城
夜明けと共に三人は宿を出て城へ向かった。
ながい上り坂を歩き、一同は門の前に立った。
朝一番だというのに、門の前はすでに行列が出来ていた。
行列をつくるのは、商人、剣士、魔法使いなどの職業を持つ人々である。
「みな、城でなにか働き口がないか待っているのさ。商人は城に商品おろす権利を持ちたい、剣士は城の護衛につきたい。魔法使いもその技で城の防衛や、あるいは治癒魔法を覚えているのは医療部に配属されるのを希望している。ま、どれも狭き門だがね」
タルカスが説明する。ファングは肩をすくめた。
「そんなにこのお城には勤め口があるのかな?」
「まあな、このくらいの規模の町になると、町の税だけでも相当なものになるし、それを狙って隣国や盗賊などの襲撃にも備えなくてはならない。魔物だけじゃないからな、敵は」
なるほど、とパックは思った。
やがて昼近くになり、王の謁見があると門番が怒鳴った。
重々しく音をたて、城の正門が開かれた。みな門番に順番をまもるよう注意されながらぞろぞろと城の中へと進んでいく。
ひとりひとりの名前が呼ばれ、謁見の間へ入っていく。
ほとんどは当てが外れたという顔つきで出て行くが、中には躍り上がって喜びをあらわにするものもいる。
そしてパックの名前が呼ばれた。
三人は謁見の間の扉をくぐり、中へと入っていく。
「旅の三人、パックとタルカス、そしてファングの三名であります」
「パックと言う少年の肩にあるのはなにかね?」
「あ、申し送れました。スライムのヘロヘロという魔物でありまして、少年が飼っておるようでして……」
「ふむ、それではパックと言うのは魔物使いなのか? いま、城には魔物使いは足りておる。つぎの面会希望者を……」
パックはあわてて顔をあげた。
「待ってください、ぼくは就職希望ではありません! 人探しの途中で、それでなにか手がかりがないかと……」
そこでパックは言葉を飲み込んだ。
目の前に王座がある。
そこに座っている青年、これがドーデン王なのだろう。
黒い髪、黒い目……そしてその顔……。
パックは眉をひそめた。
どこかで見たような顔だ。
あっ!
パックの記憶があの老婦人の館に飛んだ。
あそこで見た自分そっくりの絵、そう自分の顔。その顔にドーデン王は似ている。
というより、パックがいまより十年くらい年をとったらなるであろう顔である。
「そちは……」
ドーデン王は言葉を途切れさせた。同じ思いがその瞳に浮かんでいた。王の頬に、にやりとした笑い皺がきざまれた。
「面白い……世界には自分そっくりの顔を持つ人間が三人はいるというが、わしははじめてそれを確かめたぞ。ただしそちは、余の十年前の自分そっくりではあるがな」
近くよれ、という手つきを王はした。パックはすたすたと歩み寄った。
「それで人探しとな? 誰を探しておるのじゃ? そしてそのわけを聞かせてもらいたい」
「はい……最初はぼくが洞窟で目覚めてからですが……」
パックは最初から順を追って話しはじめた。王はまったくさえぎることもなく、パックの話を真剣に聞いていた。やがてパックが話を終えると、おおきくうなずいた。
「そのミリィという娘……余は知っておるぞ!」
え! と、パックは思わず叫んでいた。
「ど、どこにいます?」
ドーデン王は臣下に合図した。
臣下のひとりが頭を下げ、謁見の間を出て行く。
やがて戻ってくると、ひとりの娘の手を引いてやってきた。
赤い髪、白い肌。青い瞳。
身につけているのは旅装束ではなく、王宮の女官が着ているようなワンピースで、薄いベールを頭に被っている。
彼女は顔をあげた。
パックと目が合う。
はっ、とおたがい電気が流れたようになっていた。
とうとう会えた……。
パックの胸に熱いものがこみ上げてきた。このために自分は旅をしてきたんだ!
ミリィもまた同じ思いのようだった。パックを見つめる彼女の目に涙があふれている。
その二人の間に、王の言葉が切り込んだ。
「紹介しよう。余の婚約者ミリィである!」
さっと三人は驚きのあまり王を見つめていた。
「来月、余とこのミリィは結婚する。祝福してくれたまえ」
「まさか、信じられない! ミリィが王様と結婚するなんて!」
宿に帰り、パックは頭をかかえていた。
ミリィと会ってどうする、などと考えはなかったが、こういう結果を望んでいたわけではなかった。そんなパックをファングは気の毒そうに見つめていた。
「いいじゃないか、あんなに会いたかったミリィに会えたんだから」
そんな言葉が慰めになっていないことは百も承知だったが、そうでも言わないとこの場の空気に耐えられなかった。
「しかしなんでまた王さまはいきなり結婚を決めたんだろうな。そりゃあの年頃だから結婚話は降るほどあるが、ミリィを選んだというのが判らん!」
タルカスがぼりぼりと髭をかきながらつぶやいた。
「判らない……なんでぼくがあんなにミリィに会いたいか、それさえも判らない。でも、こんなの間違っている……それだけは判る……」
パックはうつむきながらつぶやいた。
「ぼくが確かめようか?」
ふいにヘロヘロが言葉を発した。
え? と、パックはヘロヘロを見つめた。
えへへへ……と、ヘロヘロは笑った。
「どうやって?」
「忘れたのかい? ぼく、スライムだよ」
そう言うとにゅーっ、と身体をのばし、床につくと見る見る平べったくなる。ついには紙ほどの薄さに広がった。黄色い体が薄くなって、床の模様が見えるほどだ。
「ぼくなら、どこへでも入り込める。お城に忍び込んで、ミリィと話をすることだって……」
そうか、とパックはうなずいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます