第34話『ロックゴーレム戦 1』
その高校は大下家から一番近い場所にあった。
しかし、実業高校であるため、敏樹は隣町の普通科の高校へ通った。
つまり、敏樹はこの高校に入ったことがない、ということになる。
大型SUVで運動場を抜けて校舎の入り口へ。
入ったことのない校舎ではあるが、おそらく中央入口に近い位置にある階段が屋上へ通じていると思われる。
敏樹の予想通り、学校というものはさして構造に大差は無いようで、大して迷うことなく屋上へと到達した。
屋上に出て運動場を見る。
「うおお、でっけぇ……」
ロックゴーレムは校舎から50メートルほど離れた位置に立っていたが、その大きさのせいかすぐ近くにいるように見えた。
ロックゴーレムはまだ敏樹に気づいていない。
バレないように身をかがめ、屋上端の立上りに隠れるように見を伏せた。
ちらっと顔を出すが、まだ向こうは気づいていないようである。
角度が悪いので、立上りから上に頭が出ないよう、
なんとか額の文字が見える場所まで移動できた。
敏樹は気を落ち着けるべく深呼吸をしライフルを構えた。
まだ気づかれていない。
ライフルのスイッチをフルオートに切り替え、スコープを覗く。
そして額の『א』の文字に照準を合わせ、トリガーを引いた。
タタタタッとペイント弾の射出される音が連続で鳴り響く。
狙い通りに弾は飛び、『א』の文字が塗りつぶされていく。
初撃が当たった段階でロックゴーレムには少し反応があった。
そして敏樹の方を見ようと頭を動かし始めたのだが、文字が塗りつぶされると、動きが止まる。
「よおーっし!!」
とりあえずロックゴーレムの前で手を振ってみたり、駆け回ってみたりしたが反応はなし。
(もしかして、これで終わり?)
もしこれで倒せたのであれば、ロックゴーレムはほどなく消滅するはずである。
しかし、しばらくたった所で、文字が淡い光を放った。
塗りつぶされた部分も、下の文字が薄っすらと透けて光を放っているのが分かる。
そして、ペイント弾で着いた塗料は綺麗に消え去った。
「おお、マジか!?」
塗料が消えると同時にロックゴーレムは動き始める。
敏樹を発見し、ゆっくりを足を踏み出した。
いや、ゆっくりに見えるが、それは対象が大きいからそう見えるだけで、実際にはかなりの速度で近づいているはずであり、おそらく2~3歩で間合いに捉えられるだろう。
「大丈夫。まだ距離はある!!」
自分を落ち着かせるように敏樹は言葉を発した。
今度は防犯用カラーボール射出機を構えた。
ロックゴーレムの動きを慎重に見定める。
そしてロックゴーレムは校舎に衝突するのではないかというところまで近づくと、大きく腕を振り上げた。
「隙ありぃ!!」
頭までの距離はおそらく10メートル程度。
この距離なら外すことはない。
敏樹が引き金を引くと、射出機からカラーボールが飛び出し、狙い通りの文字に当たった。
防犯用カラーボールは本来対象の足元の地面に叩きつけることでボールを割、中の液体を飛び散らせるのが正しい使い方なのだが、ロックゴーレムの身体は硬いので直接ぶつけても問題ない。
カラーボールが割れ、塗料が飛散る。
一発で文字は塗りつぶされ、ロックゴーレムは再び動きを止めた。
(一応落ちにくい塗料だけど……)
敏樹はロックゴーレムから離れ、少し隠れるような位置から様子をうかがった。
体感的には先ほどと同じぐらいの時間で塗料が消え、ロックゴーレムは動き出した。
振り上げていた拳を振り抜くと、少し離れた位置にいた敏樹がよろめくほどの風圧が発生する。
もし元の位置に立ったままであれば、あっけなく死んでいただろう。
(一回帰ろう)
敏樹はロックゴーレムに気づかれないようコソコソと移動し、屋内に通じる扉を通って校舎に入った。
