第25話『対ゲイザー戦』
石化の魔眼といわれて多くの人が思い浮かべるのは、ギリシャ神話のメドゥーサであろう。
元は美しい女性だったが、女神アテナの怒りを買ってしまい、メドゥーサは自慢の美しい髪を蛇に変えられてしまう。
また、見た者を石に変えるという能力もその時に付与されたと言われている。
アテナの怒りを買った理由については諸説あり、アテナ神殿でポセイドンと致していたところをアテナに見られてしまい「てめぇふざけんな」ということでブチ切れられたとか、自分はアテナより美人であると吹聴しているのをアテナに聞かれてしまい「てめぇふざけんな」ということでブチ切れられたとかそんな感じである。
その上「姐さんそらなんぼなんでもやりすぎでっせ」と抗議に来たメドゥーサの姉2人もついでとばかりに化け物にされてしまった。
とにかくギリシャ神話の神々というのは例外なく狭量で短気なので、これはもう運が悪かったと思うしかあるまい。
やがてペルセウスとかいう若者が王の結婚祝いにメドゥーサの首を持ってくるというなんだかワケの分からない話になり、またもアテナが登場してペルセウスの手助けをすることになる。
その際、アテナがペルセウスに盾を貸すのだが、これがかの有名なイージス(アイギス)の盾だと言われている。
アテナによって化け物に変えられてしまったメドゥーサは、自慢の髪の毛を醜い蛇に変えられ、石化の魔眼持ちになったことで恋をすることも出来ず、世を儚み姉と3人で肩を寄せ合って健気に生きていたのだが、そこへペルセウス青年が不法侵入とばかりに乗り込んでくる。
ちなみにメドゥーサらゴルゴン三姉妹の居場所を突き止めるため、ペルセウス青年は老姉妹を暴力で脅すという鬼畜ぶりを発揮している。
そのペルセウスが魔眼対策に使ったのが、鏡面加工された盾越しにメドゥーサを見るということだったのだ。
憐れメドゥーサはあっさりと首を落とされ、死後もこき使われることになるのだが、書いてて悲しくなってきたので割愛させて頂く。
このペルセウスとメドゥーサの逸話に魔眼対策のヒントがある、と敏樹は考えている。
魔眼というものが一体何なのか、何かの信号を発しているのか、不可視の光線のようなものを発しているのか、そのあたりは不明だが、直接見なければなんとかなるということは、神話が教えてくれている。
敏樹は届いた荷物を加工し、魔眼対策を施した防具を完成させた。
そして、自作したレーザーポインターを手に、新たに買った安物の軽バンに乗り込んで再び神社へと向かった。
**********
神社に着くと、破壊された先代の軽バンがまず目に入った。
昨日よりも破壊の度合いはひどくなっているようだ。
今度は敷地内ギリギリの所に車を停め、慎重に車から顔を出し、敷地外の軽バンの残骸がある辺りの様子を見た。
ざっと見た限り、ウェアウルフはいないようだった。
まだ魔眼対策をしていないので神社の敷地内側を見る事はできない。
一応ウェアウルフの脅威が去ったと判断した敏樹は一旦車に乗り込み、用意していた魔眼対策用の装備を身に着け、車を降りた。
左手にレーザーポインター、右手にトンガ戟、首から下はいつものスタイルだが、頭の部分がいつもと異なっていた。
フルフェイスヘルメットのバイザーを不透過のプラスチック板に替え、完全に外が全く見えなくなったバイザー部分の中央を適度に切り取り、そこにデジタルカメラを埋め込んでいた。
一見すれば出来の悪いモノアイ型機動戦士のコスプレのように見える。
デジタルカメラは動画撮影モードのスタンバイ状態にしており、カメラのレンズを通して本体背面のモニター越しに外の様子が見えるようになっている。
ゲイザーの魔眼が何を発しているのかは不明だが、カメラのレンズとシステムを通じてデジタル信号に変えてしまえば、それがいかなるものであっても無効化出来ると敏樹は考えたのだった。
(どうやら上手くいったらしい)
ゲイザーは既に敏樹の方を見ており、モニター越しにしっかりと目が合っていた。
しかし身体が石化する兆候はない。
次に敏樹はレーザーポインターのスイッチを入れ、ゲイザーの黒目を狙って照射した。
