第2話「孤独と死」
ひかり「ん? 何か言った?」
友人「ひかり? どうかした?」
ひかり「うん……、今、誰かに呼ばれたような……」
友人「知り合いでもいた?」
ひかり「ううん。別にいいよ。ほら行こう」
大きな交差点が緑色を示すと、誰もが自分達の行くべき場所へと目指して歩いていく。
私たちも交差点を渡り、いつものように学校を目指す。
大勢の一人。その中に私も含まれる。
でも、私のように孤独を心の中に飼っている人はいないだろう。
別段、両親の仲が悪いわけでもないし、学校には友達もいる。
不住のない暮らし。楽しい生活。
でも、私はそんな暮らしの中に孤独を覚えていた。
私もいつか、大人になって、おばあちゃんになって、いずれ死んでおしまい。
そんな人生が酷く孤独に思えるようになっただけの話だ。
友人「ひかり、何してんの? 置いてくよ~」
ひかり「ごめん、今行く」
こうして、昨日と同じ毎日がカセットテープのように繰り返される。
誰も不思議に思わないし、それが通常だと思っている。
私は思わないし、思えない。
でも、それは異端だ。誰にも言えない。
そこにも、孤独は染み込んでいた。
//暗転
//学校
//SE:チャイム
ようやくお昼の時間になった。
退屈な授業の時間がおわり、しばしの休息にほっとため息をつく。
友人「ひかり、ため息なんてついちゃって、何かあった?」
ひかり「ううん。何にもないよ。ただ、授業がつまらなくて」
どんなに勉強したって、寿命が延びるわけでもない。
それに、どんなに勉強したって、この孤独はだれにも理解されないんだから。
友人「そっか……。でも、何かあるんだったら、相談してね」
ひかり「うん」
勤めて明るい笑顔で返した。
いつものように、屋上で、私と友達はお弁当を広げた。
ここは学校の中でも一番、天国に近い場所だ。
だって、そこには、死の境界線がすぐ側にあって、空はちょっとだけ近くなる。
本当は入っていけない事になっているのだけど、鍵が甘いので、複数の生徒が黙って利用している。
友人「ね、ひかり……、あんな所で男子がバレーしてるよ」
ひかり「本当だ……、危ないね」
お母さんが作ってくれたお弁当を二人で食べ終わると、私たちは立ち上がった。
スカートについた埃をパンパンと払い落とす。
その瞬間、ふざけていた男子の一人が私にぶつかってきた。
とん……、と、軽く肩が当たっただけだった。
ひかり「あ……」
友人「ひかり!?」
友人の悲鳴のような声が耳を通過した。
不意に浮遊感を感じた。足が地面から離れていた。
あれ、と思ったとたんに顔に物凄い突風が吹きつける。
地面が眼の前に迫ってきた。
その時に気がついた。
私、屋上から落ちたんだ。
死ぬんだ。
眼を閉じた。
ああ、このまま、地面に激突するのかな。
短くて、つまらなくて、酷く孤独な人生だった。
私は死の境界線を越えてしまった。ただ、ソレだけだ。
//暗転
ぺちぺち。
私の頬を誰かが叩いている。
誰だろう。
ぺちぺち。
なんかだんだん痛くなってきたような気がする。
べちんべちん。
痛い……、ものすごーく痛い。
ひかり「誰!? 痛いよ!!」
???「ようやく眼を覚ましたね」
ひかり「??? 誰?」
アスナ「私はアスナ。アンタを見つけてここまで運んでやったんだよ」
ひかり「あ、ありがとう」
???「おお、白き神様、お目覚めになられましたか」
???「このオババ、眼が見えるうちに神様に出会えるとは嬉しや、嬉しや」
アスナ「オババ、神様とやらは若干、引いてるようなんだけど?」
白き神って……、このおばあさん、ぼけちゃってるのかな?
ひかり「あ!?」
ここで、すっかり忘れていた事実を思い出した。
そうだ、私屋上から落ちたんだ!!
