エアリ-ラブ💖 AiryLove漂う恋心1stStage
乃上 よしお ( 野上 芳夫 )
第8話 ロシア にて в России そこはウクライナと呼ばれる
もし魂が、人から人へと、時代を越えて、渡り歩いていくなら、この物語は本当のことなのかも知れない....
1919 , ロシアにて
ありきたりの小説なんて読む気がしない人のために、この小説は存在する。
これは、突然天使が👼やってきて、耳元で囁いて残していった記録なのだ。
彼は、あらゆる時代に存在していて、全てのことを見て知っている。
だから、この天使の👼JJの言うことに最初は耳を貸さなかった僕も、いつの間にか、こうして巻き込まれてきてしまっている。
今回、彼が久しぶりにやって来たのは、多分、僕が新しいロシア🇷🇺 からのお友達と出会ったせいだろう。
その夜、僕はたしかに見たんだ....
第一次世界大戦が終わったばかりの、薄汚れた石畳には血と涙がまだ滲んでいる頃で、人々は新しい時代の到来に胸をワクワクさせていた。
部屋の中のカレンダーには、『1919』と書かれてあった。
呆然としている僕に向かって、天使👼のJJは、いつものように平然と語りかけてきた、
「なぁ、J. おまえも懐かしいだろう、
俺はこの街でお前を見ていたのさ、しっかりとな。
お前はこの街で留学生として暮らしていたんだ。
文学だか、社会学だか、俺には関係ないが、お前はそんなことを勉強していたはずだ。
だが、もっと大事な忘れ物が、この街にはあっただろう?.....フッフッフッ......
さぁ、街に出てごらん、
お前に夢の続きを見せてあげるから......」
僕は言われるまま、夢遊病者のように、この街を歩き始めた。
陽が暮れはじめていて、寒かった。
僕はコートの襟を立てた。
最初は、初めて見る場所に違いないと思っていたのだが、だんだんと、自分がずっとこの街にいたことを思い出してきた。
古い格式ばった庁舎の建物を眺めることや、街路樹の落ち葉を踏みしめる感触には、覚えがある。
......次の角を曲がったら、ビアホールがあるに違いない。
すると、どうだろう⁈
たしかに、そこは大きなビアホールで、僕は慣れた様子で入っていき、黒ビール🍺をオーダーしているのだった。
——きっと僕は、ここに何度も来ていたのだろう。
店員の目配せや、常連らしい人々の間で、妙にしっくりと馴染んでいた。
「Hi ! J 、やっと会えたわね......」
声がして振り向くと、ニコニコと笑っている女性が立っている。
彼女の髪は、少し赤毛に近いくらいの茶色で、何が楽しいのかは知らないが、眼がイキイキと輝いていた。
その眼を見つめていると、何故か澄んだ空気の中の雪を戴いた山々や、静かな水面の湖が現れてくるのだった......
「やぁ、イリーナ、元気かい?」
僕は彼女の名前を知っていた。
それも、ずっと昔からの顔見知りのように......
彼女は優しい微笑みを浮かべながら、話を続けた、
「ところで、チェーホフのあの本は読んだの?
あなたのことだから、もう眼を通したかも知れないけど.....あの主人公と女性、なんだか私たちに似ていない?
名前もおんなじだし... 」
というと、『三人姉妹』か?
たしかに、イリーナは小説から飛び出してきたような女性だ。そして、バレリーナだった。
あの小説は、今の僕の人生に少なからず影響を与えていた。
第一次大戦前の、暗い時代の中で、チェーホフは精神世界の中に、なんとか希望を見いだそうとしていた。
ちょうど2023年が、再び世界大戦に向かう序曲を奏でているように......
あの戦争の時代を、僕はロシアで体験していたのだった。
また、イリーナが言った、
「ねぇ、私はまだ、あそこに住んでいるのよ.....」
僕には、そこが何処なのかわかっていた。
こじんまりとした綺麗な庭の小径を抜けると、ベージュ色の温かみのある壁の佇まい......
2階建ての屋根の下には、オリーブをくわえた鷹の紋章がついている、あの家。
僕が、あの場所を忘れるはずはなかった.......
彼女の優しい匂いが蘇る。
シーツをかけた彼女の肩越しに、窓から見える黄色く色づいた花と🌼街路樹のある風景......
あの時と同じように、今日の空もどんよりとした灰色だ。
イリーナは、黙ったまま、静かに、テーブルの上にある僕の左手の上に、彼女の右手を重ねた。
温かい手から伝わってくる彼女の優しさは、あの時のままだった。
すると、何ということだろう⁈
閃光が彼女を包み込み、僕の中に熱いものが充満していく。
白いシーツに包まれた、彼女の眩しく輝く白い肌のフラッシュバックが目の前に広がる。
それはまるで、エーゲ海で見出された、古代の女神の彫像のようだった。
ロシアンらしいしっかりとした骨格を覆う柔らかな女性らしい肉体。
その美しい山々や草原、潤いに満たされた湖をさまよい歩く、旅人だった僕......
そこは、僕の永遠の故郷だった。
それが、僕をまた呼んでいるのだ。
——ビーナス、あぁ、何という美しさ......
あなたは、Venus......
僕がそう言った時に魅せるキミの笑顔も、やはりあの時のままだった。
それは、甘く、切ない、永遠の安らぎ.....
やがて、キミは眉間に少しシワをつくる。
そらの太陽に雨雲がかかり、嵐が始まるように....その美しい口唇💋を少しずつ開きながら、キミはかすかな嗚咽を漏らし始める......
その時間は、振り返るとアッと言う間のことのようだが、ほんとうは何時間も続く愛の営みで、疲れ果てて幸せな気分で眠りに落ちた2人には、どれほど長い時間を一緒に過ごしたのかを、思い出せないだけなのかも知れなかった......
しっかりと両手を握り合って、見つめる眼と眼。
ビーナスは甘いデザートのように柔らかな肉体を震わせている。
キミは歌を唄い、僕はバイオリンを弾き続けていた。
その愛の世界に流れている時間は止まったままで、永遠に不滅のはずだった......
人々のざわめきとグラス🥂がカチャカチャと鳴る音が、夢から醒めた僕を包んでいた。
耳元にはまだイリーナの甘い囁きの余韻が残っている。
同じテーブルの向かい側には、僕とそっくりだが、少し皮肉な笑みを浮かべた天使👼のJJがいた。
——オレはまた、あそこに戻れるのだろうか......
ニヤリと天使の👼JJが笑うのを見たような気がした。
.......すると、もう別の場所に来ていて、僕はイリーナと街角で身をかがめていた。
遠くからキュルキュルという戦車の音が近づいてくる。
それは戦場の恋だったのだ。
ここ、ウクライナでは、この時にも民族派の独立戦争の真っ只中だったのだ。
何かを怖れ、逃げ惑いながら、2人の距離は急速に縮まっていった。
そして僕たちは、つかの間の愛の時間の中で、全てを忘れようとしていた。
明日が見えなかった。
何処にいくのか?
わからなかった。
だから......
信じられるのはキミだけだった......
突然、大きな音がした。
目の前の建物が崩れて、アッという間にガレキに覆い尽くされて、2人は暗闇に閉ざされた。
やがて明るい光が差しこんでくると、僕たちは手を取り合って歩き始める。
2人とも笑っていた。
そこは色とりどりの花々が咲き乱れる草原だ。
オリーブをくわえた鷹🦅がどこからともなくやってきて、僕たちを導いてくれる。
やがて、あの鷹の紋章がある🔱家が見えてきた。
ロシアにて、 в России
そこはウクライナと呼ばれる
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