発声器官を保たないゲイザーが悲鳴を上げるようなことはないが、放たれた光線から逃れようとする動作から、これもまた有効であることがわかった。
「おっし、いける!!」
レーザーを受けたゲイザーはとにかくその射線から逃れようとするばかりで、反撃に移ろうとはしなかった。
つまり、魔眼以外の攻撃手段がないであろうという予想も当おそらくは当たりだろう。
そうなれば後は時間をかけて瞳を焼いていけば、いずれ倒せるはずだ。
予備の電池は充分に用意している。
敏樹は逃げるゲイザーを執拗に追いかけ、レーザーを当てていく。
最初はなんとか射線から逃れようと移動していたゲイザーだったが、耐えきれなくなったのかやがて完全に後ろを向いてしまった。
瞳の裏側にある粘膜は薄ピンク色で、黒に比べてレーザーの効果が著しく下がる。
事実、粘膜側にいくらレーザーを当てても特に嫌がる様子は見せなかった。
しかし、こんな事もあろうかと敏樹はトンガ戟を装備していたのだった。
石突部分に取り付けたゴムバンドを手に引っ掛け、耕筰用刃を地面に押し付け、そのまま体重をかけてゴムを張った後、敏樹はトンガ戟を構えた。
遠近感は掴みづらいが、モニターに戟のナイフの切っ先が映るように位置を調整する。
(なんかゲームみたい)
ゲイザーの粘膜には、前回コンパウンドボウから放った矢が突き立ったままだった。
その粘膜を目掛け、銛の要領でトンガ戟を放つ。
柔らかい肉を貫くような感覚が手に伝わり、ナイフの刃はずぶりと粘膜に刺さった。
「柔っ!!」
思った以上に柔らかく脆い手応えに、敏樹は勝機を見出す。
どう考えてもこの粘膜部分がゲイザーの弱点だった。
敏樹は左手に持っていたレーザーポインタをポケットに仕舞い、トンガ戟を両手で持つと、ひとまずナイフの刃を引き抜いた。
特に抵抗なく刃は抜かれ、傷口から血が流れるのを確認しつつ、敏樹は続けて突きを繰り出した。
再びナイフの刃が粘膜に突き刺さる
ゴムの反動を利用せずとも、充分にダメージは与えられるようだ。
「こっからは俺のターンじゃい!!」
直接両手で構えて突いたことで、間合いを体感できた敏樹は、ナイフの刃を引き抜くと今度はトンガ戟を振りかぶった。
そしてそのまま全身の力を使ってトンガ戟を振り下ろす。
耕作用の刃で抉られた粘膜の一部が、ドチャリと音を立てて地面に落ちた。
「おーっし!!」
確かな手応えを感じた敏樹は、続けてトンガ戟を振りかぶった。
ナイフでチクチク刺すよりも、トンガで抉ったほうがダメージは大きいに違いあるまい。
しかしゲイザーの方も弱点を晒し続ける愚を悟ったのか、素早く振り返った。
振り下ろされたトンガの刃が眼球に直撃する。
「おわっ!?」
白目部分に直撃した耕作用の刃は、だがその瞬間ヌルンと弾かれてしまう。
やはり何らかの被膜による防御手段はあるようだ。
至近距離からコンパウンドボウで矢を射ち込めば貫ける可能性はあるかもしれないが、モニター越しに命中させるというのはほぼ不可能に近い。
「ま、そっちがその気ならそれでもいいんだけど?」
敏樹はポケットから再びレーザーポインターを取り出し、黒目にレーザーを照射した。
ゲイザーはなんとか背を向けずに避けようとするが、いくら大きく移動しようとも敏樹の側は少しいポインターの角度を変えるだけで補足できるので、逃げ切ることは不可能だ。
たまらず背を向ければ、トンガ戟の刃が襲い掛かってくる。
結局そうやて30分ほど戦っていると、徐々にゲイザーの動きが鈍くなっていき、最後は浮遊していられなくなったのか地面に転がった。
敏樹はそれを足で転がし、粘膜側を上に向け、トンガ戟を振り上げた。
「おつかれさん」
そう言うと、敏樹は思い切りトンガ戟を振り下ろした。
これまで粘膜を抉っていたのとは異なり、少し硬いものを破るような感覚が手に伝わる。
すると球状を保っていた眼球の形が崩れ、破れたところから硝子体と思われる無色透明なゼリー状の物質が流れ出てきた。
その後、眼球の形が完全に崩れ去る前にゲイザーは消滅した。
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