第一話 クズと金
俺の名前は村野良人。
良い人、と書いて良人。
親が「良い心を持つ人に育ちますように」とつけてくれた名前だ。
でも多分俺は、そんな親の意思とは正反対の息子に育っているだろう。
だって俺の好きなものは───金。
あの、野口さんとか樋口さんとか福澤様がプリントされているお札とか。
平等院鳳凰堂がプリントされている銅の小銭とか、桜のプリントされている銀色の小銭とか。
とにかく俺は、ありとあらゆる金を愛して止まない男子高校生だ。
何故金が好きなだけで「良い人とは正反対の人間」と自分自身を揶揄しているのかと言うと………。
まぁ、ただ金が好きなだけなら周囲からは「多少変な奴」と見られるだけで済むが、俺は「ただ金が好きなだけのちょっと個性の強い高校生」ではないのだ。
そう。
俺の「金への想い」は「愛」だけでは済まなかった。
そりゃ俺は、金が好きすぎて部屋や通っている高校の校内の空き教室にこっそり小銭を並べてコレクションしていたり、学生証に
それだではまだ物足りない俺。
そんな俺はある日、考えてしまった。
「金を、自分のこの手で常に製造し続けることを可能に出来ないのだろうか」
と。
そして、半年前、高1のとある梅雨の日のこと。
俺は完成させてしまったようだ。
自分の手でとはいかなかったか、ボタン1つで小銭・札を製造できる機械を。
小銭と札と言っても、製造されるものの全てが
でも、そんな世紀大開発を行った僕。
周囲の人間に言えば忽ち有名人になれるはずだが、僕は言わなかった。
理由は1つ。
その、小銭と札を製造する機械を作った動機が───動機が、金を自分のこの手で常に製造し続けることを可能にしたかったから、だなんて、恥ずかしすぎるだろ。
そう思い、周囲には秘密にしていた。
しかし。
俺の秘密は今日この日、とある人物に知られてしまったようだ。
とある転校生、自称・完璧すぎる天才美少女に。
「ねぇ村野悪党君、話があるんだけど」
「俺の名前は村野良人だ。だれが”悪党“だよ」
俺の前に机越しに立っているのは、昨日転校してきたばかりのクラスメイト・
例の転校生だ。
黒髪ストレートのロング、綺麗な二重の大きな黒瞳。
化粧のしていない、綺麗な肌。
細長い足、出るところは出て引っ込むべき所は引っ込んでいるという、ナイスなバディ。
人当たりも良く社交的な性格。
何をやっても好成績を残し、真面目で先生受けも良く、運動能力も抜群。
ここまでをまとめると。
彼女は、認めたくもないのだが、どうやら完璧人間らしい。
俺とは正反対の、何をやっても何をしても確実にうまくいくという保証の付いている完璧人間───所謂天才。
そんな、俺みたいな「金さえあれば満足」が信条みたいな男がどうして彼女・満日みたいな天才と会話を交わしているのかというと。
「“あの事”バラしても良いですか?」
「いややめろよ転校生さん。そんなことしたら俺死んじゃうって」
「良いですよ、とっとと死んじゃってください。保険金受取人には、私がなりますから安心してください」
いやいや安心できないよ。
と、こんなやり取りをしていたらいつまでたっても続きそうなので、俺は大きな溜め息をついて会話を途切れさせた。
ったく、何でこの
まぁ、理由は分かっている。
その理由はたった1つ。
───俺と満日が、同類だからだ。
『同族』と言っても良い。
とにかく『同種類』の人間であることに変わりはないだろう。
にしても、クズで最低な俺と、完璧才女の彼女が『同類』『同族』『同種類』などと言える共通の部分があるのか、些か疑問にも思うだろう。
しかし、列記とした『共通の部分』が俺と彼女にはあった。
それは────趣味だ。
俺の趣味、小銭・札のコレクション、つまり金を手に入れること。
彼女の趣味、バイトと節約、お金を集めて眺めること。
ほら、似てる趣味だろ?
つまり、だ。
俺と彼女はそれぞれ『金に執着した趣味』を持っていた。
そして。
何もなければ、関わることの無かった俺達二人。
才女と最底辺の人間。
今から話すのは、たった昨日のこと。
昨日あった、彼女と俺の出会い話についてだ。
そして。
俺が世界一必要にしていて、大切している、金についての話だ。
「金が世界一必要なのだ」という、持論についての話だ。
***
それは、たった一日前の事。
「えーっと。奈良県から引っ越してきました、満日光です。皆さんと仲良くしていけると嬉しいです」
日付は12月20日。
時刻はAM,8:15。
朝のHR真っ只中である。
そして、何時も通りに平和なHRの際に。
見覚えの無い顔の少女が息なり教室に入ってきたと思ったら、その少女がいきなり自己紹介を始めたのだ。
その少女が、さっき自己紹介をしていた、奈良県出身・満日光。
どうやら、転校初日に遅刻してきてしまったらしい。
しかも理由は「寝坊」。
それを担任教師に向けて言った際、クラス中で笑いが巻き起こった。
勿論のこと、性根が腐っている(とは人によく言われているが、俺そんなに性根悪くないよ?寧ろめっちゃ良い人)俺は笑うどころか、口角の一つすら動かさなかったが。
と、転校生の席決めが行われ始めたようだ。
大抵は空いている奴の席に座るだろう。
俺の前後・左右の席は既に座られているので、俺の近くに転校生が座ることはあり得ないだろう。
まぁ、そう気を張る必要もない、か。
そう思い机に肘を着き、明らか様に興味の無いそぶりをする。
転校生・満日は辺りをキョロキョロ見回すと、足を一歩前に踏み出して、進み始める。
その様子を見た俺は、空席が見つかったのかと思うと同時に、俺も転校生に無関心なわけではない。
少しは転校生とやらに関心のある俺は、どの席に座るのかが気になり転校生の足を目で追う。
すると───その足は、どんどん俺の方へ近付いていた。
いやいや、気のせいか。
たまたま俺の二つ後ろの席とか、二つ前の席、二つ左の席、二つ右の席が空席だからそこに足を進めているだけてあって、決して俺の席へ来ている訳じゃない。
うん、絶対に────。
と、転校生の足は俺の机の前に止まる。
そして───。
「で、村野良人さん、村野良人さん。あなたの席を譲ってください、あなたの全てを譲ってください。代わりにあなたに、私の財産を全て渡します」
転校生・満日光は、俺に向かってそう宣言したのだ。
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