- so -

 密撼(みかん)

オリジナル版 (10数年前のモノ)

 Ⅰ

 秋の始め、濃い青色の夜明け前、不意にキッとした光に気付いた。

でもすぐに見失いそうになり、呼び寄せられるように近寄ってみた。

 今にも朽ち落ちそうな木の枝に、ますます見開いた瞳と視線が合った。

仔猫なんだろうか?いや、違うのかも?そこから降りれなくなったの?

ちいさく鳴いているのに、誰も気付かなかったんだね?


 下から手を伸ばして『降りておいで』と言うと、困った顔してそっぽ向かれた。

側の滑り台のはしごを上り切った所まで上がって、後ろから抱き上げようとしたら

“フゥーッッ!”っと威嚇された。嫌がってるのか?それとも、怖がってるのか?

それでも気になって、真下のベンチに上がってみると、丁度目の高さで顔が見れた。


 怯えているのか、泣きたいのか、ふてくされてるいる様な目が印象的。

 両手を揃えて差し出すと、‘フッ!’と爪を立てて、引っ掻く格好だけして

私の手の上で止めた。白い爪の引っ掻き傷が出来て、ピッと痛いような

気がしたけれど血も出ていなければ、何も痛くはなかった。感触が冷たくて

やわらかくて、爪の引っ掛りが浅くて、僅かな刺激がかえって気持ちよく感じた。


 そのまま、ソーォと抱かえてみると、不思議と抵抗無く腕の中に入ってきた。

「どこかで飼われてたの?」

抱かれるカタチの納まりが良いね。だけど、恐怖心があるのか 

身体を固くして抱いているのかさえわからない位、重みを感じさせない。


 気付くと私のモトへと連れ帰っていた。あり合せのモノを与えてみると

少し躊躇しながらも、キレイにたいらげた。お腹が減ってたの?

食べてからの身づくろいも、上手にやるから、その姿にしばらく見とれて

とても心地良い気分になった。すごく懐かしい感覚になってきた。


 ほんわかした眠気に誘われて、少し眠ろうかと思い寝室へ向かう

いつの間にか ついて来て、先にBEDの中に潜り込んで行った。

「やっぱりどこかで飼われてたのかぃ?」

シーツをくしゃくしゃっにしながら、無邪気に遊び転げるのが

すごく愛らしく思って。夏の浜で騒ぐ様に、それは何にも囚われず

ただ楽しくて、汚れるコトすら気にならない子供の様に いつまでも。

一緒に私も、一心にじゃれつき、からみ合ってた。


 いつしか眠りに堕ちていた互い。目覚めてもそこに居て、寄り添っている

あたたかさが快い。たまらなくなって抱きしめてみた。すると今度は、

ゴロゴロと喉を鳴らして、じゃれてきた。何か寂しげで、甘える感じが

どうしようもなく可愛くて、私はとても気に入ってしまった。

 飼ってはイケナイ此処で、しかも私はペットの類は無理なの。

きちんとした 面倒も、責任も持てない性質だから。

「どうしようか・・・」


 とりあえず、どこも締め切らずに様子を見ることにした。

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