第30話『ゴーレム戦 3』

 小学校に現れたゴーレムだが、ファイアゴーレム、アイスゴーレム、ウッドゴーレムの3体を倒し、残すはマッドゴーレムとサンダーゴーレムとなる。

 倒した3体はなんとなく弱点がわかったが、残る2体をどう倒すべきか、敏樹は頭を悩ませていた。


(とりあえず放電させてみるか?)


 敏樹は次の標的をサンダーゴーレムに決め、あれが纏う電気を放電させて弱体するかどうかを確認することにした。


 軽バンではなく米国車でサンダーゴーレムのいる小学校を訪れた敏樹は、まず敵を観察する。

 運転席のドアを少し開け、運動場の中央にサンダーゴーレムを発見。

 例のごとく、サンダーゴーレムは光る身体の表面に時折バチバチと電気を走らせながら、敏樹に向かって歩いてきた。


 なんとなく電気は速いというイメージがあったので少し警戒していたが、移動速度はファイアゴーレムやアイスゴーレムとそれほど変わらないことがわかった。

 ギリギリまで引きつける。

 やはり最初は近接攻撃を行うようになっているのか、10メートルを切ってもただ近づいてくるだけだった。

 そして互いの距離が2メートルを切ったところで、サンダーゴーレムは拳を振り上げる。

 敏樹はそれを確認し運転席のドアを閉め、前進。

 50メートルほど進んだところで車を停めた。


 運転席から降りて荷台を開けて、積んであった貯水タンクの下に敷いている荷台の車輪のストッパーを外し、荷台から少しだけはみ出す位置まで引っ張り出してストッパーを固定した。

 貯水タンクの排水コックをひねると透明の液体が勢いよく排出され始めた。


 今回敏樹が用意したのは食塩水である。

 100リットルの農業用貯水タンクに水道水を貯め、業務用の食塩5キログラムを混ぜて作ったものだった。

 まずは食塩水の水たまりを作ってみてどうなるかというのを確認する。


 ちなみに敏樹の装備だが、耐衝撃装備の上からゴム製の胴付き長靴を着用し、肘までのゴム手袋をはめている。

 サンダーゴレームは現在30メートルの位置までたどり着いており、タンクの水は半分程度になっていた。

 25メートル辺りまで近づいたところで敏樹は排水口の蓋を閉め、タンクを押し込んで荷台のドアを閉めた。

 念のため遠距離攻撃を警戒してのことである。


 運転席に乗った敏樹は30メートルほど前進し、運転席のドアを少し開けた。

 ルームミラー越しにサンダーゴーレムの様子を見る。


 サンダーゴーレムはそのまま敏樹の方へと歩みを進めていき、ついに水たまりに足を踏み入れた。


バチィッ!! と轟音が響き、辺りが一気に明るくなる。


「あぁ~……目が……目がぁ……」


 ルームミラー越しでもダメージを受けるほどの閃光だったが、それでもまだネタに走る余裕はあり、敏樹は焦らず車のドアを閉めた。

 そして、しばらくまぶたを軽く押さえて目を休める。

 数分でなんとか見えるようにはなったが、流石にボス戦でぼんやりとしか見えない状態というのは危ないと思い、さらに10分休憩した。


 ようやくまともに見えるようになった敏樹は、様子見とばかりに運転席のドアを開ける。


「……暗くなってね?」


 サンダーゴーレムはまだ水たまりの上に立っていた。

 おそらくは敏樹の姿が消えたので探しているのだろう。

 水たまりはの表面には時折小さな雷撃のような放電が見られ、サンダーゴーレム本体は随分と光量が減ったように見える。


 最初は人型の発光体のように見えていたサンダーゴーレムだったが、いまは黒い人型の人形の表面に時折電気が走っているという程度になっている。

 どうやら咄嗟に運転席のドアを閉めたのが功を奏したようだ。

 そのまま歩かせていれば1~2歩で水たまりを過ぎており、ここまでの放電には至らなかっただろう。

 そして放電によって弱体化するのではないかという敏樹の思惑は見事的中した。


(あれならいけるか?)


