少年の目覚め

 少年は目覚めた。

 ミリィが目覚めたのち、十日ほどたっている。

 ミリィと同じように目覚め、同じようにスライムに案内され、服を手渡された。

 やや薄いブラウンの粗い生地で出来た上着。すね丈ほどの同色のズボン。かっちりとしたブーツを履き、最後に渡されたのは古い剣一本。

 少年の名前はパックといった。

 スライムに渡された剣を手にし、パックはひゅうひゅうと音を立て振り回した。

 ちょうどいい。

 重さも、バランスもしっくりなじんでいる。

 誰に習ったわけでもないのに、パックはじぶんが剣士のような手さばきで剣を扱えることに気づいていた。だが、それに驚いているわけではなかった。あまりに自然で、それが異常なことであるという自覚がないのだ。

「ぼくは外へ出たい! そして旅をするんだ」

 パックは叫んだ。

 スライムはぶるぶると身体を震わせ、答えた。

「そう言われると思っておりました。どうぞお気をつけて……」

 うん、とパックは元気よく答えた。

「外はどっちだい?」

 あちらでございます……。スライムが触手で指さすほうへ、パックは大股の足取りで歩いていく。

 洞窟の床は上り坂になり、ほどなくして明かりが見えてくる。

 明るい。

 穴の出口に近づくと、外はしらじらとした明るさにつつまれていた。

 小手をかざし、目の上に影をつくり、少年ははじめて見る外界を眺めた。

 

 少年を見送ったスライムは、今度こそ本当にじぶんの使命が終わったことを悟り、しばらく床にぺたりとひろがって脱力感を味わっていた。


 !


 驚愕に、スライムはぎゅっと身体を縮め、体色をめまぐるしく変化させた。

 いない!

 どこにもいない!

 かれは自分の身体を必死になってまさぐった。

 ヘロヘロがいなくなっていた

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る