第一話 クズと金②
あの日、転校生・満日光が俺に「全てをくれ」と言ってから。
俺は、直ぐ様転校生に席を譲った。
「全てをくれ」とは言われたものの、取り合えず譲ったのは席のみ。
いや、席以外の全て───俺の「財産」だけは渡したくなかったので、渡す気はないと断言している。
すると転校生は「財産の一部だけ、あなたに差し上げます」と言った。
まあ、席一つ譲るくらいで転校生の財産──所謂金を貰えるなら安いもんだ。
ちなみに、今の俺の席は廊下側橋の列の一番後ろから二番目の席だ。
前の席───転校生さんにあげた席は、窓側の一番後ろの席。
彼処も彼処で、結構好きな席だったんだけどな。
居眠りが出来るし。
でも、居眠りして金もらえる訳じゃないし。
俺は金のために、あの席を譲った。
で、さっきから言ってる「金」───転校生さんの財産は、今日の放課後、理科室前で貰う予定だ。
で、今がその放課後。
ここは理科室前、なのだが。
中々転校生・満日光は現れなかった。
校内を回って探そうとも思ったが、すれ違うのは嫌だし。
で、待ってるのだが、待ち始めて一時間と数分が立つ。
にしても、もう待ってられない限界限界。
俺「女を待てないダメな男」みたいになってるけど、でも一時間と数分も女のため(元を言えば金のため)に頑張った俺って、めっちゃ良いやつじゃん。
と、俺が虚しく(決して虚しくないと断言したいのだが、何故かしてはいけない気がする)自画自賛していると。
「あー、まだいたんですか。良人君改め悪人君」
やっと来たよ、転校生さん。
「俺の名前は良人だ。悪人なんて俺のチョー良い性格に合わない名前で呼ぶのはやめてくれ」
俺がそう言うと、満日さんは俺の前の席に腰を下ろした。
おい、そこ誰の席かも確認してないけど座るのかよ‥‥‥度胸あるよなこの転校生は。
「で、悪人さん改めゲス野郎君」
「そのネーミングセンスの無さで俺の名前を改名するな。俺の評判が落ちるだろ」
「何言ってるんですか。評判なんて元々悪評しかないじゃないですか」
と、そんな会話を交わして数十分が立ってから。
「で、私とあなたの交わした約束、覚えていますか?」
俺は無言で頷く。
勿論覚えている。
「覚えてくれていたんですね。では、早速本題へ」
満日はそう言ってどこから取り出したのか、床に風呂敷を置く。
如何にも御金が入っていそうな、緑色の風呂敷。
その風呂敷を広げると同時に、彼女は言った。
「この中身が、私の持つ全ての財産です」
と。
俺はその風呂敷の中身を見て驚く。
だって、中身は────。
たったの、四十五円だったからだ。
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