第7話『手近なもので装備を整える』
戦うためには装備を整える必要がある。
そう考えた場合、やはりトンガは失うには惜しい武器だと敏樹は考えた。
しかしあれを取りに行くまでに、またあの弓を持ったゴブリンに襲われないとも限らない。
否、襲われる可能性は非常に高い。
であれば何らかの防具を用意する必要がある。
何か防具になりそうなものを探すため一階に降りたところで、玄関にダンボールが置かれているのを発見した。
(あ、本か)
昨日試しにTundraで注文していた本が届いたのだろう。
たかが本一冊に大仰な、と思いつつも箱を開け、注文した本が入っていることを確認する。
(そうか、Tundra!!)
世界最大のネットモールなら、何か役立つものがあるかもしれないと思い、敏樹は寝室兼リビングである自室に戻った。
敏樹は自室に置いてあるノートパソコンを起動させた。
離れの仕事場以外に、自室でもパソコンが使えるようにはしてあるのだ。
ブラウザからTundraへアクセス。
武器はトンガを取り返すとして、防具を探してみる。
(やっぱ防刃ベストあたりがベタかなぁ)
試しに
まぁ板金鎧のカテゴリはコスプレだったが、それでも五十万以上もするのだからそれなりの作りなのだろう。
さすがに買おうとは思わないが。
剣や盾も普通に売ってある。
剣の方はやはりジョークアイテムだが、中には軍用マチェットなどもあり、そのあたりは普通に使えそうだ。
盾の方はと言うと、ジョークアイテム以外にポリカーボネート製の物があり、これは正直欲しいと思った。
それなりの強度がありつつ、透明なので前が見える、というのは便利そうだ。
十万以上するので今は買えないが。
あとはプロテクターも案外使えるかもしれない。
多いのはバイク用のプラスチック製プロテクターで、全身タイプや胸部だけのタイプがあるようだ。
ざっと見た感じではっきりとは覚えていないが、魔物どもが持っていた刃物系の武器は斬れ味の悪そうな西洋風の物が多かったと記憶しており、やはりというべきか、棍棒を持つ個体も目についた。
であれば、衝撃耐性の強いプロテクターは案外有用かもしれない。
改めて防刃ベストを見てみる。
たしかにベストもいいが、目を引いたのは防刃パーカーというものだった。
首周りから腕までしっかり守られており、フードをかぶればちょっとした兜の代わりになるかもしれない。
ケブラー材でできており、耐火性もあるらしい。
(うん、魔法とか使ってくるやつもいるかもしれないから、耐火性ってのはありだな)
価格は二万五千ポイント。
買えなくはない。
しかし所持ポイントの半分以上というのは躊躇してしまう額だ。
(貫通に対しては対してはそれ程効果がないのか……)
アイスピックのような先の尖ったもので規格以上の力が加わると貫通する、と説明文にはあるが、矢はどうだろうか?
アイスピックほど鋭くはないだろうが威力はかなりのものだ。
どちらにせよ買ったところで今すぐ手に入るわけじゃなし。
少し検討することにして、とりあえずは手近なもので防具の代わりとし、トンガを取りに行くことにした。
やはり家にあるもので防具といえば鍋類だろう。
軽い小口径のホーロー鍋を頭に被り、口径の大きいフライパンを手に取る。
そして腹と背中を守るような形でズボンのウェストに雑誌を挟む。
一応眼鏡もかけておく。
敏樹は普段、裸眼で過ごしているのだが、運転のときなどは眼鏡かけるようにしている。
運転用の眼鏡は車に常備しているが、運転以外に映画を見る時などに眼鏡が欲しくなることもあるので、眼鏡は複数持っている。
その中で一番フレームが頑丈そうなものを選んでおいた。
姿見の前でフライパンを構え、中腰になってみる。
(絶対人に見せられないな……)
鍋を頭に被り、腹と背に雑誌を挿し、胸のあたりを隠すようにフライパンを構えるアラフォー男。
完全に不審者だ。
スニーカーを履き家の外へ。
靴も、安全靴みたいなものを用意した方がいいのだろうか、と思いつつ庭の方へ。
敷地の境界線に立ち道路を見る。
一応敷地から顔を出さなくてもゴミ集積場辺りまでは見えるようになっている。
ちょうど家からゴミ集積場までの間あたりの路上にトンガは転がっていた。
続けて顔を敷地から出してみる。
ゴブリンの姿は見えない。
しかし、さっきと同じように、畑の陰に隠れているかもしれない。
幸い家からトンガまでの間にスライムはいないようだ。
(よし、ヤバかそうならすぐに撤退しよう)
胸のあたりをフライパンで隠しながら、半身で構え腰を落としてゆっくりと歩く。
視線は奥の畑のグリーンカーテンあたりに固定しつつ、視界の端でトンガを捉えておく。
少しずつトンガに近づいていく。
もしかするとサッと走ってサッと取ったほうがいいのかもしれないが、自分がそこまで機敏に動けるとは思えない敏樹は、焦らないようゆっくりと歩みを進めていた。
(ん?)
