第3話ナックル

【概要:アモン岩を砕く】


ある国に強大な力を持った王がいた。


王は宗教の力を用い、一大国家を一人で作り上げた男である。

その胆力たるや常人のそれを軽く上回る。


そんな王は、武芸を広く推奨していた。


そして定期的に開く野外晩餐会に

各地で名を馳せる武芸者たちを呼んで話を聞くのが

何よりの楽しみな男であった。


その晩餐会にアモンはいた。


切り立つ高さ15mほどの岩の下で催す晩餐会。

岩の上から神学生の女たちの歌声が響く。


酒も進み、興の乗ってきた王は、武芸者たちに

力とは何か?と問うた。


すると武芸者たちは口々に

力とは己が技であると答える。


己の技のみを頼りに生きてきた男たちだ。

至極真っ当な答えであった。


しかし王はそれは力ではないという。


王は、岩の上で歌い続ける神学生の一人と目を合わせ

片手で手招きをする。


すると神学生はあろうことか、そのまま歩を進め

下に転落、絶命した。


この国では王こそが神。

その神に、自らの命を所望されたのだ。

彼女に何の迷いもなかった。


騒然となる男たち。

そんな中、王は"これが力である"と答えた。


片手一つで人の命を断てる圧倒的権力。

これこそが力である、と王は言ったのだ。


たしかに力というものを突き詰めた結果が徒党を組んだ

集団、軍隊であるならばそれらを統べる王の

権勢こそがまさに力であろう。


さらには国民の思想、宗教さえもコントロールし、

自らの意のままに操っているのだ。

この王の前では、個人の技など、蟷螂の鎌に等しき存在。


正気を取り戻した武芸者たちは、口々に王の考えに

賛同の意を述べた。


しかしアモンは静かに口を開いた。

そして"それは力ではない"と断じた。


目には怒りの色も見て取れた。

その圧に周りの武芸者たちは思わずたじろぐ。


本当の力をみせよう。そういってアモンは席を立ち、

神学生の亡骸をやさしく抱いて脇へと寝かせた。


そして次の瞬間。


恐るべき破壊行為を実行した。


それは丸太のような上腕から繰り出された

シンプルなパンチ。


しかし人類史上、類を見ないほどの必殺の剛拳。


その拳は一瞬で岩を砕き粉々に吹き飛ばした。


たとえダイナマイトを持ってしてもここまでの

破壊はできないであろうほどの圧倒的破壊力が

周辺の気圧さえも変化させ旋風を巻き起こす。


驚愕の表情を浮かべる王と武芸者を尻目に

アモンは落ちて来た3名の神学生をすべて受け止め抱えた。

見ると彼女らの顔は上気し、息を荒げている。

アモンの雄気にやられたのだ。


アモンは、そのままその場を去る。


その背中は語る"これが力である"と。

シンプルに岩を砕く膂力。"これこそが力"であると。


王とアモン。どちらの意見も正しい。


だが、無意味に一人の女を殺した王と

己が拳で3人の女を手に入れたアモン。


どちらが雄として優れていたかなどは

もはや論じるまでもないことであった。


これがアモンという男。

堪らぬ男である。

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