works/1177354054880263155

『タイトル未定』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054880263155/episodes/1177354054880263379


 他人と電話で会話する時は、その声だけで相手の年齢、体型、顔の輪郭くらいは推測できる。手書きの文字と内容を照らせば、教育水準と教育者の方針とが読める。メールの文章だけを読んでも、人物像を絞ることは可能だ。最も分かりやすいのは、その人が周囲に愛されて育ったか、過去に外的抑圧を受けた経験はあるか、愛されるに至った理由は何か、その理由はどの程度の普遍性があるか、関わったコミュニティの大きさと数。

 それは誰もが無意識に行っていることで、前提知識が足りない人物がそれを行えば、的外れな偏見しか生まないが、十分に知識と知覚力を持つ者が読むのであれば、相応の精度を期待できる。

 推理小説を読む上で、その手のプロファイリングは作家自身の情報が混線することもあるし、意地の悪い作家ならシーン毎に別人の積もりで書いてしまうので、却って邪魔な位ではあるけれど、読者が初めからそういった推理方法ーーつまり第一印象での犯人予想ーーを放棄しているという約束さえあれば、これはミステリに於いても、価値ある道具となるのではなかろうか。

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