「なあ、青薔薇よ。菊の花言葉がまだ定まっていないのならば、ボクらで決めてしまってもいいのではないかな?」

「いいんじゃないんですかね? 定着するかどうかはわかりませんが」


 大人たちが何やらふざけたことを言い出した。

 こっちはそれどころじゃないっていうのに。

 フレデリックさんはあたしの花束に無遠慮に手を突っ込んで、真っ赤な菊を一本だけ抜き取った。


「まずは手始めだな。“愛”!」

「あ、愛!?」

 顔が真っ赤になるのを感じる。

 そんなのスティーヴンからもらえない!


「ありがちですね」

 ラウルさんがバッサリと斬った。

「そうかね?」

「薔薇全般の花言葉が“愛”です」

「ならば変えよう」


 そう言われてほっとしたのも束の間……

「“愛の告白”!」

 あたしは突っ伏しそうになった。


「それだと薔薇のつぼみの花言葉です」

「あ、赤いチューリップも同じのですよね!? ほ、他のにしましょうよ!!」

「別にいいだろう。赤はそれぐらいわかりやすい方がいい」

 そしてフレデリックさんは少しムッとしながら今度は黄色い菊を引っ張り出した。


「わかりやすいのの次は、ふさわしいのをいくぞ。“軽んじられた恋”!」

 あたしは今度こそ本気でひっくり返った。

 軽んじてる? 恋を? 誰が?


「黄色い花の花言葉って、ろくでもないのが多いですよね。

 黄色い薔薇は“嫉妬”ですし、黄色いチューリップなんて“叶わぬ願い”ですし」

 ラウルさんが不満そうに眉根を寄せた。

 この人は花が本当に好きなんだな。


「あの、ラウルさんっ、黄色い薔薇には友情って言う意味もあるらしいですよっ」

「そうか。ならば青薔薇よ、今すぐ包んでくれ。キミに贈ろう」

「本当に友情ですよね!? 本当に友情だけですよね!?」

「それより青薔薇よ、最後の色はキミが決めたまえ」


 フレデリックさんにうながされ、ラウルさんはしぶしぶという感じで菊の花束に手を伸ばし……

 花に触れる前にまず、花束全体のにおいを嗅いだ。


「あれ? スティーヴンってもしかして赤毛の学生ですか?」

「ご存知なんですか?」

「時々肥料を買いにきます」

「何でにおいを嗅いだだけで……」

「種はどうだね?」

 あたしをさえぎってフレデリックさんが尋ねる。

「この店ではまだ扱っていませんが、大手の店なら置いているところもあるはずです」

「ふむ。ならばこの菊はその少年が自分で育てたのかもしれないな」


 あたしはポカンとなって花束を見つめた。

 色あせたように思えた花が、今度はまぶしく輝き出した。

 スティーヴンは幼馴染みのケンカ友達。

 あたしはスティーヴンのことを何でも知ってるつもりだったのに、スティーヴンが花を育ててるなんてちっとも知らなかった。

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