第三章

タルカス

「やはり旅立ってしまうのかね?」

 オードは哀しそうな顔つきでパックに言った。

 ええ、とパックはうなずいた。

「やはりミリィという女の子を捜さなければならないと思います。ぼくらふたりには、なにか秘密があるんです。それを探るためにも、出会わなければ」

 そうか、とオードはうなずく。となりで妻も涙ぐんでいた。

「それじゃ元気でな。彼女と出会えることを祈っておるよ」

 有難う、とパックは礼を言った。

 ふたりに見送られ、パックは村を後にした。

 街道はまっすぐ北へ向かっている。

 オードと妻はいつまでもパックの後ろ姿を見送っていた。

 

「おおい! 待ってくれえ!」

 街道を歩くパックの後ろから、ひとりの剣士が息をきらして追ってくる。

 がちゃがちゃと装具をならし、追いつくとおおきく息をはいた。

「いや走った、走った! 追いつかないと思った」

 剣士はたくましい身体つきの、黒い髭を生やした大男だった。片方の頬に、ふかい傷跡があった。

「わしは旅の剣士のタルカス。あんたのことを聞いて、道連れになろうと思って追いかけてきたんだ」

 そう言うとにやっと笑った。あけっぴろげの、人の良い笑顔だった。

「ぼくのことを聞いて?」

 パックの問いかけに、タルカスはうなずいた。

「ダルリ村を通り抜けるとき、あんたのことを聞いたのさ。なんでもミリィという娘を探すために旅立ったとな。それを聞いて、なにやら面白そうだと思ったんだ。わしは剣一本でいろんな冒険をしてきた! 竜のいる洞窟に単身入り込んだこともあったし、巨人の住む島で宝物を探したこともあった。それにあんたは聞いたところによると、旅をするのは初めてだそうだな。そうなると、わしのような経験豊かな冒険者が必要だ。それで追っかけてきたんだ。さあ、わしと一緒に旅をするかね?」

 思わずパックはうなずいていた。タルカスの様子はあけっぴろげで、悪い人間には見えなかったし、それに経験豊かな冒険者と言う触れ込みは信じられそうだ。

 パックを見おろすタルカスの表情が変わった。

「動くな!」

 さっと手を挙げ、腰の剣を引き抜く。

「動くなよ……いま、お前の肩にとまっている魔物を始末してやる!」

 え、とパックは肩のヘロヘロを見た。ヘロヘロは恐ろしさのあまり、ぶるぶると震えている。

「お前の肩にとまっているのは、スライムではないか! おそらく、お前の血を吸いにやってきたのだ!」

「ま、待ってください! このヘロヘロはぼくの友達なんだ!」

「友達?」

 タルカスの手がだらりと降りた。剣の切っ先が、地面に触れる。

「スライムが友達?」

 大声になった。

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