 敏樹は運転席のドアを閉めると、車を切り替えして反転させ、ゴーレムがいるであろう場所から距離をとった。

 4点式シートベルトをしっかりと締めたあと、ドアを開けてストッパーで固定。

 正面に捉えたサンダーゴーレムに向かって急速前進した。


 バゴンッ!! という鈍い音とともに、サンダーゴレームが宙に舞う。

 そして後ろの方で、ドサリ! と音がし、サンダーゴーレムが地面に叩きつけられる様子を、敏樹はルームミラー越しに確認した。


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(意外とあっさりだったな)



*********



 残るゴーレムは最初に遭遇したマッドゴーレムのみ。

 とりあえず敏樹は現在、マッドゴーレムを観察すべく小学校を訪れていた。


 マッドゴーレムは水分を多く含んだ泥で出来ているように見える。

 そして、体表がわずかに蠢いているようにも。


 敏樹は車を降りるとマッドゴーレムに駆け寄り、家から持ってきていた木材の端材や、割れた瓶などを投げつけた。

 ベチャ! という音ともに、命中した物がマッドゴーレムの身体にめり込むと、それはズブズブと取り込まれていった。

 じっと様子を見ていると、取り込まれた物が体内を移動しているようにみえる。


(とりあえず固めてみるか)


 敏樹は一旦家に帰り、必要なものを注文した。

 翌日は届いた荷物を武器に変えるための内職に一日を費やす。


 そしてさらに翌日、敏樹は米国車の方に乗って小学校へ行った。

 敏樹はマッドゴーレムから30メートル程度の場所に立つと、用意していたものを次々に投げつけた。

 それは袋に入った粉末であった。


 マッドゴーレムに命中した袋は、どんどん体内に取り込まれていくのが分かる。

 敏樹は気にせず袋を投げ続けた。

 20メートル以上の距離を保ちつつ、後退しながらも100袋近く投げつけ、その8割程度が命中している。

 幾つか足元に落ちた物もあったが、マッドゴーレムに踏まれたものは吸収されているようだった。

 投げた勢いで袋が破れ、中の粉末が辺りを漂い、少し視界が悪くなっていた。


 とりあえず用意した粉末をすべて投げきった敏樹は、一旦車に戻る。

 そして車を動かし、マッドゴーレムから距離を取る。


 改めて運転席のドアを開けると、フロントガラスの向こうにマッドゴーレムが現れたが、明らかに動きが鈍っていた。


(上手くいきそうだな)


 三和土たたきというものがある。

 赤土と砂利に石灰とにがりを混ぜて作るもので、和製コンクリートとも呼ばれる建材である。


 敏樹が投げつけた粉末は、石灰と粉末にがりであった。

 それらを袋状のオブラートに入れ、ひたすらマッドゴーレムに吸収させた。

 オブラートはマッドゴーレムの泥が含んでいる水分で溶け、粉末が取り込まれていく。

 マッドゴーレムの体を構成しているのが赤土かどうか不明であるし、砂利を混ぜているわけではない。

 しかし、赤土も砂利も三和土の強度を高めるために必要なものではあるが、今回の場合は固まりさえすればむしろ脆いほうがありがたいのである。


 敏樹の方へと歩み寄っていたマッドゴーレムだったが、その動きは徐々に鈍り、やがて完全に止まる。

 そして水分の多かった泥の体の表面が徐々に乾いてきているのがわかった。


 マッドゴーレムの動きが止まったのを確認した後、敏樹は念のため10分ほど待ち、その後、固まったマッドゴーレムに向かって突進する。


 ボゴッ!! という鈍い音と共に衝撃が走り、マッドゴーレムはボロボロに崩れ去った。


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**********



 敏樹は今中古車ディーラーに来ていた。

 ゴーレム戦で何度か体当たり攻撃を行った米国車のフロント部分がかなりへこんでいたので、買い換えようと思っている。

 外見的な部分もだが、あれだけ大きなものに何度もぶつけた以上、見えないところでの不具合があってもおかしくはない。

 ゴーレム戦でポイントもかなりたまったので現在の米国車を下取りに出し、以前から目をつけていた米国産の大型SUVを購入することにした。

 右ハンドルであることをしっかりと確認し、オフロードバンパーと4点式シートベルトも忘れずに追加しておく。


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 今回は乗ってきた車を下取りに出したせいか、その場で乗って帰れるようである。


 せっかくなので、街をひとっ走りする。

 無人の国道を大型SUVで走るというのは、なかなか気分のいいものである。


(あ、中学校と高校も覗いておこうかな)


 小学校のゴーレムを倒しせば、中学校や高校のボスエリアが解放されるのではないかと、敏樹は予想していた。


 とりあえず近場からということで、先に高校を訪れるも、こちらはまだ入場できず。

 続けて中学校を訪れる。


「お、行けたねぇ」


 問題なく中学校の運動場に乗り込むことが出来、敏樹は思わず声を漏らしてしまった。


(せっかくだし、ボスの確認しとこうか)


 敏樹は運転席のドアを開けた。

 そして運動場の中央にボスが出現する。


「おう……」


 そこには今まで倒してきた5体のゴーレムが並んで立っていた。

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