ゲームのつもりが・・・異世界?勇者召喚?めんどくさい・・・

@ta92eda

No.1 ゲームの始まり

『インストールが終了しました』

画面に表示された文字を見てほっとする。

昔流行ったオンラインゲーム「ソード & マジック」。

そのリメイクが発売されたのが今日。

完全フルダイブ型ゲーム機。

専用のヘッドマウントディスプレイを使用して

仮想現実、つまりは完全な異世界のような空間で体感できる。

少し前のラノベとかで良くあったシステムが

最近、ついに現実となった。

普通に予約、入荷待ちのはずの機械。

偶然にも良く見るオンラインゲーム情報サイトの懸賞で当たった。

モニターってやつ?

しばらく使ってレポート提出する事になっている。

レポートはめんどくさいけど・・・

「とりあえずキャラメイク!かな?」

浮かれながらディスプレイを装着、電源を入れた。



『Wellcom』

画面中央に表示される。

早速、ログイン。

アカウントはかつての「ソード & マジック」で使っていたもの。

もうゲーム自体、辞めて5年位になるんだけど・・・

こう言うネットの情報とかって結構、残ってるもんなのね。

無事、ログイン。

画面表示が

『Wellcom Back』

に変わる。おかえりなさい・・・かぁ。

さてと、さっくりキャラメイク・・・と、思って画面表示を見ると

『以前のキャラクタデータを引き継ぐ』

とだけ書かれている。普通、新規作成って有る筈なのに見当たらない。

いきなりなバグか。なんて思ったけど・・・まぁ、もともとかなりやり込んでたゲーム。

育てる手間を考えると、これはこれで楽チンだし、良いか。

なんて気軽に考えてポチッと押したところで・・・

あれ?以前のキャラって・・・なんか嫌な予感がするな・・・



「・・・・・」

凄い。この一言に尽きる。

景色のリアルさ、空気の匂い、触るものの感触が

とても仮想空間とは思えない位だった。

技術の進歩ってほんと凄いわ。


んでまぁ・・・嫌な予感についてなんだけど・・・

うん、思ってた通りだった。

以前のキャラ。

名前はToyah。これってリアルの名前『冬夜』を英語っぽくしただけ。

金髪に赤と緑のオッドアイ。

身長120cmくらいのつるぺた幼女。

中身、40過ぎのおっさんだけどね。

背中にコウモリの様な羽根の生えた・・・

種族的にはサキュバスってやつ。

そうだった・・・一番やりこんでたのってこのキャラだったっけ。

服装も当時のまま。

俗に言うゴスロリってやつ。

全然詳しく無いんだけどね?

何故か手に入る装備がこんなんばっかりだった。

まぁ、戦闘始まっちゃえば関係無いんだけどね。

え?だってただのオシャレ装備だし。


くしゃ。


ん?なんか踏んだ?紙屑?と思って拾い上げると

「ちゅーとりある」

・・・・えーっと・・・

なに?この手抜き感。普通、視界に表示されるとか・・・

「リアルな羊皮紙を再現した演出です。」

なんて説明に振り返ると一人の女性が立っていた。

何故か裸エプロンで・・・・

「変態がおる・・・」

「失礼ですね、これはサービスの一環としてやってるだけです!」

「なんのサービスだよ・・・」

「お好きでしょ?こう言うの♪」

あぁ、確かに・・・

「出来る限り現実に近い・・・仮想世界という事を意識させない為の演出の一つですよ。今までのRPGによくあったステータス画面とかは基本、この紙に表示されるんです。」

「・・・・・・」

「あ?あれ?説明、いりませんでした?」

やばい、空気読み間違えた?みたいな表情を浮かべる少女。

「いや、ありがたいけど・・・誰?」

「あぁ、自己紹介忘れてましたね、ワタシ、今回のサービス用に作られたAI、サポートキャラのナニーと言います。」

「AI?・・・NPCってこと?」

「NPCって言い方はちょっと不満ですね、あんな案山子と一緒にしないで欲しいですわ。」

「でもAIって事は中の人居ないんだよね?」

「はい、そう言う設定です。」

「設定!?」

「おっと。居ません居ません。」

ホントにAIなんだろうか?

