主人公トラップ
大槻有哉
第1話 記録にない才能
ここはカザン大陸。レベル98の伝説の科学者『カザン』が名の由来だ。レベルとはテレビ ゲーム等によく使われるものとは少し違い、生まれ持った才能である。つまり、レベルアップはない。レベルの値を超えて成長はしないのだ。英雄カザンの研究により、レベルは解明されたのだ。
僕の名はロウヘイ。26歳のフリーのよう兵さ。今、カザン大陸では『ブラッド』と呼ばれるレベルを引き上げるスキルを巡り、戦いが起きている。主に、『テス』という国を守るための組織と『コレクター』という軍事力と自らの欲望のために戦う組織の二つの争いだ。
コレクターは、ブラッドを集める活動を主に行っている。その一つとして『ブラッドオークション』が上げられるだろう。ブラッドを液体状にし、飲むだけでレベルが上がる。要するに『才能を買う』ことができる。逆に言えば、『才能を売る』ということだ。レベル変化を起こす数少ない手段の一つが、ブラッドオークション。
僕には縁がないと思っていた。僕のレベルは37と高めだが、大したブラッドは持っていない。僕はフリーのよう兵のため、依頼さえあれば『テス』にも『コレクター』にも加担する。
オークションの人気が国民の間で高いため、テスはコレクターを責め切れないでいた。そういう現状では、争いは終わらない。争いが終わると、僕みたいなよう兵は、仕事が無くなるんだけどね。
おっと、僕は依頼の途中だったな。僕はトノサという名のブラッドマシンに乗り込む。ブラッドマシンとは、ブラッドにより変化する巨大ロボット兵器だ。要するに、マシンはパイロットのレベルで強さが変化するのだ。
僕はレーダーで標的を探す。今回の依頼は、テスの輸送兵を潰すんだったな。僕は、実力よりも低い安全な依頼しか引き受けない。生き残るには、それぐらいが丁度いいいのさ。
ちっ、こんな時にメールかよ。かつての依頼で出会った少女ヨムコからだ。まあ後でいいだろう。確認より、依頼が優先だ。カエル型15メートルクラスのマシントノサは、輸送隊に接近する。
さすがに機動力では、こちらが劣る。どう追い詰める? 逃げ切られたら依頼失敗だ。僕の命が別状はないが、生活費と信用 に関わる。
んっ、またメールか。緊急なのか、ヨムコ? ソードで輸送品を一つ回収するも、任務成功とは言えない。ヨムコは病弱だが、『主人公』という謎かつ凄まじいブラッドを持つ。主人公のブラッドは、30ポイントものレベルを引き上げるスキルだ。1や2ポイント引き上げるスキルに溢れた世界だってのに。
ヨムコの病状は深刻だ。かつて、僕の作り話の『カエルの山』という本を、ヨムコは気に入ってくれた。カエル達が池から山へと引っ越すお話さ。1126メートルの山だ。
何だと! ヨムコのブラッドがオークションにかけられる。どうする? 僕一人で何とかできる相手のはずがない! しかし、文通仲間の一人を見殺しにはしたくない。
それともう一つある。ヨムコの親がブラッドをオークションにかけるということは、彼女の病が悪化したということだ。医術を持たない僕にできることはない。
しかし、僕は危険地帯へと足を踏み入れる。だが、まだそこまでの危険はない場所。そこにヨムコの姿を発見する。何故? オークションにかけられたのなら、逃げても意味はない。まだ間に合うのか?
「ロウヘイー! 早く下がって」
とヨムコは叫びながら走る。
僕はヨムコと合流するが、ヨムコの手にはブラッドのビンがある。まさか僕に飲めというのか?
そのまさかだった。ヨムコは力を振り絞る。
「私の才能は、ブラッドは、カエル山を見つけるために使ってね。約束したから」
約束って。確かにウソの約束はした。ヨムコをカエル山に連れて行くという、その場しのぎだ。しまった。ヨムコは本気にしている。
オークション場の近くから、マシンの大群が押し寄せる。凄い数だ。『コレクター』の追ってだな。300億円ブラッドだ。逃す訳がない。僕はヨムコをコクピットに押込み逃げる。
僕はどうしても、ブラッドを飲みヨムコの才能を奪うことができない! ヨムコは苦しそうに言う。
「凄いスキルなら、ロウヘイが飲めば、逃げ切れるよ」
バカなこと言うなよ、ヨムコ。
追いつかれそうだ。トノサからミサイルを発射するが、相手が悪過ぎる。このままでは僕とヨムコの二人とも無駄死にだ。僕は決心して、主人公ブラッドを口に流し込む。僕のレベルは37から67へと大幅に上がった。
これでコイツらと対抗できるのか? あまり強くなった気がしない。主人公のブラッドとは何なのかもわかっていないぞ。
やはりレベルが30上がっても、コレクターの戦力には遠く及ばない。ヨムコは無駄なことをしたのか? いや、僕が無駄にはしない! と思ったが、策があるわけではない。 その時、明るい女性の声が聞こえてきた。
「ようこそ、主人公ギルドへ。主人公のブラッドは、『悪運』と主人公ギルドの通行許可です」
僕はどうやらおかしな部屋へと飛ばされたらしい。
ヨムコは? ベッドで眠っている。僕はここで、ギルド長のノラさんに説明を受けた。僕は叫ぶ。
「主人公のブラッドって、通行許可だけかよ! レベルが高いとブラッドハンターに狙われやすくなる。で、ヨムコは無事かあ」
ノラさんは、何故か呆れている。
「レベル1になったヨムコさんは、いいのか? 病気はギルドの施設で治ったが、病弱なのは治せない。今のヨムコさんには、何の才能もない。いつ病気になるかを気にするだけだ」
「くっ、僕が才能を奪ってしまった」
と僕は言うが、これからどうすればいいか解らない。
この結果は、受け入れるしかないのか? ここでヨムコは起き上がり反論する。
「ロウヘイまでそういう見方をするんだ。わたしはレベル1? 才能がない? そんなのカザンの研究結果に過ぎないよ。確かに家事も何もできないけれどね。カエルの山という本に出会えたのも、立派な才能なのだよ、ロウヘイくん」
どこまでも前向きな14歳の少女ヨムコに、僕は少しだけ現状が見えた気がした。才能は、やはり他人に決められたくないよ。
ノラさんは、険しい顔つきで言う。
「主人公のヒロインにヨムコが決定したわけではないなぞ」
ヨムコはカエル山の約束を信じている。だがしかし、カエル山はフィクションなんだよ。存在しないんだよ。僕はそれらをヨムコに伝えられないホラ吹きだ。ウソを通すのは、きっと試練だろう。
第1話 記録にない才能
第2話 カエルの流すもの
第3話 ノラは主人を待つ
第4話 カエル色の約束A
第5話 対を成すプレゼント
第6話 変わり無き者たちへ送る器具
第7話 虹色のヒロイン
第8話 カエルの色は緑色が似合う
第9話 黒板とチョーク
第10話 カエル色の約束B
第11話 カザン理論の崩壊
第12話 愛しきライバルへ
第13話 カエルの山
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