一瞬グリーンカーテンの隙間から鈍い光が見えたような気がした。
そして次の瞬間「カサッ」と何か葉が擦れるような音が聞こえたような気がする。
敏樹は反射的に、フライパンの陰に顔を隠すようにして見を縮こめた。
カァンッ!!
硬い金属音がフライパンから響き、柄を握った手に衝撃が伝わる。
上手く衝撃を殺すことが出来たのか、フライパンを掠めた矢が大きく角度を変え、自分の後ろに飛んで行くのが見えた。
(助かった……)
大股で歩を進め、一気にトンガの元へ。
左手でトンガを持ち、フライパンから顔を出すと、畑から姿を表したゴブリンがちょうどこちらに向けて弓を構えている所だった。
「うわっ!!」
慌ててフライパンで顔を隠すと「コンッ!!」と今度は正面で屋を受けた形となり、結構な衝撃で危うくフライパンを落としそうになった。
防いだ矢が敏樹の足元に落ちる。
(もしかして、これって拾ったら武器になるんじゃね?)
と思い、地面に落ちた矢を見たところ、数秒で消滅してしまった。
(おう……そういうことね)
どうやら敵の武器は、持ち主から離れると消えてしまうらしい。
その後も敏樹はゴブリンたちの方を向いてフライパンを構えつつ、身をかがめて後ろに向かって歩き続ける。
数発の矢をなんとかフライパンで防いだが、その内一発を受けたときの角度が悪く、左肩を掠めてしまう。
しかしそれ以上の傷を受けることなく、敷地内に戻ってくることが出来た。
(ふぅ……なんとかトンガを取り戻せたぞ)
とりあえずトンガをガレージに転がし、急いで家に入る。
服を脱ぎ、水道水で肩の傷を洗った。
「イッテェ!!」
かすり傷だと思っていたが、結構深く抉られており、血が止まりそうにない。
キッチン用のアルコールスプレーを傷に直接吹きかけたところ、悲鳴が出るほどの痛みが走った。
こういう傷を受けると、怖いのは化膿だ。
一応アルコールで消毒はしたが、傷に直接アルコールをかけたところで雑菌の類はすでに体内に入っているためあまり意味はなく、逆に細胞の再生を阻害してしまうとも言われている。
化膿を止めるには化膿止めを飲むのが一番だろう。
それに、先程から流れている血も絆創膏程度では止まりそうにない。
(うん、病院へ行こう)
とりあえず傷口をタオルでキツく縛る。
映画やドラマでよく見るように口と右手を使って左肩の辺りを上手く覆おうとしているが、なかなか上手くいかない。
業を煮やした敏樹は、傷口に折りたたんで分厚くしたタオルを当て、ガムテープを適当に巻きつけて固定した。
「イテテテ……」
何となく声に出しておかないと耐えられそうになく、時々「痛い痛い」と喚きつつ、車に乗り込み、病院に向けて出発した。
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