大学生の大家さんと下宿人 (連載Ver)

五月雨葉月

再会

 二人の少女が手を握りながら星空を見上げていた。

 しばらく見上げていた二人は、そっと視線を下に戻し見つめ合う。


「大好きだよ」

「私も大好き」


 ちゅっ♪


 そして二人は愛を確かめる様にそっと口づけをした。





☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★





 松風まつかぜいろは、18歳。早くに両親を亡くし、両親が大家だった小さなアパートを相続して生計を立てながら生活をしている大学一年生。


 大学特有の長い長い夏休みのある日、不動産屋から電話が掛かってきた。


「はい、松風です。…………はい、はい。えっ!? 本当ですか!? はいっ! わかりました、失礼します!」


 電話の内容は、新たな入居者が見つかった、との連絡だった。

 入居者はいろはと同じ大学で、二学年上の先輩らしい。その名前を聞いた時に頭の隅に引っ掛かる事があったが、気のせいだろうと意識の端に追いやった。


 6部屋あるうちの2部屋が空いていたアパートにとって、新たな入居者は嬉しいものであった。


「よしっ! 早速掃除をしなくちゃ!」


 道具を持って外階段を上がる。いろはが大家をしているアパートはいろはの家の2階にあるのだ。

 前の入居者が解約して2ヶ月。定期的に清掃はしているものの、やはり誰も居ない部屋には埃がつもる。


「うわぁ、それは掃除のしがいがあるぞ~! よしっ!」


 気合いを入れて、テキパキと本業の清掃業者顔負けの掃除スキルを使い、およそ半日で部屋はいろはが入った時とは比べ物にならないくらい綺麗になっていた。


 入居者が引っ越して来るのは明後日。

 いろははそれまでに電球や設備の点検を行い、完璧に受け入れられる体制をとって入居者を待った。




 そして、二日後。引っ越し業者を伴い新たな入居者が現れ────なかった。


 何事か解らず、ただ引っ越し業者が運ぶ荷物だけをポカーンと見つめていたいろはは、引っ越し業者が去り、しばらくした後ハッと我を取り戻し、急いで不動産屋に電話をかけた。


「あー、どうやらご本人の体調が優れず、夜に向かわれる様です」


 と不動産屋。

 なら良かったと安心し、夜まで時間を潰したあと、入居者がやって来るのを今か今かとそわそわしながら待っていた。


 そして、夜の8時が回った頃、やっとインターホンが鳴る音がした。


「は~い」

「こんばんは。遅くなってごめんなさい、今日からお世話になる天宮あまみや煌羅きららと申します」

「あっ、はい! お待ちしていました!」


 あれっ? とこかで……?


 名前と声。やはり何処かで聞き覚えがあった。

 疑問を持ちつつもいろはは玄関に、入居者に渡すための一式が入った袋を持って靴を履き、外へ出た。


「こんばんは。……ぇ?」


 いろははインターホンの前に立つ女性の姿を見た途端、すべての思考がフリーズし、体がピタリと固まって動けなくなった。


 なぜなら────────煌羅は、いろはが通う大学のアイドル的存在であり、全ての女子の憧れであり、全ての男子の目をさらい、ひと度見つめられると何でもはいと言ってしまう美貌を持ち────────


 いろはの従姉であった。


「きららちゃん!?」

「そうよ~! 久しぶり、いろはちゃん」




「まさかとは思っていたけれど、まさか煌羅先輩がきららちゃんだったなんて…………」

「うふふ、ごめんね~♪ 私のお母さんから聞いて、私もついこの間知ったの」

「でも、なんでうちに?」

「お母さんにこのアパートの事を聞いて、せっかくなら一緒に住みたいなぁと思って」


 パチッとウインク。

 そんなひとつひとつの細かい仕草や行動が優雅につながって見えるのが人気の秘訣かもしれない。


 いろはは一度自分の部屋に案内し、お茶を出す。

 そしてテーブルに座る煌羅の向かいに腰を下ろすと、再びお喋りに興じる。


「何年ぶりかしらね?」

「うーん、5年ぶりくらい?」


 二人の話題は世間話から、懐かしい昔ばなしに変わったようだ。


「もうそんなに経つのね~。確か……中学生?」

「うん。冬休みだったかなぁ」

「そっか…………。あ、そういえば、いろはちゃん、昔から私のお嫁さんになりたいって言ってたわねぇ」

「ふえぇっ!? 」

「ちっちゃな頃から、『おっきくなったらきららちゃんのお嫁さんになるんだ~』って。叔父さん、それを聞いて悲しんでたわ」

「そ、そうだったっけ?」

「そうだったのよ~。…………今でもそう思う?」


 少し身を乗り出していろはに近づく煌羅。

 そして背筋をピンと伸ばして動けないいろはに吐息がかかるほど煌羅は近づく。


「……ぇっ?」

「私はね、いろはちゃんと結婚するために今まで誰ともお付き合いしてこなかったの」

「はっ!? えっ!? どういうこと!?」

「…………ニブいのね」


 ちゅっ♪


 すぐ目の前にあったいろはの唇に自分の唇をそっと押し当てる。

 熱く、蕩けるような感触。

 接し会う唇からは、相手の全てを伝えてくれるような、不思議な感覚があった。


「私は、いろはちゃんが好き。ずっと昔から、今も、未来も。いろはちゃん以外を好きになることは無いし、会えなかった5年間、一日たりともいろはちゃんの事を想わなかった事は無いわ」

「…………」


 煌羅が言葉を紡いでいる間、いろはは何があったのか解らず、ずっと無言のまま、顔を赤らめ、俯いている。


「いろはちゃんとずっと一緒にいたい。いろはちゃんと結ばれたい。いろはちゃんの全てが欲しい。いろはちゃんと結婚したい。この気持ちは本物よ。さっき証明したみたいに、ね」

「…………わたし、は…………」


 いろはは、ごくり、と唾を呑み、覚悟を決めたように俯いていた顔をあげると、煌羅をじっと見つめ、自分の思っている事を少しずつ話し出す。


「私も、ずっときららちゃんが好きだった。……ずっと一緒にいたいし、む、結ばれたい、な」

「いろはちゃん…………」


 二人は照れくさそうにくすくすっと笑い合うと、お互い何かを感じ取ったのか、じっと見つめあう。


「きららちゃん……」

「いろはちゃん……」


 近づく顔と顔。近づく唇と唇。


 そして、その唇はそっと触れあう。


「ちゅっ♪ 」


 優しく、熱く、深く。

 互いの全てを感じとるが如く、舌と舌を絡め合い、互いの存在を感じ合う。


「ちゅぅぅ、ちゅっ♪ んぁ、ちゅぅぅぅっ、ちゅっ♪」


 目を閉じ、触れあう部分に意識を集中させ、その部分以外の全ての感覚を閉ざす。


「くちゅっ、ちゅぅ、れろっ♪ ちゅぅぅぅ…………」


 しばらく、部屋には二人の熱い吐息と、唾液が混じりあう淫靡な音が響きわたっていた。



 長い長いキスの後、二人はぎゅぅぅっ、と抱き締め合い、二人の将来を誓いあったのであった。



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