「そんな事よりですよ?最新の技術で作られた仮想世界、ここ独特の・・・他のオンラインゲームとは違った作法が幾つかあります。そういった事をサポートするのがワタシ達なのです。」

えっへんと胸を張る。無い胸を。

「今、何やら悪意を感じました・・・」

「・・・・き、気のせいだよ?」


その後、色々教わった。って言っても

基本、リアルとほとんど変わらない。

ステータスに関しては過去のデータを引き継いだ事もあって

えらいことになってるらしい。

らしいってのは見えないからわからないのよ。

なんでもそう言う仕様らしい。

お金とかも自分で管理しなくちゃいけない。

一般的なRPGみたいに金額表示とかはない。

あぁ、あと一つだけゲームらしい物、鞄。

クマのぬいぐるみリュック。

大きさは普通。ぬいぐるみとしてね?

お腹の部分に物を入れられるんだけど・・・

これがとにかく色々入る。

しかもいくら入れても重くならない。

そんな訳でクマのお腹に今はお金がいっぱい入ってる。

これもデータの引き継ぎで以前の所持金がそのままあるらしい。

数えるのも面倒くさいので多いうちはこのままでもいいかな?


そんな訳でステータス、所持品とかそう言ったウィンドウとか一切ない。

唯一、HPだけは視界の端に表示されてる。

スキルとか魔法に関しては・・・なんと言うか

教本?みたいな物がある。

魔法はスペルが書かれていて

それを正確に発音すれば良いらしいし

スキルも体の動かし方が図解付きで書かれてる。

これも動きが正しければ発動するらしい。

繰り返し練習すればなんとかなりそう。

HPの回復はよくある「ポーション」ってやつ。

あとは食事でも回復するらしい。


「どうです?わかります?」

「うん、まぁだいたいは。」

「あと何か聞いておきたい事とかあります?」

「ん〜・・・・あ、そうそう、大事な事忘れてたわ。」

「何でしょう?何でも聞いてください♪」

「ログアウトってどうやるの?」

「・・・・・・・・へっ?」

「ログアウト。やめる時は?」

「・・・・・・さぁ?」

「・・・・・・・ぉい。」

「・・・・そう言えばワタシもそれ聞いてませんでした。」

・・・・・・

「Oh! ナニー・・・」

「ちょっ!ため息の直後に名前呼ぶの止めてください!ワタシそんな事してませんよ!?」

「いや、そんな事より・・・」

「そんな事ってなんですか!そんな事って!」


「どうでもいいじゃん」

「良くないです!!」

「それよりもログアウト!どうすりゃいいの!?」

「アー、ワタシNPCナノデワカリマセン」

「なんかむかつくな、自慰娘・・・」

「ひどい呼び方!!」

「あれ?ナニー様じゃありませんか。」

通りすがりの騎士風の男が話しかけてきた。

「勇者様のお世話、お疲れ様です。いや~、それにしても・・・・すごい恰好ですね。それって勇者様の趣味ですか?まぁ、王様も言ってましたしね。帰れないんだから出来る限りのことしてあげなさいって。」

「ちょっとまて・・・・帰れないってどういうことだ?」

「ちょっ!何ばらしてんの!?」

「あれ?・・・・ひょっとして・・・あー!用事思い出した!!じゃ私はこれで!!」

ダッシュで逃げる騎士風の男。

ナニーは逃がさないようにしっかりと襟首掴んである。

「聞いてないぞごるぁ!!」


舞台は変わって・・・

トーヤ達よりも少し街に近い街道。

一台の馬車がゴブリンの集団に襲われていた。

「くっ、数が多い・・・」

「街までもう少し、頑張るんだ!!」

頑張れと言ったもののゴブリンの数はパッと見で100以上。

いくらレベルが低いとはいえこちらは4名。

うち一人は今回の護衛対象。

この国の第3皇女。

本来ならもっと護衛は多いはず。

建前上、お忍びということになっていたが

本音は・・・大人の事情的なものがあったんだろう。

護衛の人数は最小限にされていた。

今回の襲撃にもその辺の色々な思惑が・・・とはいえ、

流石にこれは多勢に無勢。

このままではまず間違いなく負ける。

何とかこの状況を打破できる手段は・・・・


「あれは・・・なんですの?」

「姫!」危ないです!!下がって!!」

なんで護衛対象の姫がフラフラ出てきてるんだ!

姫に言われた方向を見ると・・・人影?

ゴブリンの集団の後ろに人影。

向こうからも見えているはず・・・なのに

全然気にせず進んでくる。

だいぶ近づいてきた・・・女の子?

