第5話 いざ、異世界へ
「ろくな世界がないな……」
「これでもサービスしている方なんですけどね」
転司は両手を広げて肩をすくめる。
どんな転生先を選ぼうとも、どうしてもポイント不足とやらで不十分な人生になる。
「どうにかなんない?」
「そうですね……裏技はありますが」
「あるの?」
転司は全ての小窓を一度手元に戻す。
光が収まり、元の紙束に戻った。
それを掲げて一言。
「ランダム選択です」
「リスク高っ!?」
これまでろくな世界を見ていないから、まともな世界に当たる可能性は低いとしか思えない。
「ポイント度外視でやるならそれくらいのリスクは負ってくださいよ」
「えー」
「嫌なら転生の話は無しで、このまま地獄か天国かの審判にかけられますが?」
「わかった、やる」
俺は不満ではあるが、了承した。
どちらにしろ、勉強だらけでいい事のないあのクソみたいな人生からは変化するはずだ。
「では行きます」
転司が書類を投げ上げる。
再び光を帯びた紙束は、俺たちの周りを縦横無尽に飛び回り始める。
「いいですか。今回は制限を全て解除しています。だから本来貴方が持っている請求権も消滅します」
「と言うと?」
「ファンタジー世界ですらない世界へ転生する可能性もあります」
「げ……ちょっと待って」
「無理です。ただでさえ貴方に時間を使ったんです。これ以上は譲歩不可能です」
冗談じゃない。
こうなったら、まともな世界を引くしかない。
俺は一つの世界に手を伸ばす。
「……」
「決心がつきませんか?」
俺は頷いた。
転司はため息をつく。
「やはり、無理でしたね。所詮貴方の本質は現実から逃げようとすること。新たに踏み出す勇気すらないのでは、どんな世界に言っても無意味な人生を歩むだけでしょう」
その言葉にムカついた。
転生したら俺は活躍できるはずなんだ。
ただ、今の世界が合わないだけなんだ。
「ああ、分かったよ。それなら次の世界の俺を見てろよ。全力でやってやる」
「ほう……?」
俺を見下すような目。
絶対にほえ面書かせてやる。
スライムだろうがゾンビだろうが何でもいい。
俺は、そこでできる限り足掻いてやる。
「オラァ!」
近くに飛んできた書類を掴み取る。
それを転司に渡す。
その際にちらりと書類を見たが、何が書いてあるかわからなかった。
「ほほう……これは面白い世界を引き当てましたね」
「どこだよ?」
転司は首を左右に振る。
「申し訳ない。ランダム決定ですので次の世界の情報はお教えできません」
「はぁ?」
「そして、貴方は世界を選んだ。それによって強制的にこの場所から排除されます」
突然、体に浮遊感を感じる。
足元を見る。俺の脚が消えていた。
「貴方はこれから次の世界へ飛ばされます。全てをリセットして新たな人生を始めてください」
「おい、待てよ。全てをリセットって……え、じゃあ記憶とかは?」
「消えるに決まってるじゃないですか」
心底不思議と言った顔で転司は俺を見る。
待て、それじゃあ現実世界の知識を生かしてあっちで活躍するなんてできないじゃないか。
「貴方の世界だって『前世の記憶』は一部の人間しか持っていないでしょう。転生して皆が持っていたら社会が混乱します……ラノベと現実を混同するのはいい加減卒業しなさい」
「待って待って待って。ダメ、キャンセル。今のなし!」
勇者にもなれない、ハーレムも無理、能力も何もない、記憶もない。
これじゃ何のための異世界転生なのかわからない。
「……次に転生する時は、ちゃんと生き抜いて来てくださいね」
「うわああああ!」
そして俺の意識は真っ白になった。
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