恋愛倍率
さち
第1話これが日常
俺達は本来知る事が出来ない、特別な事を知りながら生活をしている。この歳になってそれが気にならないと言えば嘘になる。けれど別に気にしなくとも生きていけないこともないが、やはり気になってしまうものだ。だから今こうしてそれを知れている事は、物凄いラッキーな事かもしれない。俺達の恵まれた学校生活は、一つの数値によってもたらされた。
俺達は、”自分がどれだけモテているのか”を知る事が出来るのだ。
*****
時刻は午前八時二十分、朝のホームルーム開始が間近に迫る中、ここ男子トイレには大勢の男子生徒が屯している。普通に用を足している俺からしたら邪魔でしかない。
「おい、お前今日いくつだったよ?」
「お前が先に言ったら教えてやるよ!」
「俺さ、一週間くらい変わってないんだけど...」
「だーー!!下がってる!!!」
野太い声がトイレ中から聞こえる。毎日毎日飽きない奴らだ。そんな数値で一喜一憂しやがって。そんなの気にしなくったって選ばれる奴は選ばれるんだよ。
何て心の中で呟きながら手を洗い、トイレを出ようと扉に触れる手前、俺はおもむろにスマホを取り出して、とあるサイトを開いた。
「......、変わってないか...」
前回の更新から数値が変わってない事を確認すると、肩を落としながら教室に戻った。
「どうした
「人の顔をつまらないって言うんじゃねえよ。はぁ...」
「何だよ、下がったのか?」
「ちげえよ、そのままなんだよ...」
「そうかそうか、残念だったな!」
そう言って俺の肩をぽんと叩いたこいつは、後ろの席の
「何だよ、そういう浦智はどうだったんだよ...」
「ん?上がった。」
「はぁぁぁぁ!!!!!????」
予想外な発言に、自分でも制御しきれないほどの爆音が口から漏れた。
「声がでかい!!女子に気付かれたらどうすんだよ!」
「あ...、わりぃ...」
あまりの驚きに立ち上がってしまったが、何も無かったかのように、けれど申し訳なさそうに頭を軽く下げながら席に着いた。
「何でお前が上がるんだよ。」
こんなヘラヘラした男のどこが良いんだ?俺には分からない。
「男としての魅力があるんじゃない?おいそこ、ため息つくなよ!」
流石に呆れるわ。
俺達男子生徒は学生生活においてとある特権を有している。その特権とは先程から話に出ている。”数値”の事だ。
この”数値”は”自分が人からどれだけ好意を寄せられているか”を倍率で表したもので、もし誰かが自分に好意を持っていたとしたら、その時の数値は「1」となる。ただこの「1」という数値は男子生徒全員の憧れであり、もしその数値を有する者が現れたのなら、そいつは憎むべき対象であり罰するべき対象とも言える。
しかしただ好意と言っても、”好き”だけが当てはまる訳ではない。”カッコイイな” ”気になるな” 等と言った好意も存在する。俺らはこれらを”未熟な好意”と呼んでいる。この”未熟な好意”も数値には反映され、小数点以下の数値で表される。
つまり、俺達は自分がどれだけモテているのかを倍率という数値で知る事が出来るのだ。尚、この倍率は合計されたものであるので、小数点以下の”未熟な好意”がたくさん集まって大きな数値が表示される事もあるのでただ倍率が高いからと言って、誰かにかなりの割合で好かれているとは断言できないのだ。
話を戻そう。さっきトイレで確認した倍率は、前回の更新から全く変わっていなかった。これが意味する事が分かるか?つまり、俺は誰からの評判も上がってなければ下がってもいない、要するにつまらない奴なんだよ!
「おい暮林、落ち着けって。そんな簡単に上がらないって。な?」
倍率が上がったお前にそれを言われたって、ただ俺の心を抉ってるだけだぞ。自覚してんのか?
そんな事をしている間にホームルームの開始を告げるチャイムが鳴り出した。直後トイレで屯っていた面々が急いで自分の席に戻ってくる。
「皆さん席に着いてくださーい!出席取りますよ!」
担任の
どことなくこの学校の男達はソワソワしている。それもそのはず、自分の印象が気になって仕方がないんだ。自分の倍率を上げる為に、皆必死になって毎日生活している。実に下らない。自分が他人にどう思われていようが、俺は俺を貫き通すだけさ。しかし、次の更新までには倍率上がらないかなぁ...。
そうそう言い忘れていたが、俺達はこの倍率の事を
恋愛倍率
と呼んでいる。
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