第5話タイガー

【概要:アモンvs虎】


座禅を組む尼僧と思しき女がいた。


腰に申し訳程度の布を巻いている以外

全裸ともいえる格好である。


頬は少しこけ、アバラが浮き出ている。


そのやつれ具合に反して、

グイと突き出た乳房が艶かしい。


その様子を見て心配になったのであろう、

たまたま近くを通りがかったアモンが女に声をかけた。

そして持っていた干し肉を女に差し出す。


しかし、女はそれを受け取らない。何でもこれから

死ぬことになるからとのことだった。


アモンは何故死ぬのかと女に問うた。イヌ科の獣の持つ

相手のコンディションを瞬時に見抜く能力。

それと同等の能力をアモンも有していたからだ。


多少やつれてはいたが今の所、女は死ぬような体調ではない。


その疑問に女はこう答えた。

もうすぐ虎が自分を食べるのだと。


何でも女は、未来を予知できる能力があるそうで

今から3日後にその虎がここを通るのだという。


そこで再びアモンは問う。

3日後にここに来ることがわかっているなら

ここから離れれば助かるのではないか?と。


しかし女はこう答える。


虎が自分を食べることができなければ、その虎および

その虎の子が餓えて死ぬことになるのだと。

ゆえに、自分はここを離れるわけにはいかないのだと。


アモンはここで、合点がいったかのように大きく頷いた。


この尼僧は、虎の親子と自分の命を秤にかけ、

虎の親子を優先する道を選んだのだ。


いや、もしかしたら秤にすらかけていないのかもしれない。

いわゆる自然の摂理とでもいうべきものだろう。

さらには超自然的なものに運命を委ねる、

そういう心理もあるのかもしれない。


そしてその考え方はアモンの考えとは大きく異なるものであった。


アモンは、話を聞き終わった後、尼僧から少し離れた所に

腰をおろした。尼僧への興味、そして予言どおりに虎が

ここへくるのかを見てみたかったのだ。


そしてアモン、尼僧共に、飲まず喰わずで3日後。


尼僧は自分の体に興味があるのなら

手早くすませてこの場を去るようアモンに言った。

虎が来てからでは遅いからと。


以前にもそういうことがあったのであろう。アモンもまた自分の体に

興味があるものと思ったのだ。それはアモンの身を案じて言ったことでもあった。


しかしアモンは首を横に振った。

そして静かにこういう。


「デザートを」


「メシの前に喰う奴はいない」


直後、尼僧の背後に、巨大な虎が現れた。

その体はあまりに大きく、雄大で、そして神々しい。


尼僧は自らの死を悟り、手を合わせる。


これで彼女の体は虎の血肉となり

やがて大地へと還るだろう。


それが自然、それが摂理。

何者にも犯せない自然の掟。


だが、次の瞬間。


アモンの暴力的な抱擁が虎を襲った。

その抱擁は、虎の頚骨と背骨を瞬時に破壊。

さきほどまでこの場を支配していた

王者を肉塊へと変えた。


そしてアモンは3日ぶりの食事にありつく。

さらには待望のデザートにも。


無我の境地、自らのことに捕らわれず、

運命にその身を委ねるのが自然の摂理ならば


弱肉強食は自然における絶対的不文律。


尼僧はアモンという圧倒的強者に抱かれながら、

自らの体に命が宿ったことを知る。


そして数刻後、目を覚ますと二匹の子虎を

傍らに、彼らとそして尼僧の分の食事の準備をする

アモンの姿が目に入った。

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