全身、黒でフリフリヒラヒラ・・・何か引きずっている?


・・・裸エプロン?

裸エプロンの成人女性の襟首をつかんで引きずりながらずんずん進んでくる。

なんなんだ?あれは?



「痛い!痛いです!に、逃げませんから!は、放してください!!」

構わず襟首をつかんで引きずりながら歩く。

先ほどナニーから聞き出した情報では詳しい事情を知るやつはあの街の中心、王宮にいるらしい。

怒りに任せてここまで歩いてきたが・・・何やら前方が騒がしい。

「オナニー、あれはなんだ?」

「酷い!『オ』はつけないで下さいよ!!」

「そんなことはどうでもいい。」

「よくないですよ!ちっとも!!」

「それより・・・あれはなんだ?」

「それよりって・・・え?」

視線の先には一台の馬車。それに群がる子鬼の様な集団。

「ゴ、ゴブリン!!しかも、なんて数・・・」

確かに数が多いな・・・100以上?

「に、逃げましょう!あの数じゃどうしようもない。」

見捨てる?そうだな・・・・でも・・・

「トーヤ様?」

「・・・・おい、ナニー。」

「な、なんです?ボケ抜きで真面目に話しかけて・・・」

「呆けた方が良かったか?」

「いえ、そんなことは・・・で?なんです?」

「俺のステータスとかって、以前のキャラのままなんだよな?」

「そうですね、あそこで新規作成してたらこちらには呼ばれていません。」

「そうか・・・詳しいことはあとで聞くとして・・・」

「・・・な、なにする気です?トーヤ様?」

「ちょっと助けてくる。」

ごそごそ・・・

「ちょっ!助けるって・・・な、なんで脱いでるんですか!?」

すっぽん!

「黙って服、集めとけ!!」

そういって走り出す。体が軽い。



「くっ、ここまでか・・・」

流石に3人じゃゴブリンの集団にはかなわないか・・・

「リーダー!あれ!!」

言われて視線を先ほどの人影に向ける。


・・・・走ってくる。


・・・幼女が。


・・全裸で?



「抜刀!」

そう一言呟くとどこからともなく剣が現れる。

以前のゲームで愛用していた両手剣。

真横に構え、体の回転を利用して一振り。

衝撃波のようなものが飛び出しゴブリンの集団へ向かっていく。

一撃で20~30匹が宙に舞う。

こちらの襲撃に気づいたのか残りのゴブリンが一斉に襲い掛かってくる。

剣を振り回した回転の勢いを少し変え、剣に引っ張られるように上空に飛び上がる。

ある程度の高さで止まり、落下を始める。

その隙に剣に魔力を込める。

そのまま落下と同時に剣を地面につきたてる。

「・・・エクスプロージョン。」

その一言で魔力がはじける。

自分を中心に巨大な魔力爆発。

閃光と土煙と衝撃。

収まった時にはすべてのゴブリンが息絶えていた。



な、なんなんだ?この幼女は・・・

「・・・無事か?」

平然とした顔で話しかけてくる。

「あ、あぁ、助かった。」

「そうか、よかった。間に合ったか。」

「あぁ、命拾いしたよ・・・・ところで・・・」

「ん?」

「・・・なんで全裸?」

「あぁ、驚かせて済まぬ、こういう戦闘スタイルなのだ。」

意味がわからん・・・

「と、トーヤ様!」

「おぉ、ナニー、服ちょうだい。」

「ちょうだいじゃないです!何やってるんですか!あなたは!!」

「何って・・・人助け?」

「脱ぐ必要あったんですか!?」

「脱がなきゃ力が出ない。」

「・・・へ?」

「まぁ、どうでもいいだろ?助かったんだし。」

いちいち説明するのもめんどくさい・・・

「納得していいのかしら・・・」

まぁ、納得はできないだろうな、普通。


「お、終わりましたの?」

馬車の中からめっちゃ高そうなドレス着た女の子が出てくる。

年齢は・・・17~18くらい?ややオレンジがかった茶髪。

服装もなんだけど動きというか・・・一つ一つの動作がなんかすげー優雅。

「この度は危ないところをありがとうございました。」

「いやぁ、困ったときはお互いさまというか・・・ん?」

隣を見るとナニーが膝まづいている。

「どうした?オナニー?」

「ちょっ!姫の前でやめてください!失礼です!!」

「姫?」

あぁ、そういわれれば確かに・・・高貴な感じっての?するね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る