ひかり「私……、死んだの?」
アスナ「……」
オババ「……」
アスナ「ねぇ、この子ちょっとおかしいんじゃないの?」
オババ「何を言っておりますやら、神様はここにおいででございます」
ひかり「……、あの、神様って一体、何のこと?」
アスナ「アンタ、白き神なんだろ?」
オババ「私どもは、あなた様に使える民でございます」
ひかり「……、白き神って何?」
アスナ「……オババ、やっぱり間違ってんじゃないの?」
アスナ「この子、どっかで頭ぶつけて落ちてきた人族(ひとぞく)なんじゃないの?」
ひかり「ヒトゾク?」
アスナ「空の民と人族の違いも分からないの?」
ひかり「……、ここはどこ? 私、どうしてこんな所にいるの?」
アスナ「ちょっと、落ち着きなって」
ひかり「どうして、死んだはずなのに……、ここは死後の世界?」
ひかり「死んだら、無になるんじゃないの? こんな中途半端なの?」
アスナ「落ち着きなって、ちょっと混乱しちゃってんだろ」
ひかり「嫌、誰も来ないで」
アスナの手を強くひっぱたいて、拒絶した。
アスナ「いった~。神様だからって、優しくしてやったのに!!」
ひかり「あ、ごめんなさい。でも、私、本当に神様なんかじゃない……」
アスナ「……じゃあ、あんたの背中に六つの翼は生えてない?」
ひかり「え?」
慌てて背中を確認してみるけど、そんなものは生えていなかった。
ひかり「生えてないですよ」
アスナ「おっかしーな。白き神は六つの翼を持ってるはずなんだけど」
アスナ「ちょっと見せてみて」
ひかり「え? ちょっと、いや、脱がさないで下さい!!」
アスナ「女同士なんだから、何も恥ずかしく無いでしょ?」
ひかり「い、嫌です!!」
アスナ「いいから、いいから」
押し問答をしているうちにあっと言う間に、私は脱がされてしまった。
アスナ「はい、背中見せて」
仕方なく、私はアスナの言うとおり背中を見せた。
アスナ「ふんふん、うーん。オババ、やっぱりないよ」
オババ「いや、このお方で間違いない」
オババ「天空の異世界からおいでになった白き神」
アスナ「……白き神って言うけど、眼も髪も真っ黒じゃない」
オババ「ほれ、ここに白き神の印があるではないか」
オババさんが背中をすっと撫ぜた。
その冷たい指先に一瞬驚く。
アスナ「こんなのただの痣じゃない」
オババ「いや、間違いなく、この方こそが白き神じゃ」
アスナ「……、そんなに言うんなら、早く《大いなる翼》とやらを呼んでもらえばいいじゃない」
ひかり「……大いなる翼って何ですか?」
アスナ「……」
オババ「……」
ひかり「あの、なんかいけない事、言いました?」
アスナ「ほら、言ったじゃない! こんなの早めに人族の村に返して来たほうがいいって」
アスナ「こんな所で人族をかくまって、万が一、ペルティナ族に見つかったらアルニカ島ごと殺されちゃうっての」
ひかり「あの、死後の世界にも死ぬって概念があるんですか?」
アスナ「……、あのさ、もう喋んないでくれる?」
オババ「白き神様になんと言う言葉の使いかたじゃ!!」
//音・パコン
アスナ「いたた。でも、オババ、本当にこの子、白き神じゃないよ」
オババ「例え、白き神様でなくとも、この方にはここにいていただく」
アスナ「どうして、そんな危険なことするのさ!」
オババ「ペルティナ族は我々、空の民じゃ。空の民の始めた人狩を止めるのも、我々、空の民の務めじゃ。それに、この方は間違いなく白き神様じゃ。追い出したりするなどもってのほかじゃ!!」
ひかり「あの~、私、話についていけないんですけど……」
//音;がたがたバタン!!
