第2話 生存する世界
少しづつコオロギどもとの距離が近付く…
最初の時と比べてコオロギも散り散りになっている。
これなら抜けれるか?
けど色んな所にいやがるからいつ襲われてもおかしくないか…
出来るだけ多方面から襲われるのを避ける様に隅を移動すべきなのか?
しかし、ヤツが正面に来た場合は逃げ道は壁の逆側になる、その場合そこにヤツが居ないとは限らない、出来るだけ回避方向の選択肢を増やした状態を維持した方がマシだろうか?
迷いが生じるが状況は待ってくれない……
今は最初と同じ真ん中を走って行る。
襲われているものには申し訳ないが、食している間はこっちに攻撃を仕掛けないであろう、実際襲いかかって食事に入ったコオロギは食べ終わるまでそこを動かない。
それを利用しながらコオロギの真横を走り抜けていく。
よし、こっちを向いているやつは居ない……残りは約20m位だ。
「クソっ…まだあんだけあるのか
樹、大丈夫か?」
「今は大丈夫だが生きた心地はしないぞ……
いつどうなってもおかしくないないだろうが」
確かにその通りだ…
特に出口(ヤツらが入って来た場所)付近は襲われたやつも居ないから、ヤツらが残って居たら最悪だ。
こればかりは祈るしかないだろうな。
残り10m…コオロギどもは振り切ったか?
いや1匹だけ居る、だが向いている方向が違うから、たどり着くまでに方向転換は不可能だろう。
「朝陽、後ろを見ろっ!!」
樹が後方からデカい声で危機を叫ぶ
その声を聞き、急ぎ振り返る…あと少しのところで何が起きたと言うのだ?
振り返ってみると、その言葉の意味が理解出来た。
食事中で危険の少なかったハズの1匹がこちらを振り向いていた。
樹は気付いた直後、俺に声を掛けその直線上から移動していた為、コオロギが真っ直ぐに俺を見ていたのが把握出来た。
ここに来てこんな状況、しかもいつ飛んで来るか判らない。
回避行動をとる為、横に少し動いた刹那コオロギが跳ねる…
避ける為に力を入れた脚に更に力を入れる。
デカいし速い、頭だけでも幅1m位あるバケモノが猛スピードで突っ込んで来る。
間に合え…頬に冷たい汗を感じながらそう祈る…
頭が俺の横を通り過ぎる、避けれたか?
そう思った次の瞬間、左肩に衝撃が…
ヤツの脚が肩を掠める、正面からの衝突は避けれたが全体を避ける事は叶わなかった…
服を引き裂き、左肩から出血しているが大怪我と言うまでもない。
「大丈夫か朝陽?」
「何とかな、これくらいなら走る分に問題は無い、後少しだ急ぐぞ 。」
突っ込んで来たコオロギは壁の手前で止まっているがこっちを向くには時間が掛かるだろう、その間に扉を通り抜ける事は可能だ。
死にもの狂いで扉の向こうを目指す……
後ろから更なる追撃はない、扉は目の前だ。
こっちが出口と言う俺の考えが合っている事を願う……
コオロギの入って来た扉に突っ込む……
中は先程の白い部屋と違い、真っ黒に塗り潰されている。
中を見回し確認する…奥に戸がある。
あれがクリアの為のゴールか?
急がないとさっきのコオロギがこっちに来てしまう。
考える暇なんかない、戸までは50m程だ。
「樹、多分あそこの戸がゴールだろう。
距離はあるが、まだ走れるな?」
「誰に言ってんだ。元々お前より俺の方が速いだろうが。」
「確かにそうだな、ここから先はお互いサイドに開いて走るぞ。
さっきのコオロギがまた来るかもしれないし、もし来た時に二手に別れていれば2人共そこで頓挫し時間を浪費する事を避けれる。
そして、先に着いた方が戸を開いて入り口の確保だ。
いいな?」
樹が頷く、それを見た後すぐに走り出す。
俺が左に走り出すと、樹は右方向に走り出し10m位離れたところで並行移動する。
すると、思ったていた通りさっきのコオロギが姿を現す……
2人共ヤツが向いた時に直線上に居ない様に目を離さず走り続ける。
十分な距離はある回避するのは可能だろう…
と思った瞬間、そいつの後ろからもう一体のコオロギが姿を見せる。
さすがにそれは想像して無かったな……
「樹、全力で戸まで走れ!!
