暗殺者クロナの依頼帳Ⅲ 迷惑な蒐集家

レライエ

Dead-Men No Talk

 ………から、三日後の事だった。


「………お見事でした、クロナさん」

「そりゃどうも」


 ベルフェの言葉に、私は肩をすくめた。


 古ぼけて忘れられた、バーのカウンター席。

 隣り合って座る私たちは、互いに視線を交わすことなくグラスを傾ける。私はスコッチウイスキー、魔術師はギムレット。

 グラスの種類さえ噛み合わない二人である。


「標的は、無事できたようです。フィルムント最大手新聞の号外でも、『魔法道具蒐集家コレクターユジーン氏、自殺』と報じていますから、疑う余地は無さそうですね」

「それはそうだろう、本当に自殺さ。なにせあいつは、


 差し出された新聞を突き返す。事件だ、見る価値はない。

 苦笑の気配をにじませて、ベルフェは引き戻した。


「『本人以外誰も知らない金庫の中での死。使用人たちも中を知らず、持ち出された物があるかどうかさえ不明。王国巡視隊ロイヤルガードは自殺とみて調査を打ち切る予定』………ふふ、いやあ、さすがですよ」


 私は答えず、グラスを傾ける。

 無言の私の手元にスッと、布袋が差し出される。握りこぶしには僅かに足りない大きさの膨らみを横目で見て、私は静かに唇を舐める。

 ここからが仕事の醍醐味、交渉の時間だ。


 正直言って今回の依頼は、万事が万事予定調和で終わった。

 私を含めた全ての登場人物キャラクターが計画した通りに動いていて、正に手の平の上だったのだ。


 難しいところはあったが、問題は無かった。


 ………問題は、これからだ。報酬の交渉、依頼よりもよほど困難な段取りステージと言える。


 何しろ、私に依頼をするような奴だ――胆は据わっている。

 私との接点、知られたら誰であれ身の破滅。人を呪わばなんとやら、誰かのを望むなら、自らも死に臨む覚悟が求められるのだから。


 ………私はクロナ。

 報酬と引き換えに他人のための、悪名高き必要悪だ。


 今回、穴に落とされたのは………。

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