第3話 転生先は強者(じゃなかった)

「では、貴方の世界で言う『剣と魔法のファンタジー世界』で絞り込みをかけてみましょう」


 転司が右手を掲げると幾つかの小窓がその周りに集結する。


「今、人手を募集しているのはこの世界ですね」

「結構あるな」

「あとは、細かい設定などを確かめて判断してもらいます」


 一つの小窓が俺の前に来る。

 転司は俺にそれを持てと言う。

 縁の部分を掴む。何だかタブレットみたいだ。


「剣聖王国ストラ。転生先は魔法剣士の男ですね」

「いいじゃん。いいじゃん」


 俺の転生先になる人物の映像が流れる。


「戦いの果てに人々を苦しめる龍を退治します」

「おお!」

「その後、手柄を独り占めしようと目論む仲間に毒殺されます」

「おい!」


 俺は全力で窓を投げ捨てる。


「英雄として生涯を終えるにはポイントが足りてないんですよ」

「もうちょっとマシなのないの。天寿を全うできる奴」

「なら、これなんてどうです?」


 次の小窓が来る。

 俺はそれを手に取った。


「魔法世界アスミタ。世の中を苦しめる魔族と人間との全面戦争中ですね」

「燃える展開だな」

「貴方は炎属性の魔法を操る戦士として戦います」

「ふむふむ」

「初陣で大怪我をして軍を退役。その後、百姓として余生を過ごします」

「は?」

「最後は子供二人、孫五人と同居。貧しくはありますが八十二歳まで生きます」

「いやいやいや」


 俺は再び小窓を放り投げる。


「平凡すぎないか。というか魔法使えても意味ないじゃん」

「畑を荒らす賊や獣とは壮絶な戦いを行えますが?」

「却下!」

「ふむ、お気に召さない」


 次の小窓が来る。

 いつか、まともなのが来るはずだ。


「やっぱり英雄になりたいんですよね?」

「うん」

「それなら次の世界はお勧めです。海洋世界ソウ」

「へー」


 青い海に覆われた世界が映し出される。

 環境は綺麗でいいな。


「貴方は奴隷から始まります」

「いきなりシビアだな」

「順風満帆な人生など、甘さのないケーキと同じです」


 そう言って次の画面を映し出す。


「二十四歳の時、奴隷たちを引き連れて反乱を起こします」

「ほう」

「商人は用心棒の魔法使いたちで鎮圧しようとします」

「魔法使いは敵にいるのか」

「その魔法に撃ち抜かれ、貴方は死にます」

「はい?」

「貴方の死に奮起した仲間によって大反乱に発展し、王国は崩壊します」

「ちょっと待て」

「そして、貴方は反乱の象徴としていつまでも語り継がれることになります」

「いやいやいや」


 全力で首を振る。


「何で死んだ後に英雄になってるんだよ」

「こういうパターンもありますよ?」

「しかも奴隷だよな。魔法使えないし、ハーレムもないだろ」

「ハーレム欲しいんですか?」

「それとチートな能力」

「贅沢ですねえ……先程から言うようにポイントが足りな……おや、ありました」

「マジで!?」


 転司がタッチした小窓が俺の元に来る。

 雲の上に広がる世界だ。


「天空王国ゼスト。転生先は魔王」

「来た来た、こう言うのだよ!」

「十五歳の時に新魔王として即位」

「おお!」

「世界を滅ぼせるだけの強大な魔法を操れますね」

「いいじゃん」

「二十歳の時、戦況の悪化からやけになって、天空王国ごと地上に落下させ死亡」

「待てや!」


 小窓を投げ捨てる。


「しかもこれ、大量の殺戮してますからカルマが溜まりすぎて次の転生先はサナダムシが確定します」

「チート能力持ってても無駄遣いじゃねえか!」

「だってポイントが……」

「うるせえ!」


 ダメだ。どうやっても平凡な人生か早死にしかない。


「……人型にこだわらなければ、少しは待遇がよくなりますが」

「スライムに転生するとかか?」


 転司は頷く。

 そう言えばそんなラノベもどこかで見た気がする。

 こうなったらこだわっている場合じゃない。


「わかった。そっちでも検索してみてよ」

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