出来るなら先に戸を開いてくれ。」
後で現れたもう一体はすでに俺の方を向いている、急いでそいつの正面にならない様に樹とは逆方向に開く。
「解った。
だが絶対に戸まで来いよ。
待ってるからな、絶対だぞ。」
返事をする余裕は無かった。
すでに後に現れた一体が跳んで来たのだ。
さっきとは違い、直線的に勢いをつけてではなく上からの強襲を狙っていた。
直線上には居なかったがヤツらには羽がある、多少なりと飛行し左右に補正を掛ける事は可能だろう、落ちる最後の最後まで確認しなければならない……ただ、もう一体の同行が気になる。
そいつは俺の方を向いてはいるが、未だに跳んで来ないからだ。
もし、もしだ回避した先を狙って待っているのであればかなり危険だ。
ただ、コオロギは人の脳に近い物を持っていると言うのを読んだ事がある。
コオロギは人と同じでホルモンの影響を受けて行動するそうだ。
ストレスを感じたり、興奮したりする事もあるらしい。
単独で行動するコオロギと集団で行動するコオロギとでは性格すら違うのだと。
基本が雑食性な為か、単独で行動しているコオロギは動けない同族であればエサとして捉え、共食いする事もあるそうだが。
集団で行動しているコオロギは共食いなどはしない、それどころか協調性を見せるそうだ。
コイツらは同じ部屋から纏まって出てきた。
つまりは集団で行動するコオロギ達だろう、危惧している連携して攻撃して来る可能性はあると言う事だ。
最初に跳んだ1匹が落ちる…
すでに回避は済んでいた為、それ自体は脅威ではない。
問題はもう一体が…?居ないぞ!?
さっきまでいた場所に見当たらない。
何処に行ったんだ?
この状況で見失う事は致命的だ…回りを見渡すが見当たらない、と言う事は…上か?
見上げた瞬間、宙に巨体が目に入る。
しかも、もうすぐ落ちて来るといったところだ。
知能や協調性などは考えていたが、それどころではない完璧な連携じゃないか……
もう時間ない、全力で横に跳んで避ける…
すんでのところで回避は成功したが、近くにもう一体居る。
倒れてはいられない、すぐに立ち上がり走り始める。
樹はもうすぐ戸のところだ、だが真っ直ぐにそこに向かう事は出来ない、コイツらの知能なら一網打尽にされてしまう可能性があるからだ。
しかし逆方向に走り続ければ追い詰められる。
対処法は…ある。
これだけの巨体だ1体の死角を利用しながら走れば、2体同時に襲われる危険性が減る。
今はちょうど1体の死角に入っているから、アイツがこっちを向くまでは距離を稼げる。
長い距離の全力疾走で身体は限界に近いが、止まれば死が待っている。
コオロギ達からかなりの距離を稼いだ。
これなら戸まで走って行っても追い付かれないはずだ。
「朝陽急げ、こっちはお前の言った通り安全だ。
早く来い。」
樹が戸を開け中を確認した後叫んだ。
それがマズかった……ヤツらは狙いを俺から樹に替えたのだ。
樹の居る場所に跳ぶ、つまりは出口を塞がれる事と同じだ。
しかも、2体が俺より先に着けば入りこめる隙がない……そんな状態でコイツらを誘導し、出口を開ける程の体力は残ってなどいない。
つまりはアイツらより先に戸に行かなければアウトという事になる。
なりふり構ってなどいられない、全力で戸まで最短距離で走って行く。
コオロギの1体が跳んだ。
そしてもう1体も……
間に合え…
戸までは残り約10m程だ。
絶対生き延びてやる……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます