第153話 死神ぶらり、街角へ
とある繁華街の歩道を、死神が歩いていた。白い髑髏に、黒のフード付きのマントから骨だけの手を出して、その両手は木をそのまま加工せずに柄にしたような、大きな黒光りする刃の鎌を持っている。
死神の周囲にも、通行人が歩いていたが、彼(?)には全く頓着せず、平然と歩いている。死神も、それにまぎれて、堂々と進んでいたのだが、視界の片隅で、セーラーの制服を着た少女と目、正確には目と眼窩が合った。
「し、し、し、死神だぁーーーー!」
「あ、ども」
失礼だが、死神を指さして、はっきりと事実を叫ぶ彼女。死神は、そんな相手に対しても、会釈をして見せた。元来、物腰の低い質なのだろう。
腰を抜かしそうなほど驚いたセーラー服の少女だったが、通行人をかき分けて、死神の前へ立った。おっかなびっくり、金のストレートロングを揺らしながら、死神を見上げる。
「えっと、死神さん?」
「はい、なんでしょう」
「こんなところで何しているの?」
「今日はオフなので、散歩しています」
「オフっ⁉」
信じがたいという表情をして、死神を上から下へ眺めるセーラー服の少女。死神は、髑髏の顔ながらも、戸惑いを滲ませる。
「死神に、オフってあるの?」
「あるよ。働き続けたら、疲れるのは君たちと一緒」
「じゃあ、何で、大鎌持っているの?」
「これは僕のアイデンティティだから」
まるで宝物のように、鎌を持つ手にギュッと力を入れる死神。少女は、「盗らないよー」と苦笑していたが、突如はっと顔を引き締めた。
「もしかして、私にだけ死神が見えていて、それは、もうすぐ寿命が近いからってパターン?」
「パターンって、身も蓋もないなぁ」
急に警戒し始めたセーラー服の少女に、死神は、普通の人間と同じ顔だったら、眉を潜めているような声色で返す。
「それに、君にだけに見えているわけじゃないよ。周りのみんなにも、見えているはずだよ」
「……じゃあ、何で無反応なの?」
「さあ? 死神の散歩なんて、珍しいことじゃないんじゃない?」
納得しかねているセーラー服の少女だったが、ふと、死神の右手の肘に、白いコンビニの袋が掛かっているのに気が付いた。ずっと鎌ばかりが目に入っていたらしい。
「か、買い物している⁉」
「ああ、うん。あっちのコンビニで、おにぎりとお茶を」
死神は、鎌の柄の部分を地面におろして、左手からコンビニのおにぎりを取り出した。間違いなく、少女もいつも見ている昆布のおにぎりだった。
「死神さんって、ご飯も食べるんだ」
「別に必要じゃないけれどね、なんか、興味があって」
朗らかに言う死神。セーラー服の少女には、彼の周りに可愛らしい花が咲いているのが見えた。
もはや、死神を警戒する理由などなくなったので、友達と話している感覚で、セーラー服の少女は軽い調子で尋ねる。
「買い物するときは、人間に化けるの? イケメン?」
「なんでイケメンを期待するの? そんな力ないから、このままだよ」
「あれ、お金はどうしたの?」
「給与がちゃんとあるからね、安心して」
「……あの世にも貨幣制度があるんだ。死神の給料って、魂だと思っていた」
「そんなおどろおどろしいなものじゃないよ」
セーラー服の少女の偏見に、呆れ気味で返して死神は、コンビニの袋におにぎりを戻して、また鎌を持ち直してから、「そうだ」と切り出した。
「この辺に、公園かベンチとかないかな? おにぎりを食べる場所を探しているんだけど、初めて来た場所だから、全然分からなくて」
「ああ、それだったら……」
セーラー服の少女は、困っている死神に、駅前広場までの道を教えてくれた。思ったことをすぐに口に出す性格だが、寝は優しい子のようだ。
「うんうん。分かった、ありがとね」
「へへっ。じゃ、今度会ったときに、初めてのおにぎりの味、教えてねー」
「はーい。またねー」
ごく自然な流れで、死神は、セーラー服の少女に手を振って別れた。
しばらく歩いた後で、彼は「ん? 今度?」と思ったものの、わざわざ戻って訂正するつもりもなく、素直に駅前広場へ向かっていったのだった。
日常キリトリ線 夢月七海 @yumetuki-773
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