しでも手がかりが掴めたら?って希望的観測なんだけど…)

「はぁ…」

定期的にママが掃除していても、何度見ても見事なまでに何もない部屋に、また自分は表現のつけ辛い、諦めのような深い息を吐いた。

「安定の机とパソコン、ベッドの三種の神器だね。ほんと何もない殺風景な部屋。これで良く、相手の気持ちを察して動けるもんだわ」

部屋には生活感が全くなく、空気のように消えた兄そのものを表していると思えた。

「部屋って人の心の中を表すって、なんかの本で読んだ気がする。あいつ中身なかったもんね。ま、散らかってるよりはましか…」

(カタカタ…)

とりあえずパソコンを起動させ、自分の感覚で見てみようと思った。

(必ず、ここに何かあるはずだ!誰もやらないなら、私がやるしかないんだから)

「何してんのよ?早く帰って来い、馬鹿兄貴!」

プツプツ捨り台詞を吐いた後、失踪するまでの兄の言動や行動、幼い頃まで記憶を辿る為、深呼吸を数回繰り返して意識を集中させる。


これが、自分における滅世界の始まりだった。

滅…それより喜劇のがお似合いだろう。

悲劇の悲鳴も繰り返せば、笑い声に聞こえる。

そもそも、人は捕食するか?

されるか?どちらの所属によって、立場も言動も変わる。


さぁその運命に逆らって見せよ、動物を駆逐したその知恵で。




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