ふたつ星極光少女
音海佐弥
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「星を掴むんだ」
彼女はそう言って、僕のとなりで天高く腕を伸ばした。何万光年も離れた夜空の星々に、150センチにも満たない小柄の少女が、精いっぱい手を届けようとしている。
「星、ですか」
「そう、星だよ」
彼女の瞳を見据える。遠く輝く星の明かりを湛えた瞳。この世界に存在する奇蹟という奇蹟を集めたみたいな、オーロラのように煌めく光。
「会長の身長で届くんですかね。生徒会室にある戸棚の上の荷物も、僕が手伝わないと取れないのに」
「ぐっ……ぎゅ、牛乳はキライなんだ! あんなものは悪魔の血だ、人間の飲むものじゃない!」
ぷりぷり怒る彼女を眺め、僕は笑った。悪魔の血は白いのか。牛の乳を吸ってすくすくと育っていく悪魔の姿を想像すると、なんだかおかしかった。
「知ってますよ」
身長の話ではないことなど、よくわかっている。これは彼女の信念の話。彼女の存在意義の話。そして、ただ広いこの世界で僕たちがめぐり逢った、その奇蹟の価値を問う物語。
「あたしは、ま、負けないよ」
彼女はそう言って、時計台の縁に立ち上がった。その脚が小刻みに震えているのがわかる。威勢を張る声も震えている。高所恐怖症なくせに……まったく、無理しちゃって。こうやってへんなところで意地を張って、だれよりも高い場所に立とうとしている。
「それも知ってます」
僕のその言葉に、彼女は満足そうに微笑んだ。そしてふたたび手を伸ばす。
彼女の笑顔になんだか照れくさくなった僕は、横に立ち並び、おんなじように腕を伸ばした。夜空の星は依然と遠く、右手は虚空を掴むばかりだ。
でも、彼女と一緒なら、いつかあの星を掴めるような気がする。
この少女となら、なによりも高いあの星々に触れることができる気がする。
僕は横に視線を移す。しずかに星々を見据えるその両眼は、やはりオーロラの輝きを放っている。
——星を掴むんだ。
僕は静かにうなずいた。
その言葉が、彼女の彼女たるゆえんだ。
「なんだ、あたしの顔を見つめたりして。なんかついてるか?」
「……なんでもないです」
彼女は不思議そうな顔を僕に向ける。それを尻目に、僕は星空に視線を戻した。その戻した先に、夜空を駆ける一条の光が見えた。
「あ、流れ星」
僕がそうつぶやくと、彼女は「えっマジ? 願いごと言わなきゃ!」と言い、目をつむって呪文のように願いごとを唱えはじめた。僕もそれに見習い、流れ星に願いを掛ける。
願わくば、僕もそのとなりに立っていられますように。
目を開くと、流れ星はとっくに夜の闇に消えていた。でも、それでいい。僕の歩く道を示してくれるのは、夜空を瞬間駆けるだけの流れ星じゃない。オーロラの輝きを放つ彼女の瞳だ。星もかすむような、奇蹟みたいな僕らの光だ。
白銀川学園第二生徒会長——
それがこの光の名前だ。
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