第2話「船乗りアラジン!?」


『・・・けて・・・』

白い霧の中、僕に呼びかける声が聞こえた気がして、僕は後ろを振り返った。

そんな僕の行動を不思議に思ったのか、レイナが僕にむかって言った。

「何してるの?エクス、早くいかないと二人においていかれるわよ?」

「うん・・・今、なにか声が聞こえたような気がして・・・」

「声?」

訝しげにレイナが繰り返す。

「なんか・・・」

そう言っている間にも、声はだんだんと僕の耳にはっきりと聞こえてきた。

『たすけて・・・』

やっぱり、誰かが助けを求めている。

僕は白い霧の中、視界も定まらない中で声の主を探す。

けれど、白い霧の中に包まれて人影なんて見当たらない。

『たすけて!』

それでも、誰かが助けを求めている。

僕はレイナの制止を振り切って、声のする方へと駆け出した。

霧がぶわっと晴れると、そこは・・・。


かつて苦い思いをした、『アラジンの想区』だった。


僕の後を追って来てくれたのか、レイナ、シェイン、タオが霧の中から姿を現す。

「勝手な行動しないの!」

「何してるですか。新入りさん」

シェインが不機嫌気味にそう言った。

タオはタオでやっぱり不機嫌そうだ。

「なにしてんだ・・・。ここの『想区』の『カオステラー』は倒したじゃねーか」

「うん・・・でも・・・」

僕にはあの声が聞こえていた。

『たすけて・・・』

誰かが助けを求めている。誰が、何のために僕に助けを求めているのか・・・。

僕には気になって仕方なかった。

しかし、僕にはこの『想区』が『アラジンの想区』と全く同じだとは思えなかった。

何故なら・・・。

「うおー、なんだよ!海がある!」

そう。砂漠の端が海によって侵食しているのだ。

『アラジンの想区』では海は多分、なかった。

なのに、忽然と現れた海に僕たちは驚きを隠せなかった。

「ここ・・・『アラジンの想区』で間違いないんだよね?」

僕は確かめるように、レイナに聞いた。

レイナは訝しげな表情で言った。

「た、多分・・・、いいえ、そのはずよ・・・、なのに、どうして『海』が存在しているの!?」

そんなレイナとは裏腹に、タオは嬉しそうに海の方へと駆け出す。

「やっほー!海だ!海だ!」

「ちょ、タオ!何か様子が変よ!海にちかず・・・」

と言いかけたレイナの瞳が一点に釘付けになる。

思わず、僕もそちらに視線を向けると、浜辺に一人の少年が倒れている。

それは見間違えるはずもない。

アラジン・・・、その人だったのだ。

アラジン?らしき人は頭を抑えながら、起き上がった。

「あ、いてて~。ったく、海に突き落とすなら、何もぼこらなくたって・・・」

アラジンらしき人は僕らを見つめると、あの人懐っこい笑顔で笑った。

「あの~、もしかして、助けてくれたのって、あなた方っすか?」

「俺、アラジンっす。ワケあって、行商人してたんすけど、乗り込んだ船が海賊船で、商品全部とられちゃったんすよね~」

間違いなく、あのアラジンの口調で彼は「たはは」と力なく笑った。

思わず、レイナが疑問を口にした。

「あなた、ランプの精の力で王様になったんじゃ・・・」

アラジンは小首を傾げて、「は?」とだけ呟いた。

そして、付け加えるように言った。

「やだなー、お姉さん、今時、ランプの精なんて信じてるんすか?」

「そんなのいるわけないじゃないっすか~」

アラジンはケラケラと笑った。

「じゃ、じゃあ、あなたは一体、何になるの!?」

「んー、『運命の書』には大航海の末に財産を掴むってことになってるっす」

「でも、俺はまだ見たことない、この大海原で冒険したいっす!」

やはり、僕たちの知る『アラジン』とは異なるようだった。

僕たちが呑気に話をしていると、聴き慣れたあの声が聞こえてきた。

「くるるる・・・」

この「想区』は確かに調律したはずなのに!?

「どうして、ヴィランが!?しかも、こんなに沢山!?」

「とにかく、話の続きはこいつらを倒してからよ!」


【戦闘:ヴィラン】


一方、その頃・・・。

『混沌の巫女』カーリーとロキ達はその様子を楽しげに見ていた。

カーリーが小さな口を開く。

「どうやら、上手くいったようですね」

「ええ。手はず通りでございます」

しかし、カーリーの瞳に少しの憂いが宿っていた。

「けれど、余計なものが紛れ込んでいるわ」

ロキは肩をすくめ、自らの失策にため息をついた。

「はい。カーリー様のおっしゃる通りです。なぜ、あの者がこの『想区』に紛れ込んだのか全くわかりかねます。即座に排除いたしましょう」

カーリーはそれを手で制した。

「かまいません。あの者も、ストーリーテラーの支配を乗り越えたものなのかもしれません」





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