魔王創世記

@komokuren

第0話 建国

魔王、それは勇者に倒されるお仕事。

魔族、それは人間に恐れられる種族。



第三魔王 書す 創世前記 1年


前回の勇者が魔王城に訪れてから随分と経った。

城内で破壊された罠やあさられた物品の補充なども済み、かなり落ち着きを取り戻している。

初代魔王である私の祖父統治時は、連日の勇者襲来とそれらによる損害や損失補填でかなり大変な治政をおくられていたと聞く。二代目である母王の頃に、修繕に関する材料の確保から修繕工事までの法整備が行われ、緊急時の『節制制度』や『勇者頻出区域と魔族居住区に関する土地法』などが導入された。母王は国の安定を見定めると魔王と国政の座から退かれ、今は勇者が如何に苦戦するかを追求する『食肉植物の迷宮庭園』造りに勤しんでおられる。200歳の節目に、若輩ながら私は魔王位を継承したが、治政はたった3年なれど無難に勇者を退けることができたのは母王・祖父王が築いてきた礎のおかげだ。


『魔王の性別が変わるごとに勇者が困惑する他、武具や演出を作り直すのは国費の無駄である。よって、魔王は初代に準じて出来るだけ男子とし、可能な限り出費を抑えるべきである』


母王が退位するときの伝説の演説だ。

以来、彼女は甲冑からドレスへと、武勇からガーデニングへと、魔王から母へと姿を変えた。



謁見の間にある窓から、チラと庭園へ視線を向ければ、今日も食肉植物に餌を与えている。食肉植物という名前なれど、肉を毎日確保するコストを省くため、人工肥料が開発されている。多すぎず少なすぎず、勇者がいつ来てもいい塩梅に腹が空くようにと苦心する母は今日も美しくおられる。


と、廊下から魔宰相達が慌てて掛けこんできた。

5人ほどいるだろうか、智に富み故に単体行動をとることが多い彼らにしてはおかしな様相だ。ここ最近聞かなかった喧騒に眉をひそめた。新たな勇者の到来かもしれない。言葉を促すように手のひらを僅かに返すと、押し出されたように前に出た一人の魔宰相が言葉を選びつつ声を発する。


「ま、魔王様。に、人間達が勇者制度を廃止し、全面降伏を申し出てきました」

「全面降伏?__国を挙げた壮大な罠では無いか?」


あるいは魔宰相が反逆して勇者を手引きしたパターンかもしれない。

低い声で答えつつ、剣の柄にそっと手を伸ばす。察した魔宰相が、本来であれば彼らのプライドが許さないであろう慌てふためきっぷりで両手をバタバタと横に振る。必死さが、どうやら反逆パターンでは無いことを物語っていた。


「いえ、こちらでも確認のためゴブリン伝達隊に探りを入れさせたのですが、どうやら本当のようです」

「どの国が言ってきた?」

「そ、それが……」

「砂漠の国バハラジャか、いや最近暴動が起きたという天辺の地ファザークか?」

「す、」

「なに、海洋国スイゼンだと?あの様な豊かな国が早々降伏する様には……」

「全てでございます」

「……」


私が好きだったはずの沈黙は、その時だけは肌にじっとりとまとわりつく不快だった。

その静寂に耐えきれなくなった別の魔宰相が、「全てでございます」と小さく絞り出したのがまた更に不快感を増した。



こうして、若干200歳の私は、あまりに唐突に世界を手にしたのであった。

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