突然、大きな物音と共に背後にある奥の扉が開かれた。
???「白き神がまいられたと聞き、馳せ参じた!!」
???「待ってください!! ロイス様~!!」
???「おい、そんなに急ぐな……」
???「あ……」
ひかり「……、い、いやあああああああ!!!」
私は思わず、その場にあった物を投げ飛ばした。
物凄い勢いで扉が閉まり、投げた物はドアに当たって落ちた。
アスナ「ご、ごめん、脱がせたままだったっけ……」
私はアスナさんをキッと睨みつけると、服を急いで着用した。
私が服を着終わると、コンコンと控えめなノックが向こうから聞こえた。
アスナ「いいですよ」
もう、私は涙眼でその闖入者を睨み付けた。
???「先ほどは失礼した。私は人族の王、ロイス」
???「ボクはロイス様の従者、アレックス」
???「ロイスが先走ったんだ、俺達に罪はないと思うんだけどな。ま、お嬢ちゃんじゃ、見るところなんてねーからいいじゃねーか」
なんて失礼な人なんだろうと思って睨みつける。
しかし、その大柄の人は私の睨みをそらし、言葉を続ける。
???「ああ、自己紹介しねーとな。俺は空の民の内の一人、ローレル族の王、バルド」
???「バルド王、失礼すぎるんじゃありませんか?」
???「私は空の民の一人ナックス族の王、フェルナと申します」
ひかり「……、あの、それで、その王様? が何の用ですか?」
ロイス「お主が白き神か!?」
バルド「おい、背中の翼はどこに隠してんだ? 服ン中か!?」
バルド王は躊躇無く、私の背中へと手を滑らせる。
ひかり「きゃあああ!! そんなところ触らないで下さい!!」
アスナ「ほら、バルド、手を引きなって。私が確認したけど、六つの翼なんか無かったわよ」
アスナ「無理やり引きちぎった形跡もないし、ただの人族よ」
フェルナ「バルド王は少し、女性の扱い方を覚えた方がよろしいと思いますよ」
バルド「……こんな女にはいらねーだろう」
フェルナ「はぁ~、そんなんだから浮いた話の一つもないんですよ」
バルド「お前はスキャンダラスな噂が耐えねーだろうが」
フェルナ「女性を悲しませたくなくてね。つい、全ての女性を受け入れてしまうだけさ」
フェルナ「博愛主義っていうんだよ」
ロイス「二人とも黙っていてもらえないか?」
アレックス「そうだ! そうだ! 少しはおとなしく出来ないかよ」
ロイス「白き神よ、我ら人族の救世主。是非、我らと共に戦ってほしい」
ひかり「……い、いや。私、普通の女子高生だし……、そんなこと、できない」
ロイス「白き神よ、幻の
ロイス「《大いなる翼》が危険なものであることは分かっている。それでも、このままでは、人族がいなくなってしまう」
ひかり「……出来ないって言ってるじゃない!! 私、白き神でもなんでもないの!!」
ひかり「なんなの? 白き神って。《大いなる翼》って何? 大体、ここ何処? ペルティナ族って何? どうして、背中に羽が生えてる人がいるの? ここは死んだ後の世界じゃないの?」
ロイス「……神は、何も知らずに天より参られたのか?」
バルド「さぁて、どこから話したらいいもんかねぇ……」
フェルナ「……困りましたね」
オババ「お三方、白き神には、このオババがこの世界の事をお伝えいたしまする。今しばらく、時間を下され」
アスナ「さ、みんな出ていきな」
アスナさんが四人を連れて部屋の外へと追い出した。
そして、最後にアスナさん自身も外へと出て行った。
オババ「さぁて、何処から話まするか。まずは、ここが何処なのか、お教えいたしましょう。ここはヴェル・スエールの天空島、アルニカ島。空に浮いた島でございます」
ひかり「空に浮いた島……」
オババ「そして、翼を持つ一族のことでございますが、彼らは総称して空の民と呼ばれています」