そしてそのまま校舎内を移動し、車へと無事到着し、帰宅した。
文字を塗りつぶすことでロックゴーレムを倒せないのは残念だったが、しばらくの間動きを止められるというのは収穫だった。
そして、塗料の種類にかかわらず、一定時間で効果が切れるということもわかった。
であれば、わざわざ射程距離の短い防犯用カラーボールを使う必要はない。
あとはどうやって文字を消すか、だが――
(削ってみるか)
翌日、敏樹は首から一眼レフを下げ、コンパウンドボウとエアーライフルを担いで高校の屋上に上がっていた。
遠距離から物理的に効率よく文字を削り取る方法に関して、妙案が浮かんだわけではないが、まずは『削り取る』という行為が有効かどうかを確認しておきたい。
ロックゴーレムに気づかれないよう、身を潜めて移動し、狙撃できそうな場所を選ぶ。
あとは気づかれないよう、狙いを定め、弓を引き絞る。
(頼むぜぇ……)
弦をいっぱいまで引き絞り、トリガーを引いた。
高速で飛んだ矢は、カツン! と軽い音を立てて弾かれたが、一応目当ての文字には命中した。
ロックゴーレムが敏樹気付き、動き始める。
敏樹は構わず矢をつがえ、2発目を発射。
以降、文字通り矢継ぎ早に矢を放っていき、大半が目当ての文字に命中した。
ある程度近づかれたらライフルに持ち替えて文字を塗りつぶし、距離を取ってコンパウンドボウに持ち換える。
以上の動作繰り返し、矢筒に用意していた20本の矢を射ち尽くした。
ペイント弾で動きを封じた際、キッチンタイマーで時間を測ることも忘れない。
ロックゴーレムの動きを止めて置けるのは、30秒程度だということがわかった。
矢を射ち尽くした後、ロックゴーレムの動きを封じた敏樹は気づかれないよう物陰に移動。
ロックゴーレムが動き出したところで、ズームレンズ付きの一眼レフで、額の文字のあたりを撮りまくった。
20枚ほど写真を撮った後、敏樹はタイミングを見計らってライフルを構え、再度ロックゴーレムの動きを封じる。
そしてキッチンタイマーを25秒にセットして始動させ、屋上から屋内へ、更に階段を駆け下りて校舎を出た。
その時点でまだ10秒ほど余裕があった。
キッチンタイマーが鳴り、そのすぐあとにロックゴーレムが動き始めた。
それを確認した敏樹は、車に乗って家に帰った。
家に帰った敏樹は、作業場のPCにカメラのデータを取り込んだ。
そして、額の文字を確認する。
(一応削れてるっちゃあ削れてるか)
コンパウンドボウによる攻撃だが、直撃した部分の効果範囲は狭いが威力は非常に強い。
矢が軽いので岩を貫いたり砕いたりは出来ないが、表面を少し削るぐらいなら可能である。
そして、敏樹が矢を命中させた部分は、少しだけだが表面がえぐれたり、文字が削れたりしている。
それらは文字を塗りつぶした塗料が消えた後も、傷が回復することはないことがわかった。
文字を『削り取る』という方法はどうやら正解らしい。
(……もっと当てたつもりだけどなぁ)
かなりの数の矢が文字に命中していたはずである。
しかし、それに対して傷の数が少ない。
何枚かの写真をよく見てみると、一応傷は入っているものの、削り取るには至らないような跡が散見できた。
角度が悪かったり威力が足りないせいで、文字を削れていない攻撃もあったようである。
先述したとおりコンパウンドボウから放たれた矢の威力は非常に高い。
その高い威力を持ってしても、少し角度が悪かったり、弦の引きが甘かったりすると、文字を削るには至らないようである。
『削り取る』という方法が有効ではあるが、生半可な攻撃ではあの文字を削り取ることは出来ないということらしい。
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