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僕は昔からそうだった。
ふつうの家庭に生まれ、ふつうの街で育って小学校・中学校に入り、ふつうの成績で卒業して、ふつうの高校に入学した。そして親の転勤の都合でこの学園に来た。きっと編入試験もふつうの結果だったんだろう。僕は白銀川学園に通う一万人の生徒のなかの、「大勢」のうちのひとりになった。小川を流れる落ち葉が水の流れには逆らえないように、僕は僕という運命に逆らわず、ただ流されてここまで来た。
中学生のとき、学校でよくつるんでいる仲間がいた。休み時間に遊んだり、放課後にどこかで集まったりした。彼らはいわば「悪ガキ」だった。いつも五・六人のグループで、教室でサッカーをして窓ガラスを割ったり、帰り道の小さな駄菓子屋から駄菓子を万引きしたり、近所の公園で野良猫をいじめたりもした。校舎内の非常ベルが鳴らされて消防が駆けつけ、授業が進まないこともしょっちゅうだった。
「他人とちがうことや、他人にはできないことを、おもしろがってやれるのがかっこいい」という風潮があった。彼らは周りや大人たちにに迷惑ばかりかけていたが、なぜか「あいつらすげえ」みたいな周囲の目があった。僕もそう思っていた。周りにはできないようなことを堂々とやってのける態度が、なんだかすごいと思っていた。だからも僕は、彼らにきらわれないように、「つまらないやつだ」と思われないように必死だった。中学生にとっての世界なんて、旅行のお土産のスノードームくらいに小さなちいさなものにすぎない。学校、クラス、仲間内のなかで「つまらない」と思われたら、それは社会的な死と同義だ。
ある日、いつものように仲間たちでいたずらをした。なにをしたのかはよく憶えていないが、爆竹を職員室に投げ込んだか、校長の車に落書きをしたか、またサッカーボールで窓ガラスを割ったんだろう。教師に見つかり、僕たちは笑いながら逃げた。しかし、足がもつれて転んでしまい、僕はひとりだけ教師に捕まった。職員室に連行され、生徒指導の教師にしこたま怒鳴られた。すっかり萎縮した僕は、気の利いた言い訳もできず、ただひたすら謝ることしかできなかった。共犯者である仲間の名前もしゃべってしまった。停学だとか親に知らされるだとか、そういったことが怖くて、僕はただひたすら「ごめんなさい」と頭を下げた。
教室に帰った僕を待っていたのは、仲間たちの冷たい視線と言葉。
「なに捕まってんだよ」
「は? 俺たちのことしゃべったの?」
「ごまかさなかったわけ?」
「ありえねえんだけど」
僕は目の前が真っ暗になった。僕の世界の小さなスノードームは真っ黒ににごっていった。そして仲間の放った一言で、僕のスノードームは完全に光を失った。
「使えねえ」
それから僕は、その仲間たちとは遊ばなくなった。自分が役に立つかどうかを気にするあまりだんだん人と交わるのも億劫になって、学校での居場所を見出せなくなった。僕にとっての残りの学校生活は、ただただ時間を消費していくだけのロスタイムみたいなものだった。相手に大差をつけられて、もはや逆転の道も見出せない捨て試合。卒業というホイッスルを待って、ただ息を殺しているだけの虚無の時間。
いまとなっては、悪ガキの役に立つことなんて褒められたことではない、と割り切ることはできる。でもやっぱり、中学のころの僕にとって世界は小さなスノードームだ。「使えねえ」という一言でにごった僕の世界が、光を受けて輝くことはない。
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