さっきのバルドとか言う人とフェルナって人のことだろうか。
オババ「《大いなる翼》の事を語るには、少々長い話しになりますが、よろしいでしょうか?」
ひかり「……はい」
オババ「昔むかしの事でございます。空の民と人族の間に大きな戦争がありました」
オババ「その時、古より伝わる《大いなる翼》という機械の化け物が白き神様と共にやってまいりました。その機械は人族しか扱えなかったのでございます。そして、ソレのおかげで、人族は空の民に圧倒的な勝利を手にしました」
オババ「しかし、《大いなる翼》の原動力は人族の精神でございました。精神に異常をきたした搭乗員は空を焼くと、今度は大地を焼き、海をも焼いてしまいました。そして、ようやく搭乗員が死ぬと、機能を停止したのでございます」
オババ「そして、その恐ろしき《大いなる翼》を空の民と人族は地中深くに封印したのでございます」
オババ「《大いなる翼》が封印されると、白き神も空へと帰っていったと言われているのでございます」
オババ「今、白き神のみ印をお持ちになった、あなた様がおいでになった」
オババ「今ひとたび、《大いなる翼》が必要になったはずでございます。ペルティナ族の進行を止めるために……」
ひかり「ペルティナ族?」
オババ「平和になった世界を手中に収めようとしている空の民の一族でございます。彼らは人族を狩り、城の中に幽閉しております。《大いなる翼》を使うために……」
ひかり「でも、また《大いなる翼》って、暴走しちゃうんじゃないですか?」
オババ「……一体、ペルティナ族の王が何を考えているのか、私には分かりませぬ」
ひかり「あと、みんなが六つの翼がどうこうって、あれはなんですか?」
オババ「白き神は六つの翼を持ち、天空へと帰っていったと言われているのでございます」
ひかり「……、なんとなく、状況は分かりました」
ひかり「それで、どうやったら、元の世界に帰れるんですか?」
オババ「……」
ひかり「あの……」
オババ「六つの翼で帰るしかありませんな」
ひかり「六つどころか、ひとっつも生えてませんけど……」
オババ「……」
ひかり「他に方法ってないんですか?」
オババ「何せ、遠い伝承でございます。私どもには分かりませぬ」
ひかり「……はぁ……」
もう、頭の中がぐちゃぐちゃだ。
一体、何が何でどうなのか、結局説明されても何の事だか分からないままだ。
なんだか……、疲れちゃったな。もう、思考回路がめちゃくちゃだ。
私がげんなりとしていると、オババさんは奥を指差した。
オババ「お疲れのようですな。奥に布団がございますゆえ、お眠りくださいませ」
ひかり「お言葉に甘えさせていただきます……」
私はのそのそ移動すると奥の方にひかれた布団へともぐりこんだ。
きっと、全て夢なのかもしれない。
屋上から落ちたことも、異世界とやらにいることも。
明日になったら、いつものように起きて、服を着て、友達といつもの交差点を横断して、いつものように帰るんだ。
そう、カセットテープみたいな繰り返しの毎日に戻るんだ。
孤独の中に戻るだけ。ここでも孤独だけど。
結局、何処へいっても孤独しかないけど。
//暗転、朝の背景
ひかり「ん……、もう朝?」
カーテン閉め忘れたのかな。すごく眩しい。
ひかり「……お母さん、カーテンしめて……、もうちょっと眠いよ」
アスナ「……おーい、神様、起きなさいよ。朝よ」
ひかり「あれ?」
アスナ「あんたにもお母さんがいるんだ? 神様も変わらないわね」
ひかり「!?」
アスナ「起きたかい? さ、顔洗ってきなよ。ご飯の準備もしてあるし」
ひかり「……夢じゃないの?」
アスナ「まーだ寝ぼけてんのかい?」
ひかり「ここ、どこ?」
アスナ「昨日、オババに聞いたんじゃないの? ヴェル・スエールの天空島、アルニカ島だって。ほら、覚えて、アルニカ島ね」
