僕の人生、最悪の2日間

風見☆渚

第1話 不幸な転校生



少年の名は、エクス。

少年としては、よくあることではあるが、今日も眠れぬ夜を過ごしていた。

いつもならこのまま朝をむかえるところではあったが、今日はいつもと違い、色々と考える事に疲れたのか、部屋の蛍光灯がまぶしく光ったまま、気がつくと寝息をたててベットに横になっている。


僕は夢を見ている。

夢を見ているという実感がある事は分かっているんだけど、夢にしては曖昧すぎて、なんだか頭がぼーっとしてしまう。

今僕は深い霧に包まれ、周りの見えない夢の中を、ひたすらどこに向かっているかも分からないまま歩き続けている。

これから僕は、どこに行きたいのだろう。


僕は、親の転勤で明日から新しい学校へ通う。

知らない町。

知らない人。

知らない空。

知らない風景。

でも僕は、そんな知らないという当たり前に慣れている。

よく親の転勤で、色々な街へ引っ越しを繰り返しているから。

どうせ仲良くなっても、いつかは離れてしまう。

新しい友達を作る事もなく、次の街へ。

そんな、何もない毎日を繰り返している。

そして、明日から、また、新しい知らない街の知らない学校に通う。

どんな人達がいるのか不安になり、転校前日はいつも緊張して眠れない。

こればかりは、何度経験しても変わらない。

そして、あまり眠れないまま朝をむかえる。

今日も・・・いつものようになるはず、だった。

でも、今回は眠れない憂鬱な時間から、突然夢の中へと飛んできた。

その夢が、この前後左右、上下すら霧に包まれた何も見えない世界だ。

そして僕はどこに向かっているのだろう。

霧以外何も見えない、何もない空間をひたすら歩いている。

何を考えるでもなくただ歩いていると、遠くに微かな光が見えてきた。

あの光に入れば、このまま何事もなく目が覚めるのだろうか。

僕はそんな事を思いながら、光に向かって歩いて行く。

すると、光の方からなのか、微かに声も聞こえてきた。

誰かが僕を呼んでいる?

僕は、歩きながら耳を澄ます。

微かな声は、動物の鳴き声のようにも聞こえる。

光に近づいていくと、その鳴き声らしき何かも、段々はっきりと聞こえるようになってきた。

しかし、その鳴き声らしきモノに、聞き覚えがない。

犬か猫か・・・はては熊なのか・・・・

その鳴き声らしき声は、

「クルル・・・クルル・・・・」

くるる・・・?

やっぱり聞いた事のない鳴き声だ。

どんな動物なんだろう・・・?

たぶん、目の前に広がる光の中から聞こえてくるのだと思う。

この先に、その動物がいるのだろう・・・

そう思い、僕は光の中へ、引き込まれるように入っていった。

光の中へと入ると、あまりの眩しさに目を開けられなかった。

周りの眩しさに慣れてきた時、ゆっくりと瞼を開き目の前を確認する。

するとそこには、黒光りした軟体動物とも言い難い、人型のバケモノが辺り一面ウヨウヨいた。

気がつけば、僕の周りはその謎の生物に囲まれていた。


「なんだこれは?!」


僕は驚き、立ちすくんでしまった。

クルル!!

今にも襲いかかろうかというそのバケモノがジリジリ僕に近づいてくる。


「誰か!誰か助けて!!」


僕は小さく屈み込み、無我夢中で叫んだ。

その直後、


「大丈夫?!」


少女の声が聞こえた。

ゆっくり目の前の光景を確認すると、僕の前には少女を中心に3人の人影が立ちはだかっていた。


「僕を助けてくれるの?」


僕はその少女に話しかけた。


「まだ、無事かしら?」


少女は背を向けたまま僕に言った。


「おまえも戦うんだよ!」


青年が手を引き、小さく膝を抱えた僕を立ち上がらせる。

横にいたもう一人の少女が、


「はい、これはあなたの分です。

さて、立ち上がって一緒に戦いましょう!」


そういって、何も書いていない真っ白な本を僕に手渡した。


「君たちはいったい・・・」


僕が話しかけると同時に、バケモノが僕達に襲いかかってきた。

少女達は、本を片手に神々しい光に包まれ、バケモノに向かっていった。

僕も真似て本を開くと、不思議な光に包まれた。

初めてなのに、僕は、この感覚を知っているような気がする。

手にした本を開き光に包まれたと思ったら、僕は僕でなくなっていた。

そして、手にしていた剣でバケモノに向かっていった。

数が多く、キリがない。

だが、ひたすら僕は剣を振り回し戦った。

息が切れ、手にした剣が重く感じて来た頃、気がつくとバケモノは1匹もいなくなっていた。


「君たちはいったい誰?」


僕の問いかけに答える事なく、少女達は


「またね・・・」


といって光の中へと消えていった。

気がつくと、僕は見覚えのあるベットで横になっていた。

外は明るく、もう日が昇っている。

横にある時計を見ると、もうすぐ6時になるかという時間だった。

目覚ましを6時半にしていたので、目覚ましよりも早く起きてしまったのかとため息をつきながら、疲れ切った体を起こす。

微かに、手には夢に見た剣の重みが残っている。

あれは夢・・・だったんだよね?

