第22話
金曜日、他の職員が帰った事を確認したクレアから内線が入り、3人はアフレック氏のオフィスに集まった。
各々がアンケートを見ての所見のメモを持参している。
「さて、リストの順に皆でチェックしていきますかね」
そうアフレック氏が提案するとクレアが小さく挙手して発言した。
「正直、私、違和感を感じた患者さまは居なかったんですが、みなさんは如何ですか?」
「わたしもだ」
「僕もです」
意外なことにと言うか、やはりと言うか、みな初診アンケートでは何も見出せなかったようだ。
「やっぱりそうですよね? それで、わたしリスト自体を検討しなおしたんです。来訪者に見落としが無いか」
クレアは別のリストを掲げて続けた。
「アフレック先生はご存知と思いますが、シュルツ先生は例のNGOの活動を勤務時間外にオフィスでやっておられました。それで、たまに当院の患者さまではない相談者さんがいらしてたんです」
「ああ、そうだったな。わたしにもオフィスを使って問題ないか相談されてOKしてたんだ。わたしは彼の活動に賛同してたから、むしろ当院扱いにして無償サポートにすればいいと提案したんだが、開かれた市民運動にしたいし迷惑を掛けたくないからと断られたんだよ」
無言で頷くクレア。そして続けた。
「それで一応、セキュリティの意味で、来院されるかたのリストと、スケジュールは事前に頂くようにしてたんです」
「ふむふむ、それで?」
「参加されてる市民の方々とのミーティングにお使いになることがひと月に1回程度、それと別におひとりでいらっしゃるかたも月数名」
カレンダー式のスケジュールをみなに見えるよう机に置き、指で指しながら説明する。
枠の中に5名ほどの名前がある所もあれば1人だけの枠もある。
「このリストは警察には提出していないものです。シュルツ先生から何があってもこれは警察には見せるなと約束させられているスケジュールで、わたしが個人的に管理しているものです。幸い警察には院の訪問者リスト以外の来院者については聞かれなかったので伏せさせて頂きました」
恐らくは、個人の来客は犯罪歴のある人物なのだろう。確かに扱いは慎重に成らざるを得ない。
「なるほど、反社会的な人物が出入りしてたとなると警察も黙ってないだろうし評判も悪くなるだろうからな。そこまで頭が回らなかったよ。さすがはシュルツだ」
アフレック氏は感心して頷いている。
「その中に怪しいのが?」
「そうなんです。このかたは以前当院の患者さまだったかたです。なのでこの子だけはカルテがありました。見てください」
古びたカルテにはフレデリック・ジェフスキーとある。年齢は9歳だ。
「これって保護プログラムの?」
「正確には違います。26年前のこの時にはまだ保護プログラムはなかったんです」
アフレック氏が膝を打った。
「ああ、いたいた。ネグレクトの被害者なんだけど、州に依頼されてシュルツが定期的に出張して診てた子だ。この子がきっかけになって保護プログラムの予算が付くようになったんだ。」
カルテを開くと初診アンケートも添付されていた。
そこには子供の乱雑な字体でジェイソン・ヴォーヒーズと記名があり、その上にシュルツ氏のものと思われる筆記でフレデリック・ジェフスキー訂正してある。
クラークは息を呑んだ。
「ひどい、、、」
職業欄には「殺人鬼」の記述。こちらも「3年生 不登校」と補足してある。来院理由は「人殺しをやめられないから」とあり、痛みなどはありますかの問いに対してYes/Noの欄に丸は付けず「痛みを愛せ」とある。
アフレック氏は老眼鏡をずり下げてクレアに訊ねた。
「この偽名? は旧姓か何かなのか?」
問われたクレアは言いにくそうに自分の手の甲を摩った。
「その件は、確証はないのですが、、、」
クラークは助け舟を出した。
「有名なホラー映画の登場人物の名前ですよ。ホッケーマスクを被った『ジェイソン』ってご存知ないですか?」
「ああ、アレか!」
アフレック氏がアンケートの生年月日欄に目を落とすと「13日の金曜日」と書かれているのが目に入った。
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