【短編】どうして転生先は異世界なの?

真尋 真浜

前編


「あなたは不慮の事故で命を落としました。そんなあなたに対し、神は慈悲を以って異なる世界への転生を認めましょう」


 女神としてこの仕事に就いてから、何度も繰り返した台詞。


「別の世界で生きていくため、あなたには記憶、知識、或いは能力。神の名において望む加護を授けましょう」


 死したる魂を前にこの話をした場合、問われる内容の大半は転生先の世界観か、得られる能力に関する質問である。


 だから、この質問をされたのは実に久しぶりだった。


「女神様、ひとつ聞いてもいいですか」

「何でしょう?」

「転生させてくれるって話ですけど、どうして転生先は元の世界じゃないんですか?」


******


 俺はトラックに跳ねられ、気がついたら女神様の前にいた。

 女神様なんて見た事もないけど、見た瞬間「これは神様だな」って分かる威圧感と神々しさを持っていたから、説明される前からそう認識していた。


 その女神様は俺が死んだ事、それがまだ俺が死ぬ予定よりも先に起こった事故である事を説明し、


「あなたに対し、神は慈悲を以って異なる世界への転生を認めましょう」


 異なる世界での命を補填してくれた。

 不運の代償に何かしらのアドバンテージをオマケにつけて。


「……なるほど。これがいわゆるトラック転生って奴か」


 サブカルネタにはそれほど詳しくないのだが、聞いた事はある。

 不慮の事故で死んだ主人公が何故か神様の恩恵に預かり、現世より恵まれた条件で他の世界での生活を新たに始める系統の話だったか。

 まさか実在し、自分の身に降りかかるとは思わなかったが。


「別の世界で生きていくため、あなたには記憶、知識、或いは能力。神の名においていずれかの望む加護を授けましょう」


 気前よく別世界で生きるための便宜を図ってくれる女神様。


 ──と、疑問に思った事がひとつ。


 転生、生まれ変わってやり直す事。

 この状況、生まれ変われる先は何故か異世界である事が圧倒的に多いらしい。

 この世界で死んでしまったのだから、この世界でのやり直しの機会になるのが普通なのではなかろうか。


 何故、わざわざ異なる別世界なのだろう。


「女神様、ひとつ聞いてもいいですか」

「何でしょう?」

「転生させてくれるって話ですけど、どうしてんですか?」


 その質問をした時。

 確かに女神様は微笑んだ、と思う。


「……その質問をされたのは、あなたで4人目です」

「あの、ひょっとして聞いちゃダメな事でした?」

「いいえ、その事を気にされる方が極めて珍しい、それだけです」


 では今の微笑みは変わった人間を見たからこそのものだったのか。


「ですので答える事に問題はありません。理由を一言で表現するなら──」

「するなら?」

「『入植』が目的だからです」


 ニュウショク。

 女神の回答は、あまり聞きなれない言葉だった。


「未開地の開拓に現地での人手が足りない場合、他所から人を連れて来る行為です。あなたの世界にもある言葉ですが、馴染みは無さそうですね」


 未開地に人を……うん、なんとなく理解できた。

 大国が世界中に植民地を持ってた時代、支配地のあちこちから開拓する大陸に大勢の奴隷を連れていったような


「……奴隷?」

「『植民』ですよ」


 嫌な想像をした俺に女神さまは多少の否定をしてくれたが全面的否定ではなかったように思えるのは穿ちすぎなのだろうか。


「あなたの世界は人類種だけで数十億を数えます。星ひとつに住まうだけで見れば多すぎる数、他の天体への進出を果たさない限りは飽和状態だといえます」

「それで、人の足りない世界に入植?」

「はい。正しくは知的生命体に宿れるほどに成長した『魂』を入植させるのが目的なのですが」


 魂は無からも生まれ落ちるが、生まれたばかりの魂は霊格も低く知的生命体に宿るには不足、つまり人の数が増えない一因になっているらしい。

 であれば輪廻を繰り返す事による成長を待つよりも、既に成長した魂を他から持ってくる方が早いという発想。


「本来、輪廻転生は同じ世界の輪に括られているのですが、転生する当人に世界の移動を了承して貰えれば」

「中世ヨーロッパっぽいファンタジー世界、人口が1億にも満たないような世界へ入植させる事が可能になるって話か」

「理解が早くて助かります。ええ、そういった世界を選んで紹介しているのです」


 世界の壁を超えた入植。

 なるほど、意図は理解できたような気がする。

 するのだが。


「でも、異物を招き入れて大丈夫なんですか?」


 先も女神は俺にこう提案していた。

 記憶、知識、能力。

 転生に際してこういった加護を与えると。


 人口の少ない世界にそんな異能を持った人間を生まれ変わらせて問題はないのだろうかと。


「異物、その通りですが影響は微々たるものです」


 女神が何度目かの笑みを浮かべる。

 しかし、今度の笑みは優しさを欠いたそれ。


「何しろですから」


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