毒、ときどき苺

米の王子

真実の口1

ニシムラくん銀行への膨れ上がった借金を返すべく、今夏私は都内某遊園地付属プール施設で働くこととなった。

プールのバイトといえば通常ライフセーバー、監視員の仕事がイメージされるだろうが今どき学校の水泳授業でも着ないような微々たる布面積の水着を着用して己の肉体美を露出する趣味はなくそもそも水中よりも陸上を得意とする私がわざわざそんな職務に就く道理はない。


今回私はプール施設内の警備の仕事に就いた。

施設内で禁止されている刺青やタトゥーをした人に対し退場を促し、痴漢や盗撮がないように目を見張らせたりするのが主な仕事である。まあ実際のところはお客様の道案内からカップルの写真撮影、はたまた迷子探しまで施設内で起きる面倒事を請け負い、プール内の便利屋として働くことになる。

受け身の仕事なので何もなければ基本的には施設内を巡回し、立ち止まってぼーっとしているだけに楽してお金を稼ぎたいという諸君には是非おススメしたい。とにかく暇である。

しかしながら、何もしない、というのはそれはそれで意外とつらい。

そのため、目の前を通り過ぎる水着のお姉さんのカップ数を目測して精神的保養に努める、「お兄さん何してるのー?」なんて無邪気に話しかけてくるちびっ子を「お兄さんは悪い人からみんなを守ってるんだよー」なんてファイティングポーズの構えを見せてからかってみる、昔ドラマの主題歌か何かでプチヒットを飛ばしたけれどそれからは鳴かず飛ばずなアーティストや某動画サイトで絶賛活躍中という芸能人オーラがまるでない歌手、売り出し真っ最中らしいが見事に売れそうな気配を感じさせないロコドルらしき女性が波のプール上のステージで歌っているのを温かい目で見守るなどして17時の閉園をだらだらと待つのである。



ときおり波プールステージから波打ち際に向かいスプラッシュ放水ショーが行われ、ポップな夏の有名ソングとともに馬鹿騒ぎする時間がある。

我々警備スタッフはステージの端っこに立ち横腹からそれを見守るのだが、ときどき放水のアーチになぞるように虹が見えることがある。私はこの職業特権を毎度楽しみにしていた。

プール内にぎゅうぎゅうに敷き詰められた人々に救いの手を差し伸べるかのように虹の橋が架かっていて、でも虹なんてお構いなしに踊り狂う人々を見て、ひとり面白くなる。

何が十人十色か、水を被れば皆水色ではないか。

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