第13話 君想う愛の嘘
目には見えなくても
消えない事実は
忘れるなんて
できないよ
忘れたくないから
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“忘れよう”
“無かったことにしよう?”
どうして
どうしてそんな事を言うの?
嬉しかったのに…
“麻衣の幸せを邪魔したくない…から”
私、今幸せだよ?
はるが居てくれるから幸せだよ?
どうしてそんなに辛そうな顔をするの?
はる
どうして…
“もう会うのやめよう”
言葉が出なかった
きっとこれは夢
はるとキスしたのも
はるがこんな事を言うのも
きっと全部……
夢
“さよなら、麻衣”
「はる…」
どこかに行ってしまったはるに
もう1度話がしたいと伝えたくて
電話を掛けようと思い
携帯を取り出したけど、
画面に表示される
“ 五十嵐 悠 ”
の文字を見ただけでまた涙が溢れてくる
どうして…はる…
「麻衣」
「……駿斗」
「どうした? 何があった!?」
「ッ…」
「泣くなよ、何があった?」
「ッ…」
「なぁ、体調悪いとか?」
「…はる」
「えっ? 」
「はるに会いたい」
「はるって、五十嵐さん?」
「…はる…はるに会いたい」
「なんで五十嵐さんなんだよ
なにがあったんだよ麻衣?」
「…ッ」
「…なんで話してくれないんだよ」
「…」
「もういい。
そんなに会いたいなら連れてきてやるよ」
そう言って駿斗は何処かに行ってしまった
駿斗にはるのことは話したくない
私とはるだけの秘密だから…
連絡先も知らないのに
連れてくるなんて無理だよ
それにはるは駿斗のこと嫌ってる
駿斗には無理だよ
はる、なにがだめだったのかな…
ずるくてもいいじゃん
私はそんなに綺麗に生きられないよ
罪悪感なんて感じないで
私だけを思ってて欲しかった
「麻衣」
どれくらい時間が経っただろう
気付けば駿斗が戻って来ていた
「駿斗…」
なんで泣いてるの?
「ごめん五十嵐さん連れて来れなかった」
「はるに会ったの?」
「図書館の前でたまたま見つけて…」
「…」
「なぁ、あの人何考えてるか分かんねぇ
凄く大人に見えるって言うか、
俺なんかじゃ何やっても敵わない気がする」
「はるのは誰も手が届かない…
はるとなに話したの?」
「何も…あの人も何も言ってくれなかった
ただ、“麻衣の所に行ってあげてください”って」
「…そっか」
「ごめん、力になれなくて」
「駿斗のせいじゃないから気にしないで。
私ももう大丈夫だから」
「帰ろう?」
「…うん」
なにも無い
はるの居ない世界は私にはなんの意味も無い
はるが全てだったのに
私は今日 “全て”を失った
きっと私は、幸せになれない
「おはよう」
「おはよう、はる」
「今日どこ行くの?」
「まずは、映画館」
昨日から“付き合う”ことになった私たち
はるが麻衣さんを好きな気持ちは
きっと本物。
それでも構わない
少しでも私を好きでいてくれるなら
私はこのチャンスを逃さないように
頑張るだけだから。
いつか麻衣さんよりも私を好きになってもらって
ちゃんと“両想い”になれるように…
「由衣」
「ん?」
「やっぱり私服可愛いね」
「えっ」
「バスケの時とは雰囲気違うから
なんか照れちゃうね(笑)」
「っ…」
「あ、照れた?」
意地悪そうに
でも優しく笑うはるは
凄くすごく綺麗で、きれいだった
私たち本当に付き合ってるんだよね?
ドッキリとかじゃないよね?
信じて良いんだよね?