ひかり「……、アルニカ島」
アスナ「ほらほら、顔洗いにいきなさいって」
ひかり「……あの」
アスナ「ん? 何?」
ひかり「私、どこに顔洗うところがあるのか知らないんですけど……」
アスナ「あ、そうだったね。よし、このアスナ姉さんが船内を案内してあげよう」
ひかり「船内? ここは船の中なんですか?」
アスナ「そうよ。大型飛空船アリア号の中。もっとも、今はアルニカ島に停泊中だけど」
アスナ「そして、このアリア号の船長は私、アスナよ」
アスナ「この飛空船は難民や行くところのない者達の寄せ集め……、いわば避難場所みたいな場所なのよ。だから、どの国の王とも対等に話が出来るってわけ」
ひかり「オババさんは?」
アスナ「オババは先代の船長。さすがに年だからね、引退したのよ」
オババ「これ、白き神様に何を吹聴しておるか!?」
アスナ「……あいた」
オババ「白き神様、昨日はゆるりとお休みいただけましたかな?」
ひかり「あ、ありがとうございます。ゆっくり、眠れました……」
けど、夢からは覚めてないみたいだけど……。
オババ「狭い船の中じゃが、ごゆるりとおくつろぎくださいまし」
オババ「アスナ、くれぐれも口の聞き方をわきまえて、船内を案内してさしあげるのじゃぞ」
アスナ「はーい」
//暗転
//船内の廊下
アスナ「はー。オババもモウロクしたんじゃないかね~」
アスナさんはそういいながら、私を値踏みするかのように見つめた。
ひかり「……あの、何ですか?」
アスナ「あんた、本当に白き神様ってやつなの?」
ひかり「白き神じゃないと思います。だって、六つの翼、無いでしょう?」
アスナ「ないには、無かったんだけど、背中に六つの痣があるんだよね」
ひかり「あざ?」
アスナ「まるで、そこに何かが噛み付いたような痣みたいな刺青みたいなのが、六つ」
アスナ「オババはそれが、白き神の六つの翼の痕だって言って聞かないんだけど」
ひかり「痣……、そんなの覚えがないけど」
アスナ「そう。ま、いいわ。それじゃ、行きましょうか? 白き神様」
ひかり「あの、その白き神って言うのやめてもらえませんか? 私、ひかりって言うんです。だから、普通にひかりって呼んでください」
アスナ「ん。分かったよ、ひかり。じゃあ、私のことも気軽にアスナって呼んでちょうだい」
アスナ「それじゃ、まずは顔洗いに行きますか。さ、こっち」
//場面転換
アスナ「狭い所で悪いけど、ここが洗面所。隣に浴槽があるから、使用する時は、表の札をひっくり返して使ってよ。中には分かってて覗きに来る奴がいるから用心しなさいよ」
アスナ「もし、覗かれたら、私がボコボコにしてあげるから遠慮なく言ってよ」
ひかり「……は、はあ」
私は生返事をしつつ、小さな桶に張られた水で顔を洗った。
水は冷たくて、ふわふわしていた頭をしゃきっとさせてくれた。
おかげで、ここが現実であることを再度、痛感した。
アスナ「顔を洗い終わったら、水は外から投げ捨てちゃっていいから」
言われるがまま、私は水を窓の外から投げ捨てた。
//SE:ばしゃん
バルド「誰だ!? 俺に水なんか浴びせやがったのは!?」
ちょうど、窓の下には私を見下した、バルドと言う王様?がいた。
アスナ「そんな所に突っ立てるアンタが悪いのよ。バルド」
ひかり「すみません」
アスナ「大丈夫、謝らなくって。どうせ、水かぶった位じゃ死にゃしないわよ」
バルド「おいおい。一国の王が風邪でも引いたらどうしてくれる?」
アスナ「風邪なんかひきゃしないわよ。あんた、筋肉馬鹿だもん」
バルド「なんだと……、こら、降りて来やがれ!!」
バルドさんの罵声を背に、アスナはスタスタと洗面所を後にする。
私もその後を追って、ついていく。
ちょっと、バルドさんには悪いことしてしまったかな?
