コント 牛丼屋

ジャンボ尾崎手配犯

第1話

舞台中央に置かれているカウンター席。


店員Aがカウンターの後ろに立っている。


下手より登場したBが黙ってカウンター席につく。


A「いらっしゃいませ」

B「やあ、良い店だね」

A「あ、どうもありがとうございます」

B「内装がいい。とても優れてる。このテーブル誰が作ったんだい?」

A「あ、誰かは知らないですけどね。まあ、チェーン店ですから、どっかの工場じゃないですかね……」

B「チェーン店とは思えないつくりだ。素晴らしい。ビューティフルだ。エカテリーナ宮殿にも匹敵する」

A「あんまり褒められても、ちょっと恥ずかしいですけどね。まあ、あの、ご注文のほうは?」

B「それじゃあ、君に任せるかな」

A「あ、うちお任せとかないんですよ。そこの食券で買ってもらう感じで」

B「何で萩原健一を買わなきゃいけないんだ」

A「ショーケンじゃなくて、食券ですよ。そこに券売機あるんで、買ってもらっていいですかね」

B「ちょっと待て。食券を買わないと食べられないということは、貴様、食い逃げを疑っているな?」

A「疑っているというか、まあ、そういうシステムですから。小銭とかも、機械ならすぐに出せますし」

B「客を疑うなんて、なんて店だ! 客は泥棒じゃないぞ! 俺が泥棒に見えるのか?」

A「買わないなら、帰ってくれよ!」

B「今度は脅迫か」

A「いやいや、買うか買わないかどっちなの」

B「わかった。(間)買うから、金を貸してくれ」

A「なんで、俺が貸さなきゃいけないんだよ。自分の金で買えって」

B「しょうがない。今日のところは買ってやる。だが、次はないと思え」

A「それはこっちの台詞ですけどね」


券売機で食券を買い、カウンターに戻ってくるB。


B「ほら」


食券をAに差し出すB。


A「はい、どうも、って、これ生卵ですけど。いいんですか、生卵だけで」

B「俺は生卵の味で店を判断している」

A「いや、無理でしょ、そんなの。普通のしか、出てきませんよ」

B「つべこべ言わずにさっさと出せ!」

A「(小声で)もう、面倒くさいから卵出して帰ってもらうか」


カウンターの後ろにある箱から卵を取り出し、皿に載せてBに提供するA。


A「どうぞ」


卵の匂いを嗅ぐB。


B「なるほど」

A「何がわかるんだ、それで」

B「シェフを呼んできてくれ、これは素晴らしい」

A「なんだ、シェフって。普通のチェーン店だぞ」

B「言い遅れましたが、実は、私、こういう者なんです」


名刺を取り出し、Aに渡すB。


A「え、『ミシュラン』の人なの!? なんで、こんなところに来たんですか」

B「あ、ミシュランじゃなくて、『ミシュラソ』です」

A「なんだ、ミシュラソって。インチキじゃねえか」

B「いいのか、そんな口きいて。この店を酷評するぞ!」

A「ミシュラソなら別にいいよ」

B「この店ぶっ潰してやるから、覚悟しろ!」

A「そもそも卵しか頼んでないのに、どうやって批判するんだ」

B「『この店の牛丼は人肉を使っている』と書いてやる」

A「デマじゃねえか、馬鹿たれ。あんた、もう帰らないと、警察呼ぶよ」

B「客を差別するな!」

A「こんな客いるか!」

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コント 牛丼屋 ジャンボ尾崎手配犯 @hayasiya7

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