02

 迫り来るデュラハンへと、死人は杖を振るう。すると今度は氷の礫がいくつも生成され、デュラハンへと襲い掛かっていく。

 デュラハンはそれを縦でしっかりと防ぎ切ると、肉薄して剣で切り付ける。

 死人は髑髏の杖で剣と軽く打ち合い、一息に跳び退って更に杖を振り被る。

 すると、今度はデュラハンの足元の土が大きく盛り上がり、首なしの騎士を天高く打ち上げる。その際に首が胴体から離れてしまう。

 空中では身動きが一切取れない。それを見越して死人はデュラハンを空へと打ち上げた。そして落ちてくる的へと氷の礫を次々と放っていく。

 胴体部分は縦で粗方ガードをするも、頭部はその兜でしかガード出来ず、スリットから入り込んだ氷の礫はそのままデュラハンの頭部へとダメージを与えて行く。

 地面に落ちたデュラハンは直ぐ様頭部を拾い上げて元の位置に戻し、改めて死人へと向かって行く。

 しかし、先程と同じように土が盛り上がり、天へと打ち上げられてしまう。

 そしてまら、死人は氷の礫をデュラハンへと放とうと杖を構える。

 だが、構えた杖は氷の礫を放つ事無く、死人の真後ろへと回される。

 瞬間、杖と剣がぶつかり合う。

 デュラハンが死人の注意を一身に向けている間に、秋果は気付かれないように音と存在を消しながら死人の背後へと回り込み、隙を付いて剣を振り落としたのだ。

 しかし、不意打ちは失敗に終わった。それは足元に出来た水溜りが原因だ。そこに踏み込んでしまったが為に、水が跳ね、その音が雨音に混ざって死人の耳に届いてしまったのだ。

 故に、死人は秋果の不意打ちを防ぐ事に成功した。秋果は死人を仕留める事は出来なかった。だが、デュラハンへ氷の礫を放つ事を阻止する事は出来た。

 地面に落ちたデュラハンは頭を元の位置に戻して死人へと切り掛かっていく。

 秋果もそれに合せるように剣を振るう。

 死人は杖を振るい、秋果とデュラハンの剣戟を防ぎ、受け流す。その際に火焔や形を持った風を生み出して牽制する。

 秋果は火焔を避け、デュラハンは風を盾で受け切る。

 死人の風を防ぎつつ、デュラハンは再び死人へと肉薄し、剣を振り上げる。

 死人は、デュラハンの振り上げた剣に意識を向けつつも、剣を薙いでくる秋果にも注意を割く。

 それ故に、死人は気付かなかった。

 デュラハンが盾も取り外した事に。

 盾を取り外したデュラハンは、死人の意識が盾に向く距離も早く、盾の内側を勢いよく死人へと向ける。

 すると、そこから何故か血が生み出され、死人の顔へと大量に押し寄せて行く。

 死人がそれに気付いたのは眼前に迫った時であり、防ぐ事が出来ずに大量の血をその顔に受けてしまう。

 視界が塞がれ、死人は慌てて顔に付いた血を手で拭う。

 それが決定的な隙となり、前からはデュラハンの剣が振り下ろされ、後ろからは秋果による剣の一閃を受ける。

 直撃を受けた死人は大きく目を見開き、光となって消えて行く。後にはカードが二種類残される。

 一枚は【再生(大)】のカード。一枚は先程の死人――【リッチー:Lv1】のカードだ。【リッチー:Lv1】のイラストは闇の中に敷かれた人骨の絨毯の上にリッチーが佇み三日月のように口角を吊り上げている姿が描かれている。

 秋果はカードを拾い上げ、濡れたままのそれをホルダーへと仕舞い込む。

 そして、剣を腰の鞘に戻しているデュラハンへと近付き、首なし騎士の肩をぽんと叩くとぐいっとサムズアップを向ける。デュラハンは頷き秋果へとサムズアップを返すと、光となってプロセッサーへと向かう。

 プロセッサーから【デュラハン:Lv2】のカードが排出され、それを掴んだ秋葉は腰部のホルダーへと入れる。

 秋果のプロセッサーは継ぎ接ぎの人形を倒した際に手に入れたインストールカードによって機能が拡張され、クロスカードに描かれたモンスターを召喚する事が出来るようになった。

 召喚されている時間はクロスしている時間の半分程度しかないが、それも町の建設現場に佇んでいたブロック塀のゴーレムを倒した事によって得られた【機能拡張(エクステンション)】により、召喚時間がクロスした際の時間と同程度まで伸びた。

 この召喚機能により、秋果は召喚したモンスターと共にモンスターを相手する事が可能となっている。ただし、召喚している際は他のクロスカードを用いてクロス状態になれない。

 これは既にクロスカードがプロセッサーに挿入されている事に起因する。プロセッサーに同時に入れる事が出来るクロスカードは機能拡張がされない限り一枚まで。故に、クロスをする際は召喚が出来ず、召喚をする際はクロスが出来ない。

 どちらか片方しか選べないが、秋果は特に困っていない。

 元より、秋果はクロスする気が無く、召喚しかしていないのだから。

 事実、秋果はプロセッサーの機能が拡張されていない廃校で、クロスカードを用いずに継ぎ接ぎの人形を倒したのだから。その後、プロセッサーに召喚機能が加わり、それを用いるようになった。

 新たなクロスカードを手に入れても、秋果は絶対にクロスする事はない。召喚し、共に戦う道を選ぶ。

 この召喚と言う機能が与えられたのは、秋果の根幹に深く関わっている。プロセッサーの機能拡張は同じものを得る参加者もいるだろうが、今の所は基本的に一人一人違うものだ。

 クロスカードを得られるモンスターの種類も、参加者毎に異なっている。それもまた、参加者一人一人の境遇や精神状態、叶えたい願いによって決まる。

 俗に言うアンデッドのクロスカードを手に入れ、それらを仲間として召喚する秋果。

 特に疑問にも思わず、考察する事も無く、秋果は雨の降りしきる公園の中を進んでいく。

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