「由依…怒った?」
「そんなシュンとしないでよ」
「だって、急に黙り込むから」
「不思議な感じだな~って思ってたの」
「不思議?」
「本当に付き合ってるのかなって」
「不安?」
「…うん」
「そっか」
「ごめん、別にはるが悪い訳じゃないから」
「でも不安にさせてるのはうちだよね?」
「違う、私が勝手に」
「由衣?」
「ん? えっ、はる?」
「…」
はるに呼ばれて振り向けば
急に抱きしめられた
はるは何も言わない
「はるどうしたの?」
「…怒らないでね?」
「えっなに?」
「不安になってるの可愛いな~って」
「ッ…」
「好きでいてくれてるって分かって
それが嬉しくてにやけちゃう」
「ッ…人が真剣に悩んでるのに!」
「だから怒らないでって。
好きだよ、由依」
「…ずるい」
「好き」
「私も好き」
「うん、知ってる」
「うるさい」
抱きしめられてるからはるの顔が見えない
見たい
今、どうしても見たい
「はる」
「ん?」
「好き」
貴女を見上げてそう呟けば
返事の代わりに優しく微笑んでくれた
私は今、涙が出そうなくらい幸せ
「街中で抱き合うのは恥ずかしいね」
「…うん」
「皆見てたね」
「はるのせいだから」
「あんな顔する由依が悪い」
「あんな顔ってなに?」
「泣きそうな顔してた」
「…だって不安って言うか心配って言うか」
「きゅんって言うか、
なんか心臓掴まれたみたいに苦しくて
好きって思ったら抱きしめてた…」
「…」
「あ、キモい?」
「…違う」
「ウザい?」
「違うってば! …嬉しい」
「えっ」
「私ばっかり好きだと思ってたから
はるがそんな風に思ってくれた事が
……嬉しかった」
「ちゃんと好きだよ。
じゃなきゃ付き合ったりしない
麻衣の事を気にしてるなら
心配しないで。
由依と居る時は由依の事しか
考えてないから」
「…私と居ない時は?」
「う~ん、バスケの事とはメンバーの事、
あとは大学の事とかかな?」
「…」
「本当だって」
「本当?」
「はい」
「軽い! 怪しい!」
「本当だって、
今だって由依との事しか考えてないよ?」
「ッ…」
「可愛いよ」
「…うるさい」
優しく微笑んでくれるはる
つい意地悪しちゃうし
言葉遣いも悪くなっちゃうけど
それでも“可愛い”と言ってくれるはる
大好きだよ はる
「選抜の練習大変?」
「大変って言うか周りが皆上手くて焦る」
「はるも十分上手いと思うけど」
「…そんな事ないよ」
「はる」
「今度の花火大会一緒に行こう?」
「え、あ、うん」
「花火デート(笑)」
「なに?」
「う~ん、なんか青春っぽいね」
「確かに」
「由依は夏祭りデートとかしたことある?」
「あるよ」
「どうだった?」
「どうって」
「聞きたい」
悪戯っぽく笑うはるが
なんだか幼く見えてつい昔の話をし始めた
「高1の時に付き合ってた人は
先輩で少しヤンチャな人だった」
「意外。そう言うの嫌いそうなのに」
「その時は好きだったから」
「そうなんだ」
「で、かき氷とかたこ焼き買って食べて
ベンチで花火見て帰り先輩の家行って泊まった」
「ふ~ん」
「ふ~んって聞きたいって言ったくせに
反応薄くない?」
「…泊まるってのがなんか」
「なに?」
「泊まっただけ?」
「えっ」
「泊まっただけ?」
「えっ…なんで」
「もしかして、した?」
「…」
「由依?」
「べっ別になにもないってば」
「本当に?」
「なんでそんな」
「元彼が何人居たか知らないけど、
その人達と何したかは知りたい」
「なんで」
「誰かが由依に1回キスしたなら
うちは由依に2回キスする。
他も同じ」
「えっ…」
「由依が思ってるよりうちは
独占欲が強いんだと思う」
「はる」
「あ、映画館着いた」
「えっはる!?」
「キスはまた今度ね」
「ッ…ばか!」
はるにならどれだけでも
独占されたい
そんな事言えばきっと驚くだろうな
私だって独占欲強いんだからね
だから覚悟しててよ
誰かの悲しみのうえに
誰かの幸せがあるとするならば
私はどんなにずるくても
幸せでいたい
私は人に幸せを譲れるほど、
優しい人間ではないと思い知った。
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