でも、昨日の仕返しをしたようで、すっと胸が晴れたのも事実だったりする。
アスナ「さて、今度はご飯だけど……、もう、用意してるけど。お腹減ってる?」
ひかり「あ、はい」
アスナ「じゃ、一緒に食べよっか」
//場面転換
アスナ「ここが食堂よ。何か食べ物が欲しい時にはここにくれば、大抵のものは出してくれるから、遠慮なく言って」
ひかり「はい」
アスナ「板長! 今日の朝ごはん、二人分出してくれる?」
調理場のほうからは威勢のいい声が響いてきた。
そして、あっという間に二人分の朝食がトレイに乗せられて出てきた。
アスナ「はい。じゃ、食べようか」
私はアスナに促されるまま、席についた。
ちょっと、見たこともない料理だけど、匂いは美味しそうだ。
フェルナ「これはこれは、ちょうどよいところに来ましたね」
昨日のフェルナと言う王様?が私の隣へと座った。
彼もちょうど、朝ごはんを食べにきたようだ。
フェルナ「昨晩は失礼いたしました。でも、私は止めたんですよ。それなのに、賊のようにロイス王が走り込んで行くので慌てて一緒に入ってしまっただけなんですよ」
ひかり「あ……、あのことなら、もういいです」
フェルナ「それなら、良かったです。そうだ、お詫びに朝食の後に一緒に外を散歩しませんか?アルニカ島は七鈴(ななり)草が有名なのですよ。綺麗な音色をかもし出す花です」
フェルナ「貴方と一緒に見れたならば、最高に楽しい散歩になりそうです」
アスナ「ひかり、行かない方がいいわよ。何されるか分かったもんじゃないから」
フェルナ「……それは、どういう意味ですか?」
アスナ「フェルナ王は何人もの女性を惑わせる色情狂って言われてるからよ」
フェルナ「色情狂とは言いがかりですよ。博愛主義者なんです」
アスナ「はいはい。じゃあ、昨日、ウチの航海士を惑わせたのは誰ですか?」
フェルナ「……あ、あれは、彼女が」
アスナ「さ、ひかり、行くわよ」
私はパンらしき食べ物を口に含み、スープで押し流すと、アスナに続いて食堂を出た。
アスナ「全く、朝からろくな奴に会わないわ……」
廊下へと出ると、今度はロイス王?とそのお付のアレックスさんに出会ってしまった。
アレックス「あ、お前は昨日の!?」
ロイス「白き神!?」
ひかり「……!?」
ロイス「白き神!? 昨晩は知らなかったとはいえ、失礼いたしました」
ひかり「も、もう、昨日のことはいいですってば」
ロイス「本日のお加減はいかがでしょうか?」
アスナ「ロイス……、まだ、《大いなる翼》の件でひかりを問い詰める気?」
アレックス「その為の、白き神だろ!? ロイス様は正しいんだ!!」
アスナ「アレックスは黙っときな」
アスナ「ひかりはまだこの世界のこと、何にも分かっちゃいないんだ。あんまり、事をせかさないでおくれよ」
ロイス「いや……、今日は昨日の侘びを入れるだけだ」
アスナ「それならいいけど」
ロイス「それでは、失礼する」
アレックス「じゃあな!」
ロイスさんとアレックスくんは食堂の中へと消えていった。
彼らも朝食を取るつもりなのかな?
アスナ「さて、今度は甲板にでてみよっか」
//暗転
//甲板
アスナ「いやー、今日もいい天気だね」
アスナさんの言うとおり、とてもいい天気だ。空には雲がクラゲのようにゆらゆらしている。
綺麗な青の空。
でも、私が見慣れている空とは違っていた。
ひかり「……アスナ、空に……、月と太陽が同時に動いて見えるんですけど?」
アスナ「そうだよ。月と太陽は一緒に動いてる。夜になれば、夜の月が現れるよ」
アスナ「今夜にでも見にきたらいいよ」
不思議な感じだ。いままで、ほんの少しだけ、外国にいる気分だったのに、この光景を見て、本当にここは異世界なんだと自覚してしまった。
アスナ「ああ、走行中は甲板に出ない方がいいから。突風が凄くて吹き飛ばされちゃうから」
ひかり「はい」
アスナ「さて、これで一応、船の案内は終了だけど、どこか他に行きたい場所ある? 船内で迷子になったりしないわよね?」
ひかり「……、た、多分……」
アスナ「よし。じゃあ、私は自分の仕事に戻るから、ひかりは船内を探索したり、アルニカ島に降りてみたら? アルニカ島に下りるには、そこの梯子からどうぞ」
アスナ「出発する時は、大きな鐘の音を鳴らすから、それを合図に戻ってきてね」
ひかり「はい!」
アスナ「よし、じゃあ、行ってらっしゃい」
そう言うとアスナは甲板の前の方にある小さな扉の中へと姿を消した。
多分、あそこが船長室なんだろう。
さて、私はどうしようかな……。折角だし、探索でもしてみようかな。
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