4−4

 四人目。

 僕と環先輩が諜報活動をはじめたあと、吹奏楽部員に当たった人数。そしてその四人目で僕らはついに引き当てた。

「藤堂? ……ああ、転校して行ったやつですか。知ってますよ」

「ほんとうにっ?」

「はい。入部したときにこっちから連絡先は聞いたんだけど、あいつぜんぜんしゃべんないから、一度も連絡したことはないです」

 気の良さそうな二年生のティンパニー男子は、環先輩にそう言った。となりで聞いていた僕も息を飲む。

 ティンパニーくんからメールアドレスと電話番号を聞き出す。彼は「いいのかなあ……」と初対面の僕たちに連絡先を教えることをためらっていたが、環先輩の刺激的な諜報活動に籠絡され、けっきょくはちゃんと伝えてくれた。

 スマートフォンの画面にならんだ、記号と番号の羅列を見つめる。

 ついに手に入れた。藤堂芽以の連絡先だ。

「どうしよう」

「連絡をとりましょう」

「出てくれるかな」

「まずはメールを送るんです」

 僕たちは藤堂さんに送るメールの文面をしたためた。白銀川学園の生徒会役員であること、桐宮さんはいま生徒会で総務をやっていて僕たちの友人であること、半年前に吹奏楽部で起こった事件について調べていること……。言いたいことや訊きたいことがたくさんあってずいぶん長文になってしまったが、向こうが読んでくれないと元も子もないので、とにかく簡潔に、単純に、彼女に伝わるようにした。「きみと連絡を取りたい」ということを。

「……送りますね」

「……ええ」

 画面に触れる。「送信」ボタンの色が反転し、「メッセージを送信しました」という文言が浮かび上がった。

 僕たちは黙って画面を見つめた。画面上には僕たちの書いたメッセージだけが表示されているままだ。はたして彼女に届くんだろうか。僕たちのこのメッセージは、見ず知らずの藤堂芽以に届くんだろうか。

 考えてみれば、ティンパニーくんが彼女と連絡先を交換したのは彼らが吹奏楽部に入部したときだ。つまり一年前。それから藤堂さんがアドレスを変えている可能性は否定できない。しかも彼女は転校したんだ。人間関係を清算する意味で、アドレスを変えている可能性は高い。

 僕は首を振った。悪い方に考えちゃだめだ。やっと掴んだ真実の尻尾なんだ。藤堂さんから話を聞くことができれば、阿久乃会長が言っていた「夏日の気持ち」とやらを知ることができるかもしれないんだ。その真実に触れることができれば、僕が阿久乃会長の生徒会活動の役に立てるかもしれないんだ。

 そう、阿久乃会長の……。

「……」

 僕は阿久乃会長のために動いている。今回の吹奏楽部の事件だって、阿久乃会長の行動の真意を探って暴こうとしている。それはひとえに、きっとみんな勘違いをしているからだ、という信念にもとづいている。きっと阿久乃会長は桐宮さんのためを思ってあんなことをしたんだ、という確信にもとづいている。

 でも会長は、阿久乃会長は、さつき会長が柊政権襲撃の一連の事件の犯人だと決めつけている。もし僕が会長の肩を持てば、必然的にさつき会長が犯人だと認めたことになる。それでいいのか? 自分の気持ちに嘘をついたまま、こんなことをしていていいのか?

 じゃあ、僕はなんのために、こんなことをしているんだ?

「……レンくん」

 環先輩の声で僕の思考は現実に引き寄せられた。ふたたびスマホの画面に意識を戻す。すると、僕たちが送ったメッセージの横に、待ち望んでいたふたつの文字が表示されている。

「『既読』になったわ」

「……そうですね」

 藤堂芽以はアドレスを変えていなかった。僕たちのメッセージは届いた。返事を待った。やがて、「連絡を取りたい」という僕たちの問いかけに対する、彼女の答えが浮かび上がった。

『はい』

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