まだ早いし、二度寝でもしようかと思ったが、妙に目が覚めてしまい、二度寝どころではなくなってしまった。

ゆっくりとベットから立ち上がり、登校の準備をする。

今日から新しい学校だ。

気が重いが、新しい知らない街へ行くとしよう。

折角の早起きだから、少し寝ぼけた感覚も残っていたが、ゆっくりと学校へ向かう事にしよう。

新しい街の新しい風景。

今は見慣れないが、見慣れた頃にはまた転校してしまうのだろう。

そんな事も、ゆっくり歩いていると余計に考えてしまう。

いつものスピードなら30分といった所だろうが、ゆっくりと疲れたように歩いていたせいか、1時間近くかかって転校先の学校に着く。

そして、僕は驚いた。

目の前のあり得ない光景に。

誰だって、こんな転校初日は驚くはずだ。

だって、その新しい学校の校門には、大きな文字で『学園祭』と大きな文字で堂々と書いてある。

この状況を見て、驚かない人がいたら、是非会ってみたいモノだ。

朝早いにもかかわらず、賑やかに生徒達が右往左往している状況を横目に、僕は職員室へ向かった。

転校初日に学園祭?

親は、もう少しタイミングとか考えないのだろうか・・・

職員室で教師らしき人に声をかけると、今日転校してくる事を知っていたのか、担任だという教師に案内された。

初めてなのに僕のことを知っている?

こんな日に転校してくる生徒がいるのだから、もちろん話題になって当然か。

案内された担任は・・・・

髪が長くぼさぼさで、どう見ても教師っぽくない。

こんな人が担任してるクラスって・・・どんな?


「担任のロキです。

今日から宜しくね。エクスくん。」


そういって、ロキ先生は僕の手を取り握手してきた。

もうすぐホームルームらしく、教室まで一緒に行く事になった。

先生が言うには、明日が学園祭の当日になるらしい。

どうやら、学園祭の前日に僕は転校してきてしまったらしい・・・

教室の前。僕は緊張で体が固まってしまった。


「そう緊張しなくても大丈夫だよ。

僕みたいに適当でいいよ。

リラックスしてさ。」


うん・・・この先生は見た目通り適当なんだ・・・

違う意味も含め小さくうなずいたが、それで僕の緊張が消えるわけがなかった。

こんな中途半端なタイミングで転校してきたのに、緊張するなって方が難しい。

ドアが開き教室に入る。

そこには・・・どんよりと静まりきった光景が広がっていた。

何故?

明日は学園祭というにも関わらず、この雰囲気はいったい?


「彼が、今日転校してきたエクスくんだ。

みんな仲良くして・・・」


と先生が僕を紹介している途中で、突然目の前の少女が立ち上がり、僕を真っ直ぐ指差し、


「君に決めたわ!

明日の主役、宜しくね。」


というと、クラス中が拍手喝采。

何がないにやら、


「主役って、いったい何?!」


僕の声を無視するかのように、クラス中がやっときまった主役と大盛り上がり。


「姉御!

新人さんが困惑してますよ。

あ、私はシェインです。

すみません。うちの姉御・・・いや委員長が突然。

申し訳ないですが転校生さん、この役、引き受けてくれませんか?

ということで、ちゃんとしっかり説明してあげてくださいよ。」


横にいた少女が立ち上がり、僕を指さした少女に意見している。

ため息交じりに、僕を指さした少女が改めてというか、腰に手をやり偉そうな雰囲気で話し始めた。


「私はレイナ。このクラスの委員長よ。宜しくね。

ごめんなさいね突然。聞いていると思うけど、明日はこの学校の学園祭。

そこで、このクラスでは演劇をやる事になっているの。

でもね、主役というか、主役の相手役だけが決まっていないの。

台詞も少ないのに何故かみんなやりたがらないの。

ちなみに、主役は私がやるから安心して。

そこで、突然だけど、せっかくの転校生。

ここは大抜擢ということで、主役の相手役をやってくれないかしら?

演目は『シンデレラ』。知ってるでしょ?有名なお話よ。

私がシンデレラで、あなたは王子様って事。

こんな美少女の私が相手なんだから、不満なんかないわよね?」


ひとしきりマシンガンのように話し終わったレイナという少女は、気が済んだのかそのまま席に着いた。


「いやいやいや、今日が初めてなのに、シンデレラは知ってるけど、僕なんか・・・」


と、もごもごしていると、背の高い男子が急に馴れ馴れしく僕の肩を抱き、


「もうおまえしかしないんだよ!

これは運命だから、拒否権とかないからな。

ちなみに、俺はタオ。よろしくな。

ちなみに、俺は馬車を引くネズミの役だ。

よろしく頼むぜ、お・う・じ・さ・ま。」


タオという青年に満面の笑みで言われ、流れるように僕は王子様の役を引き受ける事になってしまった。



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