握手
肩を並べ、パックとタルカスは街道を歩いている。
ふうん、とタルカスは自分の髭をしごいた。
「不思議な話しだな。スライムが人間を襲わず、逆に守っていたとは。それにスライムが人間と話せるとは、はじめて知ったよ」
ちらり、とタルカスはパックの肩からさがっているバッグに目をやった。ヘロヘロはすっかり怯え、バッグの中に隠れ、目だけ隙間から出している。タルカスと目が合うと、ヘロヘロはますますバッグの中に潜り込んだ。
「すまなかったな。あのスライムを殺したのは、悪かった。しかしおれには善いスライムも悪いスライムも見分けがつかん。魔物はすべて人間の敵だと思っていたからなあ」
どん、とタルカスはパックの肩をたたいた。
「おたがいこのことは忘れようや。お詫びに、おれはお前の身を守ることを誓う! どうだ、それで? ん?」
ふたりは立ち止まった。
タルカスは心配そうにパックの顔を覗き込んだ。
パックはうなずいた。
「わかりました。タルカスさん」
そうか、とタルカスは相好を崩した。手を差し出す。ふたりは街道で握手を交わした。
ふたたび歩き出し、パックはタルカスに話しかけた。
「タルカスさんは、いままで沢山魔物を倒したんですか?」
いやあ、とタルカスは頭をかいた。
「それほどじゃないな。まあ、剣士になってからはふりかかる火の粉は払わなければならないからな……百匹は殺したかな」
「タルカスさんのような剣士は沢山いるんでしょうね」
「まあな。魔物がこの世界に現れるようになって、人々はなかなか旅をすることが難しくなってな、町と町を旅するキャラバンなどでは、おれのような剣士を護衛に雇うことが多くなってきたよ。それに町にいても安心はできない。だからある程度の町では、専属の剣士が守るようになったな」
「どうして魔物が現れるようになったんでしょう?」
「そんなこと、おれに聞いても判るわけないよ!」
タルカスは笑った。
「そういうことは、偉い学者が考えることだ」
「偉い学者?」
「うん、なんでもドーデンの町に住む偉い学者たちが、魔物が生まれるわけについて研究しているそうだ」
「ドーデンの町?」
「ドーデン王の治める、大きな町のことさ。お前、そんなことも知らないのか?」
うなずくパックに、タルカスは感心したように首をふった。
「なるほどなあ……お前がいままで、ずっと洞窟で眠っていたというのは本当らしいな」
タルカスは話し好きのようだった。
道々、パックはこの世界についてタルカスから色々話を聞きだした。
ふたりが旅しているのはこの世界で最大の大陸であること、ほかにも南と北にそれぞれひとつずつ、大きな大陸があり、そこには様々な人々が暮らすこと。そのほかにいろいろな島々が大洋にちらばり、そこにも色々な暮らしがあることをタルカスは語った。
「おれはやっぱり船の旅が好きだな。お前船に乗ったことはないんだろう?」
ええ、とパックがうなずくとタルカスは目を遠くした。
「船はいいぞ。水平線がどこまでも続いて、そこに日が昇り、日が沈むのを見るのはたまらない!」
そこでぽん、と手を叩いた。
「そうだ! ミリィを見つけたら、船に乗って旅を続けよう! 船賃のことならなあに、心配するな! どこかの町でひと月か、ふた月傭兵を務めたら、そのくらいの金はなんとかなる」
わははは……と、タルカスは豪快に笑った。
パックは考えていた。
なぜか魔物の出現と、自分の謎にかかわりがある、そんな直感がわいていたのである。
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