前途にて

@snacam

works/4852201425154973869

『Noir』

https://kakuyomu.jp/works/4852201425154973869/episodes/4852201425154973901


 全ての問いに対する万能の回答は「そういう問いもあるね」である以上、それに対するカウンターとして、「出題されなかった問い」が提示されるのは、道理だ。


 例えば、出身地からリアクションを推測されたり、契約書の内容から自分がかけられる罠を推察したり、使用言語から変数名を推定したり、そういったことは誰でも日常的にしていることなのだから、「謎解きの館」という舞台を提示しておきながら、謎の発端すら見せず、プロローグ以降を7ヶ月も書かずにいるということは、明白にそれらの飛躍的考察を前提とした技法なのだろう。

 何より、このプロローグは叙述トリック、或いはもっと直截にミスディレクションを企図した内容となっている。テキスト内にミスディレクションを予期させる表現を多用することで、このフレーム自体がミスディレクションを狙ったものだと示唆するってのは、とても親切だし、「プロローグで物語全体の方向性を伏し見せる」というミステリの伝統的な方法論の応用なのだ。これは正しくミステリ、つまりエンターテインメントを基盤としているが故に実験小説のための舞台としても愛されるジャンルの作品なのだなあ。

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